【菅谷莉乃愛視点】小難しい説明強い説
「じゃありのあ、今日の撮影はこんな感じで終わりだね!」
華蓮はカメラを降ろしてそう言った。
もうすぐ専門学校の入学式だからと、最近華蓮とはほぼ毎日会って動画を撮影している。
Rinoチャンネルは順調に登録者が増えており、つい先日登録者が10万人を超えた。
なんか順調すぎて怖くなる…。
というかwiwiに長くずっと出ていたことと、商店街のイベントで作ったRinoのSNSがこんな形で活きてくるなんて全く思ってなかった!
正直個人とSNSアカウントを2つ運用するなんて面倒だったし、毎回遠くまで撮影に行くのも大変だったけど、結果良ければ全てよし!
「りのあ撮影終わったのー? お菓子持ってきたわよー?」
とお母さんが部屋の外から話しかけてきた。
「あーうん! ありがと!」
私はそう言うと部屋のドアを開けてお母さんからお盆を受け取る。
「お邪魔してまーす!」
「華蓮ちゃんいらっしゃい。自分の家だと思ってもらっていいからね~」
「最近本当に自分の家かもしれないと思えてきました!」
「あらあら! そしたら新を外に出さないと部屋がないわね(笑)」
「そこあっくんなんだ(笑)」
何度も夜ご飯を一緒に食べてる華蓮はお母さんとも、もう凄い仲良しだ。
今度3人で買い物行こうってことにもなってる。
華蓮もお母さんに攻められてタジタジするんだろうな(笑)
てか、あっくんで思い出した!!!!
「あ、華蓮! そう言えば所属事務所決まったから!」
「はぁ?! いつ?! ってかどこ?!」
華蓮はびっくりしてテーブルに身を乗り出した。
「直人がさお父さんに言われて、動画配信者の事務所の社長になることになってー、あっくんが所属することになってー、それならって便乗しておいた!」
「えー! 直人社長になるんだー! 金持ちじゃーん!!」
「華蓮もだよ??」
「え? あたしも?」
「そう、だって動画出てるじゃん」
「まぁ出てるっちゃ出てるけど、あたしはやっぱりメインと言うより、裏方イメージだからいいと思うんだよねー」
「そう?」
「まぁそこら辺は直人と直接話すわ!」
「それがいいね!」
そのやりとりを聞いていたお母さんが、
「本当華蓮ちゃんはりのあを大切にしてくれてるわねー」
と腕を組んでニコニコしながら言った。
「大親友なんで!」
「わたしも華蓮超大事!」
「「ねー!!」」
「ふふふ、いつまでも仲良くね。それじゃあお母さん戻るから何かあったら言ってね」
「おっけー!」
お母さんはそう言うとリビングの方に戻っていった。
そして華蓮と二人で、お母さんが持ってきてくれたお菓子と紅茶を飲む。
「てかこのケーキ屋さんのお菓子結構な頻度で出るよね」
「お母さんが好きなんだってー」
「そうは言っても、こんな頻度で買う?」
「買わないね。ただ、もうわたしもそれが普通だと思えてきてしまっていることが怖い」
「本当お金持ちなんだね…しかもあっくんも稼いでるし、りのあだってこのままいけばすごい配信者になるし…お金持ちからしか金持ちは産まれねーのか!」
「でもあっくん見てるとさ、なんかそうかもねって思っちゃうよね。なんか住んでる世界もお父さんやお母さんの考え方も全然違うんだもん」
「ほんそれ」
華蓮もうんうんと頷いた。
わたしにはそもそも親と言うものがいないようなものだったけど、友達に聞く両親やそれこそ高校の先生とかと比較しても、考え方が全然違う。
わたしの普通だと、何か「やろう!」ってなったとしても、大体はできない理由や勿体ないって話になりがちだ。
わたし達のことを心配してってことなんだろうとは思うけど、まぁ何をやるにしてもお金と時間を使うからね。
でも、お父さんとお母さんは全然違う。
「やろう!」ってなったら、とりあえず頑張りなさいだ。
なんだろ、余裕があるからなのかな? 別に失敗してもお金も時間も無駄になんかならないからって雰囲気。
この動画配信者の話だって、二つ返事でオッケーだった。
どっちが正しいのかなんてわたしにはわからないし、そもそも正解なんてないのかもしれないけど、わたしはそういう考え方は好きだ!
