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シンポジウム

「えーそれではこれより帝工大の斎藤教授の基調講演を開始いたします。テーマは『圧縮加工ファイルにおける解像処理』です。斎藤教授よろしくお願いします」


「えー、それでは早速始めさせていただきます」




エンゲージで小平さんと太田さんを紹介し、今後の方向性を話し合った翌日、俺は朝から情報処理学会のオンラインシンポジウムに参加している。


本当は雪菜さんに早く方向性を伝えなきゃいけないし、莉乃愛の事も早く考えなきゃいけないんだけど、シンポジウムは今日と明日しかやってないからさ…。



なので雪菜さんには休み明けでスケジュールを確認していて、莉乃愛の事はプログラムをやる前に考えることにしている。




そんなことを思いながら、俺は基調講演一つ一つに解説された基調講演専用のオンライン会議に入り、斎藤教授の基調講演を視聴している。


動画配信サイトでも同時配信されているが、そちらは見るのみで質問ができないので、俺はオンライン会議の方に登録している。




「まずは通常の画像処理においては、このような信号処理をプログラム上で実行しています」




斎藤教授はそう言うと画面に論文のシーケンス図を写した。


そしてそれを説明していく。



画像や動画の圧縮加工の際にどのような処理がなされて、どの部分で加工することにより低容量のファイルへと変換しているか。


そして何が解像度を落とす原因になっているかを説明する。




「従って、私の研究ではこの、圧縮されることにより一度は低解像度のファイルに変換されたファイルを、元の最高解像度へ戻す仕組みになっています。これは、今後防犯面等の日常生活で活躍できると考えております」




なるほど。


圧縮技術によって小さな容量の記憶領域でも多くのデータが保存できる。


しかしその反面、解像度は落ちる。


ハードウェアを大きくして記憶領域を多くするという解決法もあるが、どうしても小型化しないといけないものもあるだろう。


そう言うものに役に立ちそうだ。



俺はそんなことを思いながら斎藤教授の発表を聞いている。


確かに発表されている技術自体は納得できる。


しかしちょっと納得できないのが、そもそもの圧縮技術を変えればもっと多くの問題が解決できるんじゃないだろうか?




「以上が今回の発表となります」


「では、このまま質疑応答に移らせていただきます。質問のある方は、【質疑】という文字を頭につけて、質疑内容をコメントしてください。尚、動画配信サイトでご覧の方からの質疑は受け付けておりませんのでご了承ください。では、どうぞ」




司会の方がそう言うと、2つ3つ質疑が投げかけられた。


俺ももちろん質問する。




『【質疑】そもそもの圧縮技術の変革で改善できるのではないでしょうか?』




すると、斎藤教授が俺のコメントにくいついた。




「ほぉ。随分と強めのご意見がありますね。司会さんいいですか?」


「あ、はい、どちらの質問を?」


「この圧縮技術のってやつをお願いします」


「はい、ではこちらのコメントを頂いたのは、arata_yudukiさんですね。ではご質問の詳細をよろしくお願いします」




司会の方がそう言ったので、俺はオンライン会議のマイクをonにして話した。




「湯月新と申します。貴重なご講演ありがとうございました。ご質問としては、斎藤教授のご指摘通り、離散変換を実現する過程の計算式の簡略化の部分が問題であることは認識していますが、私としてはこの量子変換をエルネスト量子変換で実行することで、圧縮技術の改革ができるのではと考えているのですがいかがでしょうか?」


「なるほど。エルネスト量子変換は最近のやつですね。しかしあれだと、計算量が多くなってしまい、膨大な時間とスペックが必要になると考えられますね。実現はできるかもしれませんが、実用化しないものですね」


「仰る通りかと思います。ですので、エルネスト量子変換の前に別の変換を実行し、エルネスト量子変換を離散にまつわる所に集中させるのがいいのではと考えていますがいかがでしょうか?」


「エルネストを部分的に利用…。その前にフェリエ量子化してみる? いや、んー、あ! あるかもしれませんね。しかし、それだと離散にあわせるために追加計算が必要では?」


「はい、そうなんです…。悪くないかと思っていたのですが、現在そこで行き詰っておりまして、今回の先生の発表をご拝聴しにまいりました」


「なるほどなるほど。そうすると今回発表したこの式を、量子化前に実行してみるとかもありかもしれないね」


「な、なるほど」




量子化して圧縮したものを解析して元に戻す仕組みを量子化前に実行する…。


俺はそう思いながら画面の前で考え込んだ。


すると、




「ふはは、しかし面白いね君。声的にお若く聞こえるが、どこの研究所もしくは大学院なのだろうか?」


「あ、いえ、大学は入っていません。今年の3月に高校を卒業したばかりで、プログラムしかやりたくなくて大学には行きませんでした」


「いや、しかし、大学どころか大学院レベルでは?」


「大学院にも行ったことがないのでレベルはわかりませんが…」




そう言うと斎藤教授は少しひげをもちつつ、




「ふはは。面白いな君! 是非一度私に連絡しなさい! 一度少し話そうじゃないか!」


「あ、はい! ありがとうございます!」


「んじゃ司会さん他の質問に行ってもらっていいですよ」




と斎藤教授はニヤニヤしながら言った。




「えっと…今のは質問だったのでしょうか…。というかこの方と連絡取りたいんですか先生?」


「ん? そう言ったろうが」


「え、いや、そういうのは禁止してるんですが…。ほら業者の人とかがいっぱい来ちゃうので…」


「そんなもんは知らん! いいから連絡できるように整えたまえ!」


「は、はぁ…で、では他の質問に移りますね…」




俺はそんなやりとりやその後の質疑応答も聞いているような聞いていないような感じで、斎藤教授から提案されたことをずっと考えていた。




「では、これで斎藤教授の基調講演を終了いたします。休憩を10分挟みまして、次は国立情報処理研究所、田澤研究主任の発表となります。ご視聴の程よろしくお願いし致します」




すると斎藤教授基調講演用のオンライン会議は閉じられた。



そして暫くすると、参加者登録に使ったメールアドレスに運営者から連絡が来た。


そのあと何度かやり取りして、身元の確認と、業者ではないかが確認され、斎藤教授の連絡先が送られてきた。




そして俺はその日の夜に、斎藤教授にお礼と、提案された以降で考えた内容を記載し、斎藤教授にメール送付した。


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