【菅谷莉乃愛視点】母との約束
幼稚園を卒業すると、これまでと生活は一気に変わった。
あっくんの家と私の家は、歩いて3分ぐらいと近いは近いのだが、住所の関係で学区が違い小学校が別々になったのだ。
小学生になったら、どんなお友達出来るかな~。とか、その頃はワクワクした気持ちでいっぱいだったけれど、やはり小学校が別ともなるとあっくんとは一気に疎遠になった。
家は近いのでたまに見かけることはあっても、お互い気恥ずかしいし話しかける話題もないし軽く挨拶するぐらいになって、そのうち挨拶すらしなくなった。
そもそも、1~2カ月に1回見かける程度しか会わなければ、男女の違いもあるしそうなっていくのは仕方ないのかもしれない。
小学校でもいっぱい友達はできたし、特にそれで気に病むこともなかった。
小学生の高学年になると、わたしは周りから可愛い可愛いと言われまくり、わたしがバレンタインのチョコを誰にあげるのか? みたいな感じで男の子たちはみんなそわそわしたり、学校のアイドル的な存在になった。
6年生になろうという頃には、少しずつ胸も膨らみ始めて、友達のお母さんからは「大人っぽいね~」と言われたりもした。
確かに、お母さんは年の割には若く見えるし、きれいだし、スタイルもいい。お父さんも、中身はダメだけど見た目は結構イケメンだし。
しかし、その頃からお母さんが体調を崩して仕事を休むことが多くなった。
「お母さん、大丈夫?」
「大丈夫だよー…ゴホゴホ。ちょっと寝れば元気になるから!」
「約束だよ!」
「うん、約束」
そうお母さんと話して、私は洗濯物を畳みだした。お母さんが大好きだった私は、なんとかお母さんに元気になってもらおうと、その頃からお母さんの手伝いをすることが多くなった。
しかしお母さんは元気なっては、体調を崩してはを繰り返し、中々元通りにはならなかった。
もうすぐ小学校も卒業というある時、その時は元気な時だったお母さんが話しかけてきた。
「りのあ、あっくん覚えてるー?」
「あー、うん、覚えてるよ」
「今日久しぶりにコンビニであっくんのお母さんと会ってさ、あっくん四谷中学に行くんだって」
「どこなのそれ?」
「日本で一番頭いいぐらい頭のいい中学校だよ!」
「へーそうなんだ」
「なに、興味ないのー?」
「んー、あっくんとは小学校になってからはほとんど話したこともないし…」
「まぁそうよねぇ、小学校一緒だったらよかったんだけどねぇ」
「……」
そうして、小学校を卒業して、私はそのまま学区内の中学校に進学した。
友達のお兄ちゃんやお姉ちゃんによって、わたしは入学前から美少女が入学してくると噂されて、入学早々色んな人に話しかけられた。
同じクラスの友達から、可愛いやスタイルがいいと言われ、絶対モデルになったほうがいいと勧められ、中1の段階で胸はCカップあったからか男子からはなんか少しいやらしい目で見られ…。
そして、中学に入学してから1カ月後、お母さんが死んだ。
体調がそれほど良くないながら、どうしても外せない仕事があると仕事に向かい、仕事先で倒れてそのまま死んでしまった。
ずっと体調が悪かったのもあってか、心なしか覚悟ができてしまっていたのか大泣きするようなこともなく、すぐにこじんまりとしたお葬式が開かれた。
遺影のお母さんの写真は、わたしがお母さんのおさがりのスマホで撮影したベストショットで、それを見た時はしくしくと涙が止まらなかった。
お葬式が終わってから、我が家は大きく変わった。「家賃が高いから」という理由で、急遽引っ越しとなり、入学したばかりの中学校も転校。
新しい家も、公営住宅1択ですべての荷物を持っているわけではないと。
私は、どんなに小さくてもいいから自分の部屋が欲しい。それがないなら家出するとまでお父さんに言い、ものすごく嫌な顔をされたがなんとか自分の部屋を確保することができた。
そう、この頃お父さんの視線が嫌だったのだ。
なんか子供を見るというより女を見るような感じで、心底気持ち悪く、自分の部屋がないと生きていける気がしなかった。
そうして決まった新居といっても古い公営団地だが、引っ越し当日も荷物の片づけもほどほどで、まだ段ボールがほとんど残っているにもかかわらず、お父さんとお兄ちゃんは、飲んでくるだの遊んでくるだので家から出ていった。
私はとりあえず、自分の生活に必要なものだけはきちんと整理し、自分の部屋だけはきちんと片付けて、その日は眠りについた。
次の日、一人でコンビニで買っておいた朝食を食べ、新しい学校の制服を着て学校に行った。新しい学校でも美少女が転校してきたと一気に話題になった。
「りのあちゃん前はどこに住んでたのー?」
「モデルやってたりするの?」
「大人っぽいし彼氏とかいたり?」
と、女子に囲まれ質問ざんまいだ。
すぐに友達もできて、男子の目線は相変わらずだけど、転校しても学校生活は特に問題はなかった。
対照的に、家はどんどん荒れていった。
父と兄はなにもしないので、流石にゴミは捨てないと私の部屋まで影響が出るのでゴミだけはわたしが掃除していたが、他はわたしが自分の生活に必要ことしかやらない為、ひどいものだ。
更に父も兄も家の中でタバコを吸うようになり、一回服が臭くなるからやめて欲しいと怒ったが、自分の家なのになんでダメなんだと聞き入れられることはなかった。
学校では友達がいっぱいできて、皆色々よくしてくれて、過ごしやすかった。
しばらくそんな生活を続けていると、学校では同年代、年上色んな男子から告白されるようになっていった。
付き合うとかよくわからないし、付き合ったらなにかいいことがあるのかもわからず、友達に恵まれていることもあって、全てお断りした。
しかしその頃に、家になんかガラの少し悪い兄の友達も来るようになった。たまに彼女らしき人と帰ってきたかと思うと妹がいるにも関わらずセックスを始めたり、もう完全に家庭崩壊だ。
この家は壁が薄いから丸聞こえなのだ。
父の視線は、もうあからさまに他の男子が向けてくる視線と一緒で、学校に行ってる間に下着が盗まれでもしたら怖いと思って、下着のタンスに鍵をかけるようになった。
家庭環境がそうなると、やはり自分にも影響が出てくるのか、わたしは制服を着崩しだし胸元を少し開けて、いわゆるギャルっぽい感じになっていった。
ただ、お母さんの体調が悪いときにわたしに話した約束だけは頭に残っており、交友関係もやばくなっていくという感じにはならなかった。
「りのあ、どんなことがあっても悪い人と一緒にいちゃダメ。どんなことがあっても悪いことをしていいことにはならない。挫けずそういう自分をしっかり持っていれば、いつかきっとちゃんとした王子様が助けてくれるから。お母さんと約束ね。わかった? プリンセス」