考える役回り
そして次の日、一緒に所属条件の打合せもしようと言うことで、17時から華蓮さんも呼んでMTGを行うことになった。
華蓮さんが今後最も莉乃愛と一緒にいる時間が長いだろうから、こういうことも知っておいてもらった方がいいだろうということで、莉乃愛のお父さんの件の話し合いにも華蓮さんにも参加してもらうということだ。
俺はとりあえずスケジュールを設定してプログラムをやりつつ時間を待った。
そしてあっという間に予定の時間となったので外着に着替えて部屋のドアを開けたまま、アークのSNSを見ていると、そのまま莉乃愛が部屋に入ってきた。
「さーあっくん、行こうぞー!!」
と言う莉乃愛は、首周りに白色の襟のある7分袖でストンとした黒色のミニスカートのワンピース姿で、最近見慣れたとはいえ、やっぱり莉乃愛の本気私服は目のやり場に困る。
「どお? いつもの感じより清楚じゃなーい??」
と、くるくる回る。
「り、りのあ、ちょ、ちょっと止まって…」
「んー?」
とくるくる回るのをやめて、肩越しにこっちを見た。
「す、スカートがめくれるから…」
と俺が言うと、
「なぁにーーーー?(ニヤニヤ)」
「いや、見えちゃうよ…」
「見たい?(ニヤニヤ)」
「いえ……」
「ふふふ! ま、遅れちゃうし行こう!」
そう言うと、莉乃愛は玄関に向かったので、俺も後を着いていった。
今日の打ち合わせの場所は、エンゲージの事務所だ。
前回小平さんの時に来ているので、慣れた感じで中に入り、華蓮さんと待ち合わせしウェイティングスペースで直人に電話して、しばらくすると中から直人が出てきた。
「りのあちゃーーん!! 会うのは久しぶりだねーーー」
「おーっす! 直人元気だった? この前華蓮のやつありがとね!」
「大丈夫だよ~。もう本当大学に行くのがきつすぎる…」
「直人もあたしみたいに休学すればいいじゃん!」
「いや! 俺は思い描いた大学生ライフをまだ諦めてないから!」
「普通に考えて無理だろ」
「お前はぁぁぁ!!!!!」
俺は直人にそう言われながらヘッドロックされた。
そして会議室に案内され3人で奥側に座った。
「まずはりのあちゃんと華蓮ちゃんの所属について話し合うから、担当連れてくるからちょっと待っててー」
「わかったー!」
そう言うと直人は会議室を出ていった。
そしてしばらくすると親父さんと、随分と綺麗なおばさん? お姉さん? と直人が3人で部屋に入ってきた。
3人は俺達の向かいの席に座ると、
「あーえっと、この人がうちの所属タレントのマネジメントを仕切ってる、八代凜香さん。まぁおれのおばさんで、親父の妹。独身」
「こんにちは~。りんかって呼ばれてるから、りんかさんとかで大丈夫よー! あと、独身は余計よ!」
と言い、直人のわき腹をゴスっと殴った。
「あ、菅谷莉乃愛です! よろしくお願いしまーす!」
「三好華蓮です! よろしくお願いします!」
「えっとじゃあまずりのあちゃんから話しましょうか! モデルは続けるってことでいいの?」
「はい!」
「しかし、ほーんと、直人の言うとおりだねーー! あ、wiwi見たよ!」
と凜香さんが持っていた雑誌をだした。
「あ、この前のやつですね! ありがとうございます!」
「これでまだアルバイト感覚だったっていうから驚きだよ…」
「実際アルバイトみたいなものだったんで!」
「wiwi過去のも見たんだけどさ、今回のもう一つ前からかな? なんか違う感じの雰囲気のカットが追加されたのは、wiwiの編集さんのオーダー?」
「あ、それは、わたしが高校の文化祭で清楚系になった時のを実演したら、いれたい! って言われたんで、そのモードで撮った感じですね! こんな感じですかねー」
そういうと、莉乃愛はその場に立ち上がり、
首をかしげながら、はにかみ笑顔で、サイドの髪の毛を持ち上げて、
「ちょ…ちょっと、はずかしいんですけど……」
と言うと、その場はシーンとなった。
