運命の行方
あれから18年。
アンツェローズは18歳になり、名前を表すかの様な柔らかいアンズバラの色の髪と明るい蜂蜜色の目、薄らとピンクがかった健康的な肌。
誰に対しても分け隔て無く接し、5人の兄がいるにもかかわらず粗暴な素振りも見せないアンツェローズは誰もが認める素敵な大人になろうとしていた。
また、そんなアンツェローズと縁を持ちたいという者が後を経たず、毎日のように縁談話が屋敷に届き、自国の皇太子までもが自ら求婚しに屋敷へ行ったのは国の伝説になろうとしていた。
しかし、そんな話を聞きつけた兄達は変な虫が寄り付かないようにとアンツェローズの知らない所で年下の男の子達に、あの手この手の睨みを利かせていった為、今では皇太子と、その護衛数名位しか近寄らず、後は高嶺の花として見守るしかなかった。
さて、この国では10歳になった年と18歳になった年の子供達、全員にとって大事な儀式が毎年、行われている。
それは、適性検査と呼ばれる試験だ。
体力、知力、スキル適性、魔力測定、魔力適性の5種類を数値化、又は可視化する。
適性検査は後天性の物も検査する為、18歳になった年にも、もう一度開催されるのが慣習だ。
体力・知力はその名の通りなので説明を省くが、
スキル適性は所謂、自分の特技などを可視化する検査。
料理が得意な人は料理スキルが、
武術が得意な人は扱える武器と技の修得率をレベルに換算したもの。
スキル属性は実用的な物から変わり種、個人独自のものまで幅広くあり、熟練度に応じてレベルが貰えるので魔力の無い者はこちらを優先して就職に使う。
次に、魔力測定は、その名の通り自身が持つ魔力を測定するもの。
貴族は魔力を持って産まれてくる確率が高い為、地位の次に重要視される要素だ。(影では魔ウンディングなんてスラングがある。)
ここで魔力測定0…つまり、魔力が無いと2回言われた場合、貴族の子は一度、個人の貴族爵位が剥奪され市井で暮らさなくてはならない決まりがある。
その為、1回目で魔力無し判定をされた場合、魔力を身につける為に色々な事を体験、修行する者もいれば、
一般職で雇われる為にスキルを磨き続ける者もいたり、第2次変革期といって16歳前後にくる後天性の魔力体得を神頼みする者もいて三者三様だ。
最後は、魔力適性は魔力の質や属性を調べる。
属性を分かりやすくいうと火、水、木、土、生、光、闇の7つが主属性になる。
生魔法は、別名リンカーと呼ばれており、主に動物や魔獣を使役したり、精霊の力を魔法として使ったりする属性だ。
他にも2種類以上の属性を併せ持つ者や全属性に対応する者などもいたりする。
このような5種類の検査を何日間かに分けて行うのだが、
一般の子供は魔力を持たない者が多いので、店などで働く為に体力、知力、スキルの適性を気にし、
貴族の子は魔力を持って生まれてくる者が多い事も相まってか魔力測定、魔力適性を重要視する傾向がある。
そして、前述した通りアンツェローズも18歳。
2回目の適性検査を受ける事になるのだが、アンツェローズは、とても緊張していた。
「次! アンツェローズ・リンドール」
大きく響く声で呼ばれたアンツェローズは、
今、国一番の神殿の中にある神託の間へ歩みを進める。
今日、ここで下される検査によって今後の人生が変わっていくのだ。
緊張する気持ちが先走って歩幅も心做しか、少し短く、足早に動いていく。
そして、指示された位置で立ち止まると自信を落ち着かせるように今できる最大限の深呼吸を数回して心を落ち着かせた。
「では、アンツェローズ・リンドール様。こちらに手を置き、気持ちを落ち着かせ魔力に必要なマナを感じてくださいませ。」
そう言われたアンツェローズは目の前の水晶に手を翳し、もう一度、深呼吸をしてから、マナを感じ取る状態に移った。
リンドール家の中では、ジウローグ兄さんが魔力なし、リッツマイル兄さんは後天性の魔力体得、その他のリード兄さん、トゥーリォ兄さん、ソンフォード兄さんが魔力ありの診断を受けている。
だから、どう転ぶか不安でしか無い。
なにせ1回目の適性検査結果は魔力なしだったからだ。
1回目の検査の後から通っていた寮学校の放課後に補修をしてもらったり、マナの多い場所に行って泊まり込みもした。
だけど、結果は……
そう思えば思うほど、その不安が不安を呼びマナを感じ取る事が上手く出来ない。
それでもマナを感じ取ろうと必死に思い直して神経を張り巡らす。
しかし、水晶はマナの反応に呼応することなく試験官はアンツェローズに魔力測定不能を言い渡したのだった。
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