備えあれば憂い無しとはいうけれど……? ①
時が経つのは早く、出立の1ヶ月前を切ってしまいカウントダウンの足音が聞こえてくる。
最近は、というと兄達が新生活に必要な物を選んでくれるというので日を分けて買い物に付き合ってもらっていた。
「アン!これなんか、どうだ?赤は可愛いアンにぴったりだ!それとも髪色を映えさせる為に青が良いか?」
そう、大きな声で話すのはジウローグ兄さん。
今日は旅で着る服を見に来たはずなのに、ジウローグ兄さんが手にしてるのはフリルの付いたスカートだった。
「ローグ兄さん、今日は旅の服を見に来たのだけれど?」
そう、窘めると「悪い、そうだったな。」と頭を掻いて服を元に戻しにいった。
ジウローグ兄さんは、私と同じように魔力が無いのだけれど元々、剣筋が良かった為、入った騎士団で頭角を現して今では騎士団長にまで昇り詰めた。
今では魔力無しの貴族が自力で赤の騎士団・騎士団長になったことで、庶民の中では憧れの人となっている。
また、赤の騎士団は、騎士団の中でも激戦地や僻地での派遣を主にしていて、団員の出入りが最も早いと言われている程の過酷な団。
その為に貴族よりも庶民の割合が多い事や、今まで駒の様に使い捨てにされていた事もあってか、世間から赤の騎士団は悪いイメージを持たれていたが、ジウローグ兄さんが立て直したおかげで多種多様な戦術や、個々の武器スキルの向上、そして父の商店との綿密な打ち合わせで進化していくサバイバルアイテムなどの効果も相まって戦死者や負傷者も激減していき1番、市民に応援される騎士団となった。
そう聞くとかっこいい兄なのだが、目の前の兄はどう見ても娘を溺愛する父親に見えてしまう。(ここだけの話、兄弟の中で一番の老け顔なのだ……)
一応、これからの季節は冬から春に向かうのだが、まだまだ寒い時期が続く。
その点を踏まえて自分でも服選びを進めていく事にした。
「よし!出来た!」
そう言って完成したのは昔ソンフォード兄さんと行った旅の途中で見た町の人の格好に似せたコーデ。
町の人が着ていたフード付きのポンチョが可愛らしくて、いつか自分でも来てみたいと思っていたのだ。
そして、動きやすいように丈夫な生地のパンツスタイルにしたところで良いコーデが出来たと満足していたら、ドレスを返しに行っていたジウローグ兄さんが「それは、地味過ぎないか?こっちの方が……」と派手な旅用の服を出して来たので静かにお蔵入りにさせてもらった。
多分、ジウローグ兄さんの中では私が今でも幼いままなのかもしれない。
だけど、人は変わる。私も例外じゃない。
正直言うと、貴族の服のような派手で装飾ばかりの見た目は苦手だ。
いや、貴族の世界、そのものも。
18歳までの私は周りに失望されないように、尊敬されるように正解の道を歩いて来た。
そんな私を兄達は、ちゃんと気付いていたみたいだけど温かく見守ってくれていた。
それは嬉しかったけれど、時に周りとのギャップに居辛くて本当は魔力無しと言われて本当はホッとしたのかもしれない。
もう、頑張らなくて良いと。偽りの自分でいなくて良いと。
だから……
「ジウローグ兄さん、この服似合うでしょ?」
そう笑顔で問い掛ければ、ジウローグ兄さんはハッとした表情をした後にあぁ。と温かい目で声で答えてくれた。
その答えを聞けば私は間違っていないと、そう思える気がする。
だって自然な笑顔の私が映っているはずだから……
洋品店の用事が済んで、アンを屋敷まで送り届けた後、騎士団の執務室(個室)にて、いつもの会議を始めようと兄弟に念を送った。
「なぁ。アンが天使で可愛いのだがっ!? 出立までに俺の心臓、持ちそうに無い。」
そう、ジウローグは兄弟に念を送る。
そうすれば兄弟全員から
「アンが可愛いのは今に始まった事じゃ無い!」や「毎分、毎秒、可愛いを更新してるのがアンだろ!!」といった熱のこもった念が送られてくる。
真っ当な答えを受けたジウローグだったが、
今日の妹は違う、何故かそんな気がした。
そして、言葉に出来ない何かを伝えようとするも上手くいかずにいたジウローグはジウローグは他の兄弟に対して「アンとの買い物中に死ぬなよ。」と密かに祈りを込めたのだった。
その後、記憶録画装置をつかって今日の買い物の思い出を装置を使って、しっかりと刻み込んで一日を終了した。
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