いっすよ
「それでですね、来週一般参加なしのOPEXの大会をうちのチームで主催するんですね。昨年マリンスノーの箱舟さんに出て頂いたやつの2回目ですね」
「はい」
「ただですね、今回はナナイロさんというかVゲージさん所属の方々が、チーム募集のタイミングが丁度事務所のごたごたと重なってしまって、どなたも出場頂けず…少々前回に比べると盛り上がりにかけておりまして…」
「なるほどですね…」
「それでアークさんにお願いして、なんとかマリンスノーの箱舟の皆さんにゲスト解説みたいな感じで出て頂けないかなぁと相談したまでなんです…」
「そうでしたか…事務所の件はご迷惑をおかけしました」
山城さんはそういうと頭を下げた。
「あ、いえいえ! Vゲージさんの配信者さんに頼らずとも盛り上げろよって話ではあると思うんですが…」
するとそれを聞いた山城さんが、
「いえいえご評価いただきありがとうございます。アークさんのマネージャーの三好から相談をもらいまして、社内で検討したんですが、選手としてならいいんですが、やはりまりんとゆきはさんを解説的な立ち位置で出すとなるとどうしても費用が発生してしまいます…」
「ですよね…」
「最近多くご相談いただいている企業案件も、二人ともあまりやりたがらないのでお断りしていることが多く、あまり迂闊な行動はとれないんですよ…」
そうだったんだ…。
まぁ確かに、二人とも企業の物を紹介するというより、視聴者さん達と過ごしてるって感じだもんなぁ。
「そうですか…」
「とはいえ、goodさんにはゆきはさんがゴースティングされたときにお世話になったとも伺っておりまして」
山城さんがそう言うとgoodさんが、
「あー、ありましたね! あれ面白かったよなアーク!」
「そ、そうですね…」
「saitou_kun顔真っ赤だったろうな~」
goodさんは思い出すように言った。
言えない。
もしかしたら一緒に研究してる斎藤教授の息子がsaitou_kunかもしれないなんて…。
違うかもしれないし…。
「それで、三好と相談して、結構無茶かもしれませんがこちらからも一つお願いさせていただくことは出来ますか?」
「お願いとは?」
「まりんがミスリルまで、goodさんに同時配信なしでコーチングをお願いしたいんです。毎日とかにはなりませんが、トータルするとまりんの実力次第ですがそれなりの回数になると思います」
山城さんがそう言うと、goodさんは間髪入れず、
「いっすよ?」
「え?」
「え? いっすよねカッキーさん」
「え、あ、うん。goodがいいならいいけどさ」
「ほら俺次の大会でないことになりましたし別に大丈夫でしょ」
「ま、まぁ」
カッキーさんが、「いいのかなそれ?」みたいな感じで動揺しているが、goodさんは普通に問題ないでしょみたいな感じだ。
それを聞いた山城さんは、
「え、同時配信なしでそれなりの回数になると思いますよ?」
「いいですよ! 同時配信しなくても俺やダマスカスの名前がバーチャルの視聴者さんに知ってもらえるだけで、全然いいっす!」
goodさんらしいな。
ゆきはさんのゴースティングの時もこんな感じだった。
プロゲーマーではあるけど、最近は動画配信者としての色が強いgoodさんらしい。
俺はそんなことを思いながら懐かしくなっていると、
「なんなら、アーク最近配信あんまりやってないんで、他の人もいれてもらって育成枠でも大丈夫っすよ!」
「ええ! それはありがたいんですけど、いいんですか?」
山城さんは驚いた感じでカッキーさんを見た。
「まぁうちは割と個人に任せている部分がありますし、お互い特別って言うことで…」
「本当ですか…。それでしたら、こちらも来週の大会のゲスト解説にマリンスノーの箱舟の出演を調整します」
「本当ですか! good本当にいいの??」
「全然いいですよ! ゆきはさんと何度かご一緒してるんで、多少は知ってもらえてると思いますし!」
「そ、そう…。では、それでお願いしてもいいですかね??」
「わかりました! アークさんとゆきはさんも大丈夫?」
「大丈夫でーす! 元々アークとゆきはは、事務所の事情を除けば前向きでしたし!」
「では、それでお願いします。細かいところは私と三好さんとチャットか何かでやり取りできればと思うのですが?」
「そうしたら、私とgoodをいれたディスボかLimeでやり取りできればと思うのですが、どちらがいいですかね?」
「Limeでお願いします」
「了解です」
その後マネージャーさん達とグループLimeを開いて打合せは終わった。
そして、見送りのために受付まで送っていくと、goodさんに受付スペースの端に連れていかれて、
「(おい、お前、あの子いるなら言えよ)」
「(い、いや、驚くかなと思いまして…)」
「(そりゃ驚いたけどよ! てか近くで初めて見たけどやっぱりめちゃくちゃ可愛いな)」
「(華蓮さんのああいう反応初めて見たんで頑張ってください)」
「(え? 俺頑張るの?)」
「(そこはgoodさんの自由ですが…)」
「(え、ちょっと待って。待った。一回shunさんに相談するわ…)」
そう言って、goodさんは頭を掻きながらカッキーさんとオフィスを出ていった。
俺はそのまま研究室に戻ろうとすると、今度は華蓮さんに袖をつままれて廊下に連れていかれた。
「あっくん!」
「な、なんでしょう…」
「あたしがああいう反応したのは内緒だから! 特にりのあには!」
「え、あ、うん」
「もー! なんでかめちゃくちゃ恥ずかしかったじゃん!」
「いや、あれは華蓮さんのアクションが可愛すぎましたし、しょうがないのでは…?」
俺がそう言うと華蓮さんは少し沈黙して、
「あーもう! あっくんはこういうやつだったわー! 最近忘れてたわー! そうだったそうだったー!!!」
そう言いながらオフィスフロアの方に歩いていった。
なんなんだ…。
俺はよくわからないと思いながらも、研究室に戻りプログラムの続きを始めた。