暫くの沈黙の後に、
「こ、これは!! 動画配信だけじゃなくて普通の活動もやりましょう!!!!!」
と、凜香さんが身を乗り出した。
流石の莉乃愛もびっくりしたのか、おおっと後ろにのけぞり驚いている。
「こんな雰囲気絶対そうそう出せない! 絶対いける!」
と、凜香さんが言うと、直人の親父さんが、
「お、お、おう、むしろ俺も来て欲しいと思ってたからあれなんだが、お、お前がそんなに前のめりになるのは珍しいな…」
「はぁ!? 今の見てなかったの? だから兄さんはダメなのよ!」
「ま、まぁ、でもとりあえずりのあちゃんの希望も聞かないと」
「そ、そうね! りのあちゃん、何か希望とかあるかしら?」
と、凜香さんが聞いたが、莉乃愛はポカンとしている。
すると直人が、
「りのあちゃんは芸能事務所に所属したことないから、希望も何もわからないから、うちの一般的な契約内容を一旦話してみるといいかと…」
「あー、そうか! 事務所移籍かと思うぐらい美人だから、先走っちゃったわ! うちはねー…」
と、その後凜香さんが契約条件を説明した。
主には俺が聞いてる感じなんだけど…。
「まぁざっと大きなところで言うとこんな感じかな? 何か質問ある?」
と凜香さんが言うと、莉乃愛は、
「わからないので、ないです!」
と、ドヤっと言い放ち、俺と直人はそうだよねぇ…とうなだれた。
「でも動画配信者との兼業ってなるとどうなるのかしら?」
「んー確かにうちに前例がないから仕組みがないな」
「例えば化粧品のPRをする場合、動画とイベント出演でいくらみたいな感じになったら、社内的にどうするの?」
「そうだなぁ…」
親父さんは少し考えて、
「直人、頼んだ」
と、直人の方をキリっと見て言った。
「また俺かよぉぉぉぉ!!!!!!!!」
「いい感じで頼む」
「直人頭いいからいいわねー! じゃあ、華蓮ちゃんの方もお話ししましょうか!」
「ちょ凜香さん、話進めないでよ!」
「何よ、考えるのは直人得意でしょ。そう言うことだから! それで華蓮ちゃんはマネージャーポジションがいいんだって?」
と凜香さんは直人にお構いなしで、ニコニコしながら華蓮さんに話しかけた。
そして直人はうなだれた。
これ家でやってたら全部俺に回ってくる役回りだな…。
親父は答えがわかってるくせに考えさせられてダメだしされて…。
だけどムカつくから考えちゃうってやつだ…。
「はい! 動画はこれからもちょくちょく出ると思うんですが、あくまでりのあのマネージャー的なポジションがいいです!」
「じゃあ、華蓮ちゃんはとりあえず、リアル活動の方のマネジメントは、そうね、私と一緒にやって勉強してもらいましょうか! 動画の方はちょっとわからないけどー。ん? ってことは従業員になるのかな?」
「えーっと…りのあちゃんから、Rinoチャンネルからの収入は華蓮ちゃんと折半、幼馴染チャンネルからの収入は、新もいれて1/3ずつと言われていましてですね…華蓮ちゃんも特殊になりますね…」
「あらぁ…」
「ってことなんで、はい、俺考えますね…」
「わかってるじゃない直人!」
「はぁ…新も幼馴染チャンネルそれでいいのか?」
「う…うん、問題ないよ…」
「あら? 君も結構イケメンね?」
と、凜香さんが俺をむむーんと覗き込んできた。
うっ…。
凜香さんって莉乃愛や華蓮さんみたいな陽キャの頂点みたいなタイプなんだよな…。
「あーもう! 終わったら早く行って! こいつはリアルの活動はできないから!」
「えー勿体なーい」
「勿体なくてもなんでも無理なもんは無理だから!」
と、直人が凜香さんを席に座らせた。
「んじゃ、とりあえず所属の件は、この後詳細の条件詰めるってことで、全員合意と言うことでいいですかね?」
と直人が言うので全員が頷いた。
「ではもう一つ。今日の本題のりのあちゃんの父親の件について話すので、弁護士連れてくるからちょっと待ってて」
そう言うと直人は会議室を出ていった。




