舞台俳優
シンポジウムは、斎藤教授の基調講演もそれ以外の講演や研究発表含めて非常に有意義だった。
一つのことに集中していたせいか、色んな発表を聞いて参考にすると、少し視野を広くとらえることが出来るようになった。
これが無料で聞けるというのだから、学術発表というのはいいものだ。
自分で発表したいとは一切思わないけど。
俺は朝起きて、斎藤教授からきていたメールに返事をして、今日はプログラムをやらない。
まずは12時から雪菜さんに方向性をお伝えして、次に莉乃愛のお父さんの事を考える。
莉乃愛のお父さんの件も、莉乃愛から相談された時点で2週間経過していたので、あまり置いておいていい問題ではないだろう。
そして時間になったので俺はディスボのゆきはさんとのチャンネルに入った。
「アークさんこんにちは!」
「ゆきはさん急にすいません」
「いえいえ! なんかこうやってお昼にディスボで話すと、卒業を実感しますね(笑)」
「本当ですね(笑) それでですね、実は昨日太田さんと話した件、先日進みまして、どうなりそうかをお話しできればと思いまして…」
「えっ! も、もう?! ど、どうなりそうなんですか??」
と、ゆきはさんが喰い気味に聞いてきた。
「えっとですね、直人が社長の事務所で小平さんを引き抜いて、バーチャル配信者のマネジメントも行うことになりそうです」
「………………えええええええええええええええ?!?!?!?!?」
「それでそのタイミングで太田さんもそっちに移動すると…」
「本当ですか?!?!?!」
「はい、小平さんが配信者に寄り添う事務所を作るってことで、直人と直人の親父さんと約束してまして、太田さんもその方向性がいいと…」
「そ、そうですか…」
「恐らくマネジメント部の旧第1グループに所属していた社員の方の多くが動くのではないかとも言っていました」
「そ、そうなんですね……どうしよう……」
「それで、詳細はゆきはさんが聞いてもらわないといけないのですが、配信者の方で移動したい場合は、直人の親父さんの事務所が1年分の収入を保証すると」
「そ、そうですか…。でも日向ゆきはでは無理ですよね…?」
「恐らくそうだと思います…。そして今回は転生告知もできないと思います…」
「ですよね…視聴者さん……でも……」
「あ、でも、恐らくそれは今決める必要はないと思います。ナナイロの社内がどう動くかはなってみないとわからないですし、もう少し様子見をしてみるといいかとも思います」
「な、なるほどですね」
「それで思っていたより、今は変革期なのでちょっと殺伐としちゃってるみたいですが、居心地のいい雰囲気になっていくようであれば、そのままでも問題ないのではと思います」
「た、たしかに…。でも、太田さんはいなくなっちゃうんですよね?」
「それはそうなると思います…。リアル芸能人の方の動画配信活動なんかにも活かせるとのことで、太田さんはほぼ確実にいなくなると思います」
「私太田さんがいいんですよね…」
「そうですよね、ゆきはさん太田さん信頼してましたもんねぇ。でも、太田さんと一生一緒にいれるわけじゃないですし、ナナイロの動き次第では第2の太田さんが出てくる可能性だってあります」
「そ、それはそうですね…」
「なので、今日明日どうなるってことはないので、一旦少し様子を見ながら考えていくのがいいかと思います。俺も相談のりますので!」
「わ、わかりました!」
「恐らく目の前の案件のこととかは、太田さんスッキリしたって言ってましたし、逆にナナイロの事務所に気遣わなくてよくなったので、きっと守ってくれますよ!」
「そ、そうですか! あ、本当だ! 南さんからのLIMEに太田さんが反論してくれてる!」
「よかったですね、とりあえず少し時間のかかる話だと思いますので、様子見しつつ今まで通り頑張ってください!」
「は、はい! でも、なんか、相変わらず斜め上な感じで解決していくねアークさん(笑)」
「正直今回は、完全に直人と直人の親父さんが何とかする感じですし、まだまだどうなるかわかりませんけどね…」
「でも、ありがとう! 私もどうするか考えるけど、とりあえずは視聴者さんに寄り添って配信していきます!」
「はい、それがいいと思います。それでは、また何かあったらご連絡しますね!」
「はい、ありがとうございます!」
そうして雪菜さんに今後の流れを伝えた。
今日明日にどうにかなるってことは流石になさそうだけど、今後結構大事になりそうだ。
老舗芸能事務所のエンゲージと新興動画配信者事務所のナナイロ。
メディアが好きそうな構図でもある。
とりあえず、出来る限りゆきはさんとその視聴者さんに迷惑が掛からないように着地できるといいけど…。
そんなことを思いつつ、俺はイヤホンを外して莉乃愛の部屋に向かった。
次は莉乃愛の事だ。
ノックをすると返事があったので中に入ると、莉乃愛はベッドの上で寝そべってスマホを見ていた。
いや、ほら、トレーナーとかめくれて少し背中見えちゃってるしさ…これで見てるでしょ? って言われてもどうしようもなくない?
