ヴァイオレットの隠し事
「あっ、スカーレット様!」
「ヴァイオレット、どうしたのかしら?」
「明日以降、暇な時間とかありますか?」
暇……という言い方は失礼だっただろうか。スカーレット様に暇な時間などないというのに。
「そうね、明日の20時以降なら空いているわ。」
「あの……街に、行きませんか?」
「えぇ、いいわよ。」
そうだよね。やっぱりスカーレット様は忙しいし休息も……あれ、いい?
「ほ、本当ですか!それでは、明日の20時にお部屋までお迎えに参ります!」
「ええ。」
そう言ってスカーレット様は仕事へ戻っていった。まさか本当にスカーレット様と出かけることができるとは思わなかった。勇気を出して誘った甲斐があったというものだ。
—
「ふぅーん、明日スカーレット様と出かけるんだ。」
「なっ、なぜそれを知っている!」
もう寝るというのにアシュリーが私の部屋でぐだぐだしていた。
「心を読んだ。」
「盗み見などっ!」
アシュリーの方を睨むが、そんなことどうでもいいように私の部屋の棚からチョコレートを取り出す。
「魔法で守ってればいいじゃん。」
「うっ、まあ、そうだが。」
観測系の魔法に長けているアシュリーだが、それらは防御魔法で防ぐことが可能だ。だから多くのものは常に心を読まれないように防御魔法を張っている。
「浮かれすぎてて、薄くなってた。」
「うるさい!」
私は手元にあったクッションを投げつける。クッションというのも異世界の知識が元で作られたものだ。
「お、チョコレート美味しい。」
「勝手に食べるな。」
すでに2つも食べられたチョコレートの箱を奪い返す。密かに楽しみにしてたのに……。投げつけたクッションは地面に落ちる前に浮遊し、私の元まで帰ってくる。
「ヴァイオレットって、見かけによらず可愛いもの好きだよね。」
「そんなことはない。」
と言ったものの、正直可愛いものは好きだった。
「この歳になってハートのクッションとか……くふっ、くっ」
「笑うな!」
べ、別にいいではないか!可愛いものが好きなくらい!
「ま、いいけど。」
そういうと次は棚の中からクッキーを取り出す。
「ま、待て!それは限定のクッキー……」
この前街に出た時に買った、数量限定のクッキーである。早朝から並んでやっとの思いで購入したのだ!
「このチョコレートをやる!だから、それだけは……!」
「ほんと?」
そういうとアシュリーはその箱を棚へ戻し、私の持っている箱からチョコレートをひとつ取る。アシュリーがチョコ好きでよかった……。
「早く帰ってくれ。私は寝るのだ。」
「どうせ明日のことが楽しみですぐ寝られないんでしょ?もうちょっといいじゃん。」
「い、いや、すぐに寝るぞ。私は。」
「どうだか。」
いや、すぐに寝られるはずだ。……おそらく。
「本当スカーレット様のこと、好きだよね。」
「す、好きとかそういうことではなくてだな。単純に……」
「はいはい。わかったから落ち着いて。」
単純に息抜きをしてもらいたかったからだ。本当だぞ?だが、スカーレット様が好きだということは事実だ。初めて剣を交えた時の感動は忘れられない。戦いの中で私より強くなるという天才だ。
「でもほら、雷の時」
「あぁーーっ」
私はアシュリーの口を手で塞ぐ。他のメイドたちに聞かれたらどうするのだ!私が雷が怖くて眠れない時こっそりスカーレット様の部屋へ行っていたことが、なぜかアシュリーにはバレているのだ。
「んっ、ん、んん!」
魔法による足音の遮断、さらにはその魔法すら感知されないように細心の注意をはらったというのに……。と考えていると、背中が叩かれていることに気づいた。
「あ、すまん。」
「ぷはぁっ!の、脳みそが出るかと……」
そんなに力を入れて押さえつけたつもりはないのだが……。アシュリーの魔法障壁の上からでもダメージを与えるくらいには強く押さえつけてしまったようだ。
「まあ、確かにあの白い髪は綺麗を通り越して、神々しいしね。」
「その通りだ。」
スカーレット様は肌の色が他に比べて白い。また髪に関してはその肌よりも『真っ白』なのだ。
「あの白い肌とかに返り血がつくと、なんかさ、ゾクッとしない?」
「わかる!あのなんとも言えない恐ろしさが魅力的なのだ!」
真っ白いキャンバスに描かれる、もはやそれは芸術作品のようなものだった。
「後は……」
「それとな……」
……結局スカーレット様の話が盛り上がってしまい、気づいたら外が明るくなり始めていた。まあ、結局明日のスカーレット様とのお出かけが楽しみで寝られないのだから、こんな夜の過ごしかたも悪くはない。