だってやってみなきゃわからないもん!
「あ、でも華蓮別に裏方で来てくれてもいいんだけど、Rinoチャンネルは半分ずつで、陰陽幼馴染チャンネルは1/3ずつだからね? 収益」
「はい?!」
「え? 当り前じゃない?」
「いやいやいや!!」
「役割は別に裏方でマネージャーとかでももちろんわたしは嬉しいけどさ、それだけは譲れない! 華蓮がいないとできないんだから!」
わたしは真面目に言った。
華蓮も少し真剣な表情になって、
「ほ、本気?」
「うん! 流石にモデルもってなると華蓮嫌がるだろうけど、動画はどのチャンネルも華蓮がいて成り立ってるんだから!」
わたしがそう言うと、次第に華蓮はうるうる涙を目に浮かべて、
「りのあありがどおおおおおおおお! やったー!!!! これであたしずっとりのあと一緒だああああ!」
「うん!」
そして華蓮は涙を拭うと、
「そうとなればもっと頑張るぞ!! 学校休学する!!!」
「えー?!?!?!」
「だってきっと無理だもん!!!」
「まだ入学もしてないよ?!」
「入学前から休学宣言ウケル!!!」
「流石にお父さんとお母さん怒らない?」
「説得する!」
「よし!! そしたらわたしも一緒にお願いしに行く!!!」
「うん! ありがと!」
「よし! そうとなったら行こう!」
「りょ!!!!!」
わたしと華蓮はお菓子の後片付けをして、本当は動画の編集を二人でやろうと思っていたのだが、それは華蓮の家でやることにして、今日は華蓮の家に泊まるとお母さんに言って家を出た。
卒業してずっと来てなかった高校の最寄り駅につき、菅谷先輩だ! と声をかけてくる下級生の子達に懐かしくなりながら華蓮の家に向かった。
「でもさ、お父さんとお母さんなんて説得するの?」
わたしが横を歩く華蓮に疑問に思って聞くと、
「お願い! って!」
やっぱりな!
ちょっと前の私だったら、きっと同じだっただろう。
しかし、あっくんと一緒にいるようなり、私はわかったことがある。
大人を説得するのには、あっくんや直人みたいな小難しい説明が大事。
「ふふふ、華蓮よ! 甘いぞ!!」
わたしは人差し指を突き出して言った。
「甘いって?」
華蓮は疑問な感じで首をかしげて言った。
「大人を説得するには小難しい説明が効果てきめん!」
「小難しい説明なんてできなくない?」
「今回は直人に電話をスピーカーにして話してもらえばいい!」
「あー! それグッジョブすぎるじゃん! 確かにすんごいうまく話してくれそう!」
「そしてそれが終ったら、華蓮とわたしでお願い! って!」
わたしは腕を組んでドヤっと言った。
「べスプラ! 部屋いったら直人に電話しよう!」
そして華蓮の家に入り、華蓮のお父さんもお母さんも仕事でいないので、そのまま華蓮の部屋に向かう。
そして部屋の真ん中のローテーブルに華蓮がスマホを置いて直人に通話をかける。
「華蓮ちゃんどうしたのー-。合コンはちょっと待ってねー…」
えらく元気なさそうだな直人。
「直人! あたしマネージャーとかがいいから!」
「え? あ、え? あ、うん?」
「そういうことで!」
「え? ちょ、その件は今度詳しく話そう! 今死ぬほど忙しくて!」
「直人わたしもいるよ! ねーお願いあんだけど!」
「りのあちゃんと一緒なのね」
「今日の夜にさ華蓮が専門休学するお願いするんだけど、いい感じで説明して!」
「……えっと、華蓮ちゃんまだ入学してないのに休学するの?」
「そう!」
「あ、直人! Rinoチャンネルは華蓮と半分半分で、幼馴染チャンネルはあっくんいれて1/3ずつで!」
「ちょ、ちょっと待って! 俺の知らないところで色々決まってる…!」
「だからもっと動画頑張ろうと思って、専門休学する!」
「ちょ、あ、え、えっと、わかったよ…とりあえずRinoチャンネルと幼馴染チャンネルから得られる収益がどれぐらいで、そこから得られる華蓮ちゃんの取り分がどうなっていくかを話してくれってことだね。後は動画配信業界の未来とかかな?」
