水切りチャンピオン!
いでっち51号様主催『スポ魂なろうフェス』参加作品です。
結構な割合でやった事があるであろう『水切り』。
あれです。川とかで平べったい石を跳ねさせるあれ。
実はスポーツとして色々なところで大会が開かれているのです。
それが世界的に人気な世界で、チャンピオンを目指す少年のお話。
スポーツの日だから、こんなのも許されるはず……(震え声)。
軽い気持ちで楽しんでいただけたら幸いです。
オレ、魚田勝太!
今大人気のスポーツ、水切りの世界チャンピオンを目指す小学四年生!
今日も水切り部の仲間と一緒に、練習がんばるぜ!
「お! おはよう理人!」
「……全く、お前は朝っぱらから元気だな」
こいつは水城理人!
オレの親友で水切り部でのライバルだ!
水城ザイバツとかいうすごいお金持ちの家だけど、そんなこと全然気にしないで、一緒に水切り世界チャンピオンを目指してる!
「今日は負けないぞ理人!」
「あぁ、全力で来い」
「お兄ちゃんも、勝太君も、がんばって!」
「おう! 理子ちゃんもがんばろうぜ! 石選びはピカイチなんだから!」
「うん!」
この子は理人の妹の理子ちゃん!
二コ下の小学二年生!
水切り部はこの三人でがんばってる!
早く放課後にならないかなぁ。
「勝太。水切りに真剣なのはいいが、前みたいに授業中に消しゴムを投げて、先生の顔にぶつけるような真似をするなよ」
「あ、あれはイメージトレーニングについ力が入っちゃって……」
「あの日はバツそうじで練習できなかったもんね。気をつけてよ、勝太君」
「り、理子ちゃんまで……」
二人に笑われてオレは顔を赤くしながら、学校への道を進んだ。
「よっし! 学校終わり! 理人! 河原に行こうぜ!」
「慌てるな勝太。ランドセルを家においてからだ」
「うぅ〜! 早く投げたいのに〜!」
「お前は練習に熱中すると、帰りにランドセルを置き忘れるからな。当然だ」
「……う、それを言われると……」
前に届けてもらっちゃったもんなぁ……。
「じゃあランドセル置いたら、ソッコーいつもの河原な!」
「あぁ。慌てて転んでケガするなよ」
「わかってらい!」
大急ぎで家にランドセルを置いて、河原に向かう。
この時間だと色んな人が練習をしてるはずだ。
早く行かないと、いい場所を取られちゃうぜ!
「急げ! 急げ〜!」
自転車をすっとばして、河原に向かう。
お、さすが理人と理子ちゃんはもう来てる!
「ごめんな! 待たせた!」
「いや、今来たところだ」
「いい場所残ってて、よかったね」
「じゃあさっそく練習だ!」
水切りは、『石選び』と『投げ』の二つでできている。
手になじむいい石を見つけることが、いい記録には必要なんだ!
「お! オレこれにしよ!」
「こいつはなかなかいいな」
「わたし、これにする」
「あ! 理子ちゃん、いい石見つけたな〜! 平べったくて、丸い!」
「理子は石選びにかけては天才的だな」
「そ、そんなことないよう……。えへへ……」
よーし、石選びができたら、いよいよ投げる番だ!
水切りにははねた回数で競う『カウント』と、はねた長さで決める『ディスタンス』とがあるけど、オレたちはいつも『カウント』で練習してる。
「じゃあオレからいくぜ!」
思いっきり振りかぶって、投げる!
「1、2、3、4、5、6789……、9かぁ!」
「勝太は早く手をはなしすぎだ。だから回転が最後まで乗らない。こんな風に……!」
お! 理人の石が滑るように川を跳ねていく!
……9、10、11、12、13……!
「すっげ! しょっぱなから13回かよ!」
「お前のパワーなら、石にきちんと伝えられれば安定して2ケタを出せるようになる」
「お兄ちゃん、すごい! じゃあわたしも!」
理子ちゃんのフォームは、小さいけどきれいだ。
7、8、9……! 同じだ!
「やった! 勝太君と同点だ!」
「やるなぁ! よーしもう一回やろうぜ!」
「おい、待ちな」
? 後ろから声をかけられた。
ふりかえると、体の大きい男子と、その子分みたいなやつが立っていた。
「お前らみたいな下手なやつらに、この場所はもったいねぇぜ!」
「そうだそうだ! 親分にゆずれ!」
「親分は世界チャンピオンになる男でヤンス!」
なんだと!?
「世界チャンピオンになるのはオレだ!」
「へっ、2ケタ出せないやつがよく言うぜ!」
「そうだそうだ! 親分はすごいんだぞ!」
「最高記録は16回でヤンス!」
じゅ、16回!?
す、すげぇ……! でも負けられない!
「なら勝負だ!」
「か、勝太君!?」
「おい、この場所は先に俺たちが使ってたんだ。そんな勝負をする必要はない」
「そんな事ないぜ理人。オレたちは世界チャンピオンを目ざしてるんだ。どんなやつにも勝っていかないといけないんだぜ!」
「ふっ、それもそうか」
オレたちの言葉に、親分はにやりと笑った。
「よし、いい度胸だ! ちょうど3人ずついるから、3対3のカウント勝負だ!」
「よおっし! 絶対勝つぞ!」
「あぁ」
「うん!」
オレたちは石選びを始めた。
勝負はいつだってワクワクするぜ!
