筋金入り
「み、皆、久しぶり…」
少しためらったように言いながら雪菜さんが会議室に入ってきた。
「ゆきなお疲れー! 本当心配したよー!!!」
「ゆきなお疲れ様ー! とりあえずよかったよーー」
莉乃愛と華蓮さんがそう言って、部屋に入ってきた雪菜さんに駆け寄る。
雪菜さん、迷惑かけちゃってどうしたらいいかなって感じなんだろうな。
でも、莉乃愛や華蓮さんがいると、空気自体がそんなこと気にしなくていいからって雰囲気になる。
こういう時に、あの底抜けに前向きで明るい莉乃愛と、コミュニケーションお化けの華蓮さんがいると本当助かるな…。
俺と直人だと、どうしてもなんだかしんみりしちゃいそうだもん…。
「ま、まぁ、お二人とも、まずは弁護士さんのお話を聞きましょう」
小平さんがそう言ったので、莉乃愛と華蓮さんは雪菜さんを引っ張って、雪菜さんの両脇に座った。
弁護士が対象者と直接交渉し、成功したということで、再び一連の関係者が集められた。
「それでは、皆さん揃いましたので、始めさせていただきます」
「お願いします」
直人がそう言うと三津屋先生はボイスレコーダーとパソコンを机に出した。
「今回の対象者は荒木圭人さん28歳。現在都内の家電量販店で働いています。そして私との話の中で今回の犯行を認めています。一部始終ボイスレコーダーで録音していますので、重要部分お聞きください」
そういうと三津屋先生はパソコンに開いてボイスレコーダーからコピーしたのであろう音声を再生した。
「探偵が後をつけていて、合流し接触したのは駅から日向ゆきはさんのご自宅に向かう途中の路上です」
「荒木圭人さんですね? 私エンゲージという芸能事務所で顧問弁護士をしている三津屋と申します。あ! 逃げないでください! 逃げるといいことないですよ???」
「はぁ…とりあえず、私達は防犯カメラの映像を、日本の著名な大学教授にお願いし解析してもらいあなたを特定致しました。現在28歳。家電量販店勤務。出身は四国。両親と妹がいらっしゃりますね。まだまだ分かっていることはありますが、お伝えしたいのは、ここまで分かっている私達が解析した物を警察に提出すれば、どうなるかわかりますか?」
「ここではなんですから近くのカフェでお話ししましょう」
「…はい……」
「この後、近くの個室のあるカフェに移動しました」
「荒木圭人さん。まずは、なぜこのようなことを行ったのか教えてください。脅迫はれっきとした犯罪ですよ?」
「……なんのことだ…」
「はぁ…石渡弁護士お願いします。こちら監視カメラの画像です。これあなたですよね?」
「……知らない…」
「んー、まぁ別に我々はいいんですが、ではこちらをご覧ください。エンゲージのビル前を移動したこの人はまずこの防犯カメラに映ってます。次にこの防犯カメラ。そして別角度のこの防犯カメラ。あ、これが同一人物であることはシステム的に判別しておりますし証拠能力もあります」
「…」
「そしてこの防犯カメラ。牛丼屋さんのようですね。そしてこのスマートフォンの画面。これを現代の先端技術で解析すると、こうなります」
「なっ……」
「そしてこの防犯カメラの横顔や他の防犯カメラから推定される、犯人の顔はこれです」
「えっ…」
「確かに正面から映っているものがないので、もしかしたら違うのかもしれませんが、びっくりするほど荒木さんと似ていますね? 背格好もほぼ同じ。Limeのトーク相手はkawamuraさん。会話の内容から推測するに、お仕事の上司の方とかですかね?」
「…」
「ちなみにこれらの映像は、全て合法的な手段で閲覧させていただいておりますので、その点はご認識ください。ここまでわかっているんですが、まだ認めて頂けないですかね? 我々としては正直にお話しいただけるのであれば、会社側にかけあうこともやぶさかではありませんが?」
「……」
「もしご自分ではないとおっしゃるのであれば、Limeを見せてください。アカウント名やアイコンが違うはずですよね?」
「……なんなんだよ!!!!」
「いえ、だからエンゲージの顧問弁護士です」
「どうしろっていうんだ!」
「まずは脅迫文はあなたがやったのかどうか教えてください。ついでに、日向ゆきはさんが解説していたOPEXの大会時のYukiへのコメントなんかもどうなのか教えて欲しいですね」
「あぁ! 全部俺だよ! そもそもあいつが悪いんだろ! なんだよYukiって!!」
「なるほどなるほど、犯行は認めて頂けると…。それで、あいつというのは日向ゆきはさんですかね?」
「そうだよ! 日向ゆきはってか白風あげはだけどな!!!」
ここで三津屋先生は一時停止した。
「私も先程ネットで調べて知ったのですが、日向ゆきはさんは白風あげはさんだったんですかね?」
「は、はい…」
白風あげは時代からのファンか…。
筋金入りだな。
「そうだったんですね。とりあえず続けます」
「白風あげはさんとは?」
「知らないのかよ! 日向ゆきはは転生前白風あげはだったんだよ! 俺はその頃からずっと追いかけてたんだ!!!」
「は、はぁ…転生前…? 一旦置いておきましょうか。ではそのあげはさんがどんな悪いことをしたんでしょう?」
そりゃ三津屋先生「?」だろうなぁ…。
日常生活していて転生なんてしないもんね…。
「はぁ? 俺が一番最初に見つけてやったんだぞ? 俺が一番最初にコメントしてやったんだぞ? だからあいつの今があると言っても過言じゃねぇ! 日向ゆきはへの転生は認めてやるが、Yukiは認めない! なんだよ! リアルでの活動現場なんていらねーんだよ俺等には! そんなことする暇あるなら、ボイスやらASMRだせや!!!!!!!」
「なるほど。一番最初に見つけたというのは?」
「あいつがあげは時代の一番最初の配信で俺が一番最初にコメントしてやったんだよ! そのおかげだろ! だったら俺の言うこと一つぐらい聞けよ! Yukiの公表は日向ゆきはには必要ねーんだよ! 日向ゆきはの邪魔だ! Yuki消えろ!!!」
それをきいた雪菜さんがボソッと、
「ま、まさか、もんたさん…?」
三津屋先生もそれを聞いて再生を止めた。
「もんたさん?」
「は、はい。私が初めてバーチャル配信者として配信をしたときに一番最初にコメントしてくれた人なんです。アークさんとも知り合う前です」
「なるほどなるほど…この後は、とりあえずはちゃめちゃな論理で自分の要望を言っているだけなのですが、それを聞くと繋がる部分がありますね」
「少しコメントで応援してくれたんですけど、直ぐになんか気持ち悪い感じのコメントしてきて…。他の見てくれていた方が守ってくれたんです」
「そうだったんですね。とりあえず要約すると、リアルでの活動している姿なんて見たくもないから、2次元で生きていけ的な感じでしたが…聞きますか?」
三津屋先生は直人の方を見た。
「いや、いいです。そこは後で俺が聞きます。結果の部分をお願いします」
「わかりました」
直人本当頼りがいあるな。
雪菜さん聞いてもいい気持ちになることなんてあり得なそうな内容だもんな。
しかし随分とめちゃくちゃだ。
てか俺が思っていた、女性バーチャル配信者のファンの人の怖さをまさに体現したような感じだ。
いい人もいっぱいいるんだけどな。
一人こういう人がいると全部壊れてしまう。
俺はそんなことを思いながら続きの音声を聞いた。