「さっすが! あっくんレベルで話が早い!」
「てかりのあちゃんいいの? 俺は二人がそう決めたならそうなるようにできる限り調整するけど」
「うん、全然いいよ!」
「……えっと二人とも全然わかってないみたいだから軽く説明するね?」
「「うん?」」
「Rinoチャンネルの登録者は女性配信者には珍しい、若い女性ユーザーが7割以上だよね? しかも現状だと再生数も多い」
「そだね」
「それって普通の動画配信者の10万人より価値が高いのね?」
「そなの?」
「そうだよ。化粧品や美容関連や、普通に案件をやっても、今までのスタンスを貫く事さえできれば、視聴者さんは見てくれる。すると、広告に多大なお金をかける化粧品・美容業界がバンバン広告や案件出してくると思うのね」
「へぇ?」
「うちに所属してくれるって言うから、エンゲージのつて使えばすぐ集まると思うのね」
「おぉ!」
「それをザっと考えても暫くすれば月100万円以上になると思うよ。登録者数も増え続けてるしもっといくと思うけど」
「100万?!」
華蓮が驚いていった。
わたしも正直びっくりした。
「そんで幼馴染チャンネルは既に登録者30万人に迫る勢いで、広告を出しにくい動画の趣旨でもない。そっちも動画の投稿頻度によるけど、同じぐらいの収益が期待できると思うのね」
「ま、まじ?」
「うん。だからさっきの割合だと、華蓮ちゃんも月100万以上の収入になっちゃう可能性がかなり高いってことだよ」
直人がそう説明してわたし達は固まった。
「りのあちゃん本当にいいんだよね?」
「あ、う、うん全然いいんだけど、そんな金額になると思ってなかった…」
「だよね…まぁ近いうちにそこら辺はこっちで管理できるように整えるからさ…」
「う、うん…それがいいわ…。ちょっと難しそう過ぎて無理だわ」
「あたしも無理だわ…。てかお母さんびっくりして死んじゃうかもしれない…」
「とりあえず! 二つのチャンネルは新が多少設定したみたいだから微妙に収益出るようになってるけど、本気でやればそれぐらいの価値があるものだよってことだから、本当近々で打合せさせてね!」
「りょ…」
「じゃあ、詳しい時間とかわかったら教えてね!」
「りょかい…」
華蓮はそう言うと通話を切った。
そして、ギギギみたいな感じでわたしを見て、
「り、りのあ…どうしよう……」
「う、うん…わたしも予想外でびびってる…」
「と、とりあえず編集しようか…」
「そ、それがいいね…」
そう言って二人で現実逃避に編集を始めた。
そして撮った動画を見て編集していたら、すぐ忘れた。
いやー本当華蓮とは波長が合っていいわ!
そして夜、夜ごはんの後に華蓮のお父さんとお母さんに華蓮の休学をお願いした。
もちろん最初は「はぁ?! バカなこと言うな!! 高い入学金も払ったのに!!!」って感じだったのだけど、直人に電話を繋いで、直人が小難しいことを丁寧に説明すると、お母さんはびっくりしすぎて持っていたコップを落として割ってしまった。
直ぐにでも、両親二人の収入を華蓮が超えちゃうらしい…。
そうなると話は早く、直人が丁寧にお願いした後に二人で「「お願い!!」」とやると、即OKとなった。
小難しい説明親に強い説!
わたしの本当の親はなんていうのかな?
まぁもうあっくんの家がわたしの家で、あっくんの両親がわたしの両親だけどね。
あ、そうだ、お父さんどうするんだろうあっくん。
なんでも困ったらあっくんに頼めば何とかなると思ってるけど、ちょっとウザイかな…。
でも、なんか頼りやすいんだもん!
しかもわたしのことを考えたうえで解決してくれるし!!
雪菜もきっと同じ気持ちなんだろうなぁ。
そんなことを思いつつも、華蓮と二人で喜んで、その日は夜中まで編集していた。




