覇王1
覇王とは絶対的な力を持ち、単独で世界を揺るがすことのできる力を持つもののことを示す。
「アルバート様、そういえば覇王の集いがもうすぐですね。」
俺の付き人がそういう。
「そうだったな。」
『覇王の集い』というのは10年に一度、全ての覇王が集まり、世界の秩序を乱すものがいないかを確認する会議だ。
「……めんどくさい。」
「魔界のナンバリング第1位であるアルバート様が、何をおっしゃいますか。」
魔界に存在する魔族は魔法の効果か何かは分からないが、自動的に強い順にナンバリングされる。その範囲は1から10までだ。しかしなぜか『始祖の血』が流れている魔族は影響されない。だから魔貴族はここに含まれないということになる。
「魔貴族ですらあなたにはうかつに手を出せないではないですか。」
魔貴族どもは俺を目の敵にしているようだが、俺はこの態度を崩す気はない。魔界において強さこそが正義。俺に力で勝てない時点で、命令される筋合いはない。
「わかったよ、行く。」
「必ずですよ?」
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「これより覇王の集いを始める。」
周囲を見渡すとやはり異常な存在しかいない。俺ですら気を張っていなければここに座っていられないほどだ。
「なんでお前が仕切ってるんだ?」
「新参者がでしゃばるな。」
そしていつものようにもめ事が起きる。
覇王は全部で8席。全てが世界を揺るがすほどの力を持っている存在だ。
一席:龍王・ドラゴ
二席:三大精霊(ペルシエ、ロズモンド、セレーナ)
三席:大天使・ウリエル
四席:魔界ナンバリング第一位・アルバート
五席:吸血姫・ルナ
六席:魔界ナンバリング第二位・グレゴリオ
七席:共和国『プリズム』第0番・ウルリーカ
八席:?
席によって強さが変わるとはそのようなことはない。しかし見てわかるように一つの席につき一人しか座ってはいけないという決まりもない。例えば三大精霊は三体で一つの席を保有している。
「うるせぇ!」
最近覇王の集いへと参加したのが魔界ナンバリング第二位のグレゴリオだ。気性が荒くすぐにけんかを始めるようなやつだが、実力はある。
「口を閉じろ。」
「……ちっ。」
魔界において強さは絶対。一度俺はグレゴリオと戦い勝利している。俺の言葉は無視できないはずだ。
「改めてこれより覇王の集いを始める。」
そう宣言するのは龍王のドラゴだ。今はかなり人間に近い姿へと変えているが、実際は巨大な龍の姿をしている。龍族とはまた違う存在らしい。
「まず、報告だ。八席が死んだ。」
「……一体だれが、いやだいたい予想はついてる。」
するとみんな一斉にグレゴリオの方を向く。
「あぁ、俺だ。」
「勝手な真似をするでない!」
龍王の発言にこの空間が揺れた。
「悪いとは思っちゃいねぇ。ここには雑魚はいらない。」
……魔族らしい考え方だと思う。確かに俺もグレゴリオの意見には賛成だ。雑魚がいくら増えたところで無駄でしかない。
「この話は前もやった。で、次は誰を補充するの?」
共和国『プリズム』第0番がそういう。こいつは唯一の人間だ。しかしその真っ黒い瞳からは得体のしれない圧力が漏れ出ているように感じる。
「別に、いなくてもいいではありませんか?」
大天使がそういう。ちっ、聖族が近くにいると気分が悪い。
「そういうわけにはいかん。」
「私が座ってもいいわよ?」
そういうのは三大精霊の一人ペルシエ。海、川などの水系統を統べる精霊らしい。
「はぁ?勝手に決めんな。お前が座るくらいなら、俺が座る。」
大地を統べる精霊のロズモンドが文句をつける。褐色の肌は魔族に似ているが、その白い髪が魔族ではないことを証明していた。初めて見たときは男のようだと思ったが、体形を見ると女であることが分かる。
「あなた方なんかよりも適任の方を呼んでまいりました。だまって立っていてください。」
ペルシエとロズモンドがその言葉の主、セレーナをにらむ。生命を統べる精霊らしい。見ての通り三大精霊は仲がいいとは言えない。
「それは、誰だ。」
龍王があたりを見渡すが、俺たち以外の気配はしない。
「おーっほっほっほ!」
……うざったい笑い声が響く。吸血姫・ルナだ。吸血族(魔族)だが、始祖の血が流れているためナンバリングには加えられていないようだ。
「もうすでにいるわよ?」
ルナの声とともに、八席の近くに人がいることが感じられた。……いつの間に。俺ですらいままで感じることができなかった。
「……ルナ、一体ここはどこ?」
おそらくだが時空間魔法を使ってここまでやってきたのだろう。
そしてそいつはメイド服を着ていた。