莉乃愛本当にもうちょっと気を付けて欲しい…。
「り…りのあ?」
「なーにー?」
「あ、あの、お父さん、家に帰ってきてなかったって言ってたよね?」
「あーうん、そだね!」
「家に帰ってこなくて、どこにいたかとかは知ってる?」
「んーーー全く!!」
ドヤって感じで莉乃愛は言った。
前途多難だ……。
「な、なるほど…どうしようかな……」
「わかんない!」
「り…りのあも自分のことなんだから少しは…」
「お母さんがね、「不得意なことはそれが得意な人に任せればいいのよ!」ってこの前言ってた!」
母さん…。
まぁ確かに母さんも、少し難しくなってくると大体親父にポーイってしてる…。
「ち、ちなみに、お父さんって何の仕事してるの?」
「うーん、最近はわからない! 昔は舞台俳優? だったらしいよ!」
「へ、へぇ、そうなんだ」
「お母さん、あ、死んじゃった本当のお母さんね? も、昔舞台俳優だったって小学生の時聞いた!」
「な、なるほど」
「でも、お母さんは結構早くに運営側の仕事に回ったらしいんだけど、そっちの方が才能あったんだって!」
「あぁ、なるほど、確かに小さい頃もお母さんがすごい働いてるイメージだったね」
「お! 覚えてるんだ!」
「な、なんとなくだけど…」
「知ってるのはそれぐらいかな~」
「なるほど…舞台俳優か……りのあ、お母さんとお父さんの下の名前教えて?」
「お母さんは美乃梨で、父親は雄一だね!」
「あ、うん、わかった。ちょっと調べてみるから、とりあえず俺が言うまでお父さんからの連絡はそのまま無視しといて…」
「了解ー!」
俺はそれを聞き部屋に戻ってパソコンで調べだした。
本名しかわからないから、芸名とかつけてたらネットじゃわからないだろうけど、何もわからないよりはましか…。
そしてお父さんの方は全くわからなかったが、お母さんは1つだけ、昔開催した舞台のディレクターとして名前が載っていた。
主催事務所がオフィスGで、協賛事務所がからめるスタジオ。
からめるスタジオの方はネットに情報がもうなかったが、オフィスGはまだ存在するみたいだ。
オフィスGの所属俳優を見たが、莉乃愛の父親らしき人はいない。
わかるのはここまで。
後は再び、舞台俳優事務所、欲を言えばオフィスGに知り合いがいないか直人に聞いてみるしかないな…。
ちょっと雪菜さんのことで忙しいだろうから少しだけ気は引けるけど、莉乃愛のことだって大事だし、かといってこういうリアル側面は俺じゃどうにもできないし…。
俺はそう思ってスマホを手に取った。