「準備はできたか?」
「おう!」
「あぁ」
「うん!」
「なら順番を決めな! こっちは最初が鎌瀬佐古助!」
「そうだ!」
「二番手が三下八虎!」
「ヤンス!」
「そして最後は俺様、慈愛庵竹治様だ!
よーし、ならオレが一番で……!
「一番は俺、二番目は理子、勝太は最後だ」
「えぇ!? オレ最後!?」
「お前は気分が乗れば俺よりも記録を伸ばせるが、それまでに時間がかかる」
「うーん、確かにそうかも……」
「相手の強さもよくわからない以上、俺がまず様子を見つつ勝ち星を取る。次の理子で勝てればそれでよし、そうでなければ……」
「オレの出番ってわけか。よーし!」
こっちの順番も決まった。
じゃんけんで一回戦目は理人が先攻になった。
「ふっ!」
おお! 14回! 調子いいな理人!
「そうりゃ!」
佐古助は8回! まずは理人の勝ちだ!
「さすがだな!」
「あぁ。弱くはないが、落ち着いてやれば勝てる相手だ。理子、がんばれ」
「うん! わたしがんばる!」
今度は理子ちゃんが後攻だ。
八虎は9回。
今回も理子ちゃんはいい石を見つけてる。
いい勝負になりそうだ。
「いっくよー!」
「にえっきしっ!」
「!?」
あ! 八虎のやつ! 理子ちゃんが投げようとした時にわざとくしゃみを!
理子ちゃんの石は、2回はねて水に落ちた……。
「おやおや、すまないでヤンス。鼻の調子がイマイチでヤンスね〜」
「お前、わざと……!」
「よせ勝太。わざとやったという証拠はない」
つめよろうとするオレを、理人が止める。
くそ、絶対わざとなのに……!
「……ごめんね、わたし、わたし……」
……理子ちゃんを、泣かせたな……。
「……理子ちゃん、お願いがあるんだ」
「……え?」
「石、選んでくれないか?」
「……うん!」
理子ちゃんにそう頼むと、オレは竹治に向き合った。
「お前には絶対勝つ!」
「無理だなぁ。俺様の記録は16回だぞ?」
余裕の表情の竹治は、持つ石を見せつけてくる。
「そして今日の石はカンペキ! 20回いくかもなぁ?」
「いくつだろうと、オレはその上をいって勝つ!」
「……いいだろう! 絶望しな!」
そう言うと、竹治は大きく振りかぶった。
力まかせかと思ったけど、フォームもしっかりしてる!
「オラァ!」
! すごい勢いで、石が水をはじいていく!
……18回!
「どうだ! 見たか! 俺様の新記録! もう俺様の勝ちは決まったな!」
「……どうかな」
「何!?」
「勝太君!」
理子ちゃんが石を持って駆け寄って来る。
「これならきっと……!」
「ありがとう」
「……勝ってね!」
「あぁ!」
渡された石は、平べったくて、丸くて、そして一か所だけ少し出っぱっている。
握ってみると、手に吸い付くようだ。
「へっ、どんな石だろうが、俺様の新記録には……」
「新記録なんていくらでも作ってやるさ」
「な、なんだと!?」
おどろく竹治に、理人が腕を組んで言う。
「勝太はムラがあるからな。アベレージは2ケタいくかいかないかだが、最高記録は……」
オレは出っぱりに人差し指を引っかけ、全身の力を集中させる!
「24回だ」
踏み込んだ足から腰、腰から背中、背中から腕、腕から手、そしてその力が指先から石へと伝わるのがわかる!
理人のアドバイス通り、ギリギリまで指先にのこした力を解放すると、石にすごい勢いの回転が伝わる!
「いけぇ! 『サイクロン・マグナム』!」
「な、なんだよあの回転……! 10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20!? まだ行くのか……!?」
石が細かくはねて、水に落ちた。
「……理人、数は?」
「……26回。やるな、新記録だ」
竹治が膝をつく。
理子ちゃんの石と、理人のアドバイスを合わせた、オレたちの勝ちだ!
「……負けたよ、勝太って言ったか。お前すごいな……」
「そうだ、オイラたちの負けだ……」
「……ヤンス……」
「下手なんて言って悪かったな。謝るよ。……じゃあな」
竹治はそう言って、佐古助と八虎を連れて河原からはなれていく。
「おい、どこ行くんだよ」
「どこって、負けたんだから……」
「別にオレたちは『負けたら帰れ』なんて言ってないぜ?」
「え?」
「一緒にやろうぜ! 川は広いんだからよ!」
「勝太……!」
そうだ。水切りは競い合うものだけど、楽しむものでもあるんだ。
「つ、次は負けねぇぜ勝太!」
「望むところだ竹治!」
そうしてオレたちは日がくれるまで、水切り勝負を楽しんだ。
オレの世界チャンピオンへの道は、まだ始まったばかりだぜ!
読了ありがとうございます。
熱血主人公、クールなライバル、健気なヒロイン。
溢れ出るコ□コ□感……。
ちなみに主人公の名前は水切りを直訳したものをもじっていますが、英語ではStone skippingまたはStone skimmingだそうです。
こんなの名前にできないからね。仕方ないね。
水城兄妹はもっとシンプルです。
そしてやられ役達ェ……。
鎌瀬佐古助は地味にお気に入り。
普段書かないスポーツの話でしたが、楽しんでもらえましたら幸いです。