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調合師の徒然草  作者: 紫ノ乃芽 透子
プロローグ
6/12

夢のマイホームは皮算用で建てる。


爵位返納(しゃくいへんのう)が決まった数日後、私は屋敷を出た後に行く先を考えていた。


「う〜ん。どこに行こうか……」


そう悩みながら王国の地図を見るべく書庫へ向かっていた。


この国、リッツヴェルグ王国は周りを海に囲まれた大きな島の上に成り立っている。


島だからといって産業が無いわけではなく、資源もあり農業、漁業、工業が共に発展していて豊かな土地だ。


それは昔、異世界から女神が現れこの土地が豊かになる知恵を()しみなく与えたからだと伝説になっている。

その伝説が語り継がれた後も異世界から様々な人が現れては新しい文化や技術を伝えてこの国は発展していった歴史が残されていた。


さて、屋敷の北東にある車庫に着いたアンツェローズは「リッツヴェルグ王国の歩き方」という本を読む事にした。


この本は地図と各地の産業や観光地、美味しい料理などが写真付きで(あわ)せて読めるものになっていて、

旅のお供に必ずと言っていい程、選ばれている本。

町の紹介文も見応えがあるので毎年、刊行されるその本を読み物として集めるコレクターも沢山(たくさん)、いる。


アンツェローズが本を読んでいるうちに目に()まったのは、自然の多いフィルドール地方のはじまりの町・ジーニァと呼ばれる所だった。


ここは昔から異世界から現れる転生者や迷い人が多く、ここで暮らしながら才能を開花させていったという言い伝えがある。

そして母親の先祖が暮らしていたのも、この町で、幼い頃に何度か連れて行ってもらった記憶があるのだ。


昔、家族で泊まった小さな家の周りに咲いていた草花が今でも心に残っていて温かい気持ちになる。

屋敷を出たら思い出の地(ジーニァ)に立ち寄ってみようと決めた私は母に伝えるべく、母の書斎に向かったのだった。


「お母様、私、行く先を決めたわ。」

そう意気揚々と扉を開けて伝えると、母は一言だけ「そう。」と呟いた。


そして静かな間が少し開いた後、母は(おもむろ)に机の引き出しを開け、一つの古びた鍵を取り出した。


「これは、私の祖先達が受け継いでいる土地にある一軒の家の鍵なのだけれど、それをアンに渡そうと思います。

貴女が幼い頃に欲しがっていた家なのだけれど、覚えているかしら?」


そう聞かれた時、真っ先に浮かんだのは地図で見ていた町の思い出の家だ。

でも……


「でも、お母様、私は庶民になるので相続は出来ません。ですから……」

私は母に、そう伝えると

「相続は致しませんが、人生には抜け道があるのですよ。」

といたずらっ子の顔をして笑った母の顔があった。


庶民が家に住む時、大家から家を借りなければならない。

そして、庶民が家を持とうとした時、大家に毎月の家賃を払い続け、払った家賃の合計が入居時の地代の金額になった時、その家の現在の価値値(かちね)と建てた当時の家の値段の3分の1の割合の()を合わせた金額を払えば自分の物に出来るのだ。


そして家を出た貴族は、毎月30枚の白銅貨(エラ)が実家もしくは一族から送る事が出来、(つつ)ましく暮らせば1カ月5枚の白銅貨で庶民は暮らせるので、コツコツ貯めて借金を払っていけば自分の家が持てるのが難しくないと言う算段だ。


正式に大家と店子(たなこ)の契約を結べば借金を払い続ける限り罰は受けない。

しかし、借金を一回でも払うのを(おこた)れば、庶民と比べて倍の懲罰金が両方に課される。


その説明を受けた後、母は私に「どう?」と聞いてきた。

私はもちろん迷いなく家を譲り受ける事に決めたけれど、後になって少し後悔するとは、この時はまだ知らなかった。

もしよろしければ皆様のフォローやコメントなどの応援を下されば幸いです。

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