~この時、改札まで残り50メートル~
駅構内に入ってから、カジュアル系女子は気持ち一歩引いたような距離感で彼について歩く。
足取りが重くなり、歩くペースが落ちているような気がする。こちらも歩幅を調整しないとすぐに追い抜いてしまう。
電光掲示板に表示される、出発時間
男「お、ちょーど電車くるっぽいよ」
女「えっ、あ…うん…」
「あ、あの電車!私、〇〇行きは乗ったことないなぁ、〇〇駅に友達住んでるんだけど」
男「へー、オレも逆方向しか乗ったことないな」
店『いやいや、もうそんな会話いいから!早く言わないと!」
愛嬌のある明るい笑顔、時折見せる俯き加減な表情の繰り返しがなんとも言えない気持ちにさせる。
一応、自分にもこんな時代があったなぁと、青春の1ページを遡る。ん?あったっけ笑??
気付けば、改札はもう目の前…自分が行く末を見届けられるのはもうそこまでしかない。早く、早く!
店「えっ…」
女の子は立ち止まり、男の子は改札を通った。
店「一緒に帰るんじゃないんかーっい!ってか、お前が帰るんかーっい!!」
完全に二人で電車に乗って帰るものだと思い込んでいたので、予想していなかった展開に…今日、一番のツッコミを本気で入れる。
と、同時に…たった今、二人を置き去りにしたはずのその足が思わず止まる。振り返るとそこには改札を挟んで手を振り合う男女の光景があった。
切ない系の恋愛映画であれば間違いなくクライマックスシーンともいえる、その場面に視線は釘付けとなり、周囲の目や二人に気付かれるといった懸念すら忘れていた。
彼は振り返りホームへに続く階段へと進む。その姿をしばらく見つめていた彼女が、ふと視線を下に移す。
一秒・・二秒・・・三秒、その場で立ち尽くす。
せめて、乗る電車が別々の方向だったという事なら、まだわかるんだけど…まさか女の子が見送る側だったとは。
ってことは、あの子は伝えたいことがあって、それを言いたくて言いたくて、ついにはここまで付いてきてしまったということなのだろうか。
なんて健気な女の子、やっぱり性格いい子だったか…そして男子、お前はなんて罪な男だと。
頭の中では勝手に『可哀そうな女の子』と『冷たいもしくは鈍感な男の子』の構図を描いていたが、これもただのオッサンの妄想に過ぎないのかもしれない。
そんな事を考えていると彼女はクルッと、来た道を戻り始めた。
店「ちょっと、待って!」
思わず声が漏れた、しかし、決して彼女には届かないであろう小さな声で…改めて自分が小心者だと痛感する。