新たな日常
俺と雪菜さんが今の時代に似つかわしくない、契約書のあるガチ目の婚約をした後、一緒にいる皆は変わらないけど、状況は色々変わった。
1年程前だったろうか?
華蓮さんとgoodさんが付き合いだしたのだ。
goodさん亮太って言うらしい。
華蓮さんが亮太亮太言うから覚えてしまった…。
なんでも華蓮さんにベタ惚れのようで、一応goodさんが年上らしいけど、もう華蓮さんの完全言いなりらしい。
まぁ華蓮さんもなんだかんだ恥ずかしがったりしてるし、結構好きなんだと思う。
そして、恐らく莉乃愛は直人と付き合うのだろう。
まだやりたいことがあるからそう言うことは考えない!
と莉乃愛は言っているが、高校時代から考えればもう5年近くも直人はだれ一人彼女を作らず、莉乃愛にやんわりアプローチしているらしい。
華蓮さん情報では。
しかも莉乃愛も、まんざらではないが、まだやりたいことがあるからと、そういう関係にはなっていらないらしい。
こちらも華蓮さん情報。
皆一歩ずつ大人になり、それぞれの状況は変わってきているけど、皆一緒にいることは昔と変わらない。
言いたいことを言えて、隠し事をしない5人。
陰キャな俺の日常は、すっかり様変わりしてしまったけど、今は今で悪くない。
かろうじて話せる二人の美女が抱える問題を、あの手この手で解決してきた高校最後の1年間と卒業後の1年間。
それから4年間も色々あったが、こうやって皆と一緒だ。
そしてこれからの長い人生。
相変わらずかろうじて話せる人数は極端に少ないけど、雪菜さんと莉乃愛と華蓮さんとあとついでに直人ときっとずっと過ごしていくんだと思う。
それが俺のこれからの日常だ。
そして俺は2年後、斎藤教授と共に、世界初のホログラムディスプレイ向けOSを開発し、ホログラムディスプレイハードウェアパッケージと共に、全企業に公開した。
OS自体は無料だが、スマホと同じようにアプリケーションでの課金の際に各企業はマージンを払い、ユーザーはホログラムウインドウ外に表示されるポップアップ広告を無効にすることが有料だ。
これによりエンゲージグループは膨大な収益をあげることとなった。
「ねーねーお母さん! カワイイ?」
「たっくんは男の子だから、かわいいじゃなくてカッコいいがいいんじゃないー?」
「おかーたん、カワイ?」
「かりんは女の子だからねーかわいいよー!」
湯月匠5歳、湯月夏鈴2歳。
俺と雪菜の子どもだ。
するとインターホンが鳴った。
雪菜が出ると、いつも通り、女の子が入ってきた。
「たっくん! 今日は砂場で遊ぶって約束した!!」
「あーそうだったー。お母さん行ってくるねー?」
「塀の外に出ちゃだめよー」
「はーい! りっちゃんいこう!」
八代明莉5歳。
直人とりのあの子どもだ。
エンゲージが莫大な利益を稼ぎ始めたことにより、発明者の俺と斎藤教授の警備強化と言う名目で、直人は小学校の跡地を買い取り、塀で囲った5階建てのマンションを建てた。
1階につき一部屋でワンフロアぶち抜きだ。
1階は一番出入りが多いので八代家。
2階は華蓮さんとgoodさん夫婦。
3階がうちで、4階が斎藤教授夫妻だ。
5階は研究室。
もちろん土地はもっと広いので、マンションの前が小さな公園のようになっており、このマンションに住む子どもの専用公園になっている。
24時間警備で警備員を門前に常駐しており、そこら中に防犯カメラも設置されていることから、安心して子ども外に出せる。
斎藤教授は大学を辞めて、今はxゲージ専属で研究員になってくれている。
国家予算より開発費が出そうなところで自由にやれる環境なんて最高だ! と直ぐにここに引っ越してきた。
あ、ちなみに次男君はsaitou_kunだったよやっぱり。
斎藤教授にチートを教えて、斎藤教授が調べたらビンゴ。
人様に迷惑かけるニートなんていらん! と、一人暮らしさせたらしい。
マンションの計画を直人が考えたタイミングで、まじでそれならみんな一緒にいれるじゃん! と、莉乃愛も華蓮さんも次々と結婚した。
莉乃愛はたまーに活動してるけど、雪菜はもう完全に引退して完全専業主婦。
エンゲージはもはや芸能事務所ではなくなり、ホログラムディスプレイプラットフォーマーだ。
それに伴いつい先日グループの社長が、直人の親父さんから直人になった。
直人の親父さんは、芸能事務所部門の子会社の社長になるらしい。
あの時莉乃愛と華蓮さんと雪菜に言われて、壊れないようにってはっきりさせたのはよかったのかもしれない。
お陰で今でもこうやって皆一緒だ。
子ども達の話し声を聞きながらそんなことを思って、徹夜明けの目をこすりながら自分の部屋を出ると、
「おとーたん! ねむたい?」
「んーどうだろう」
「ちゃんと寝てね? あらたも人間なんだからね??」
「あ、うん…」
「わかればよし!」
雪菜はそう言ってニコッと笑った。
俺は寝室に行き、ベッドに仰向けに倒れ込むと、一緒に入ってきた雪菜が、
「お疲れ様。お休みなさい。ちゅ」
として電気を消して出ていく。
なんだか人らしい幸せな家庭が俺なんかに存在してしまっているのが、未だに実感がわかないが、うれしいものだな…。
俺はそう思いながら眠った。




