エンゲージ総力戦
「私、エンゲージという芸能事務所の顧問弁護士を務めております、三津屋と申しますが…」
ビルの管理人室で、そう言って名刺を出す三津屋先生。
あの後、直人と小平さんが、大通り沿いの歩道が映っているであろう監視カメラが設置されているビルやお店を探してくれた。
幸いなことに大通り沿いにはお店やショールーム等も多く、結構な数の監視カメラがあった。
斎藤教授が戻ってきて、三津屋先生が来たところで、教授と相談して監視カメラの映像を見せてもらいたいビルに片っ端から交渉している。
「本社に確認しないと」と言う時間のかかりそうなところは、一旦確認をお願いして後で伺う旨伝えてすぐ次へ。
その場で見せてくれるところは、一旦見て、それらしき人が映っていたら、データをお借りしてコピーして、斎藤教授が持っていた画像一致判定のアプリケーションに突っ込んで、一致判定をする。
その脇で三津屋先生が、誓約書? 契約書? みたいなものを作って、お渡しする。
「お、プレスリリース発表されたな」
「あ、そうなんだ」
ノートパソコンで作業する俺の横で直人がそう言った。
「夕方ごろに雪菜ちゃんが配信する予定になってるから、それがどうなるかって感じだなぁ」
「…なるほど。斎藤教授、一旦これでここの監視カメラの映像は終わりです」
「んー…なかなか決定的なのが手に入らないねぇ」
「そうですね…サングラスは外してましたが、まぁそれだけだとそこまで情報増えないですもんね」
「そうなんだよねぇ。でも、あれだね。私達の作った拡張の仕組み、結構いい再現度してたね」
「そうですね…目の部分は結構似てますね」
そんなことを話していると、直人に電話がかかってきた。
「あーなるほどですね? 少しお待ちくださいね」
直人はスマホから耳を離すと、
「道路の向かい側の自動車のショールームに結構広範囲にこっち側も映ってるカメラあったらしいけど、それも見てみる?」
「向かい側か…」
「見てみよう! 距離的にちょっと個人の情報は拾えないと思うけど、動向が追えるかもしれないし!」
「了解です!」
直人はそう言うと、再びスマホを耳に当てて、
「あ、小平さん? 見せてもらえるか交渉お願いしていいですか? はい。直ぐ向かいますので」
と言って電話を切った。
「とりあえず行ってみようぜ」
「了解」
ビルの管理会社の人にお礼を言い、小平さんが見つけた自動車のショールームに向かう。
ショールームに着くと、既に小平さんが交渉してくれていて、監視カメラのデータが見れるようにバックヤードに連れていかれた。
「一致判定できるかなぁ」
そう言いながら、警備員の人が再生する監視カメラの映像を見ながら、髭をつまんで話す斎藤教授。
「あ、ここら辺ですね。時間的に…えっとー…あ、多分これだね!」
そう言って道の反対側に小さく映るその男を指さした。
「そうですね。服装が同じですね…あ、待ってください! 止めてください!」
監視カメラの端から見切れそうなタイミングで俺はそう言う。
「これ、この牛丼屋入ろうとしてませんか? ギリギリ入る所は見えないんですが」
「あ、本当だね。ここで右の方を向いて右に寄ったもんね」
「はい。もし牛丼屋に入っていたとすると、店内の監視カメラを見せてもらえたら、かなりの情報がありませんか?」
「牛丼食べてるからね。マスクも取るだろうし」
「とりあえず、この部分コピーして一致判定だけしましょう」
「そうだね」
そう言って急いで警備員さんにお願いして、データをコピーし一致判定をさせる。
映ってるサイズが小さいので、全箇所一致はしないが、部分部分で一致判定できた。
自動車ショールームの社員さんと警備員さんにお礼を言って外に出たところで、三津屋先生が直人に話しかけた。
「店内の防犯カメラの映像にはかなり個人情報が含まれている場合が多いので、チェーン店の物となると見せてもらえるまで時間がかかる確率が高いです」
「なるほど」
「少なくとも本部確認は間違いないでしょうし、他のお客さんも間違いなく映ってしまっているので、先方も弁護士確認等になる可能性があります」
「そうですか…では正攻法じゃない方法でお願いしてみましょう」
直人はそう言うと、スマホを取り出し電話しだした。
「あー親父? とりあえず手がかかりになりそうな監視カメラをみつけたんだけど、お店の中の店内監視カメラなのね。そのお店が、夏川りささんが今CM出てる牛丼屋さんなの」
「そう。それで、飲食店の店内監視カメラだと個人情報の兼ね合いで、見るまでに時間かかる可能性が高いらしく、親父から先方の社長さんとかにお願いしてくれない?」
「そうそう。よろしく」
直人はそう言ってスマホを降ろした。
「とりあえず、親父から先方の社長さんに閲覧をお願いできないかお願いしてくれるって」
「わかりました。そうしたら他に本社確認になっていたビルさんにもう一度行ってみましょうか」
そうして、いくつかのビルを回っていると、直人に電話がかかってきた。
「社長さんからお店の店長さんに、見せるようにお願いしてくれたらしいからすぐ行こう!」
「りょ、了解…」
俺は作業していたノートパソコンを閉じて鞄にしまった。
社長さんに直接お願いしちゃうなんていいことではないのかもしれないが、一番早いし企業だからできることでもある。
エンゲージの持てる様々な力を最大限使っている感じだ。
そうして俺達は例の牛丼屋さんに向かった。
既に話は通っていたので、店長さんに奥に案内された。
狭いバックヤードなので、入れたのは俺と斎藤教授だけ。
「さて、どれどれ…」
そう言って斎藤教授がコマ送りで店内の監視カメラの映像をコマ送りで進めていくと、それっぽい男が着席した。
「多分これだね。すごく近い位置に座ってくれたけど、後ろ向きかー」
そう言いつつ、斎藤教授はゆっくりと映像を進めていく。
「ここ横顔見えるね。23:48:31」
俺はそれを聞いてスマホにメモする。
「あ、待って! これ!!」
斎藤教授はそう言って画面を止めた。
何か発見したような口ぶりだったので、俺も映像を覗き込むと、
「これこれ! ここ!! スマホの画面映ってる! 色的にLimeじゃない???」
「本当ですね…」
「これ解析したらアカウント名わかるかも!!」
「アカウント名でわかりますかね?」
「これだけ推定情報があってLimeのアカウント名次第ではあるけど、内容によっては探偵が探せるよ!」
「本当ですか!」
「うん! この映像、コピーさせてもらっても?」
斎藤教授がそう言うと店長さんが頷いたので、俺はノートパソコンを脇で起動して、データをコピーする。
そしてお礼を言ってお店の外に出ると、直人達が待っていた。
「どうだった?」
「Limeのアカウントがわかるかも!」
「本当ですか教授! それとこれまでの推定情報があれば?」
「探偵さんが探せる可能性が出てくる」
「まじすか!! 手配します!」
「湯月くん、我々はすぐ研究室に戻って、このスマホの画面を解析しよう!」
「はい」
そうして俺達は足早に研究室に戻り、コピーしてきた監視カメラの映像の解析を始めた。




