備えあれば憂いなしとはいうけれど……? ②
次の日、アンツァローズと一緒に買い物に行ったのはトゥーリォ。
父親の仕事を引き継ぐ為に商店で目下、修行中の身だ。
この日は魔力を持たない者でも使えるサバイバル道具を選んでくれると言うので、父親の営む商店の倉庫に見に来ていた。
「あっちが寝具、こっちが料理、そっちが便利グッズかな。どこから見たいとかあるか?」
そう説明を受けても倉庫が巨大過ぎてどこから見れば良いか迷ったので、近くにある料理道具から見る事にした。
そしてトゥーリォ兄さんの指示の下、フライパンや両手鍋などの基本的な物から揃える事にした。
「へぇ。魔道具って言っても色んな種類があるんだね。フライパンだけでも、こんなにあるなんて……」
「まぁ、ウチは品揃えを売りにしてるからなぁ。それが功を奏して爵位が貰えた訳だけど。あ、これなんてどう?ストーンタークの甲羅を使ったフライパン、熱が逃げ難いから作った料理が冷めにくいよ。」
「あ〜。私も良いなと思ったけど、でも重いし……」
「それなら、お兄ちゃんに任せなさい! ほいっとなっ!」
そう言った後フライパンが数秒、薄ら光った。
「な、何したの?」
「色々、効果付けといた。まずは重力軽減に、熱伝導の効率強化、それから汚れが付かない様に浄化の守り。これで、どう?」
「これで、どうって……」
本来、効果をつける時、道具を作った本人や加工してくれるお店に持っていくのだが、生活道具は消耗品だ。
一回、壊れてしまうと買い直した物に、また新しく効果を付け直す事になってしまい、どうしても値段が張ってしまう。
そして、安易に効果を付けてしまうと経済が回らなくなってしまう為、効果は家事アイテムには付けないのが一般的だ。
つまりは……
「トゥーリォ兄さん、これは国宝級なのでは?」
と恐る恐る聞いてみれば、
「あぁ。だってアンが使うのは国宝級、いや神器位でなきゃな!皸とかアンにはさせられない!」
と大真面目に答えられた。
そこで、ふと頭をよぎった考えをまさかとは思うが聞いてみる事にした。
「ねぇ、トゥーリォ兄さん。私が今日選ぼうとしてる道具も、実はもうトゥーリォ兄さんが選んである?」
「アン……。そんな事、兄さんがする訳無いだろう? 選ぶどころかアン好みにカスタマイズしておいたぞ! これから、説明していくから、安心しておきな!」
そう、晴れ晴れとした顔をしているトゥーリォ兄さんを見たアンツェローズは頭を抱えてしまった。
国宝級のアイテムを庶民が持つことは殆どない。
つまりは新しい場所で定住しようものなら、その家に泥棒が入るか、誘拐されて身代金を屋敷に取り立てに来るかのどちらかだ。
そんな事を考えて、段々と頭が痛くなってくる。
アンツェローズの曇った顔に気付かないトゥーリォは次のアイテムの説明を始めていたのだった。
そして、品物を説明していくたびにアンツェローズの口からは言葉数が減っていき、最後は兄を冷たい目で見る事しかしなくなった。
そして別れ際、説明したアイテムを一つ一つをどのように魔改造したのかメモしておく事をトゥーリォに命令したのであった。
アンツェローズが帰った後の倉庫にて、会議を始める為にトゥーリォは他の兄弟に念を送る。
「なぁ。今日のアン、買い物が進んでいく内にどんどん無口になっていったんだけど、何かやらかしたかな?」
「トゥーリォがやらかすのは、いつもの事だろうが……」
そう呆れながら答えたのは、リードだ。
「どうせ、魔改造のアイテムをポンポン見せたんじゃないか?」
「わー。それは、ありえる。(棒読み)」
続いて話に入ってきたのは、ジウローグとソンフォード。
「アンには皸とか生活で出てくる怪我とかをして欲しくないんだ。持たせる物を改造するのは当たり前だろ?!」
そうトゥーリォが応戦するも、
「猪突猛進に重い愛をぶつけたのが敗因。つまり、いつも通り。」
そう答えたリッツマイルの言葉で今日の妹を愛でる会は幕を閉じたのだった。
トゥーリォの嘆きの雄叫びを残して……
ストーンタークは、頑丈な石材(鋼みたいな)の甲羅を持った亀です。
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