5つ子は妹に夢中
アンツェローズが生まれて数時間後……
屋敷に賑やかな5人が戻ってきた。
長男のリードは丁寧な口調で、
次男のジウローグは元気よく早口に、
三男のトゥーリォはふざけた口調で、
四男のソンフォードはクスクスと笑いながら、
五男のリッツマイルはトゥーリォのおふざけが気に入らないらしく膨れ面で、
それぞれ帰宅の挨拶をジルに発した。
ジルは丁寧に頭を下げながら、お帰りなさいと声を掛けると、その場の空気を変えるべく手を肩より上に上げて2回手を叩き、自分の下に近寄るよう手を招くように動かす。
それを見た5つ子は、いつもなら個々の事情に合わせて指示を出し侍従達と共に仕事に取り掛かるジルの目新しい行動に釘付けになりつつジルの下へ近寄った。
「リード様、ジウローグ様、トゥーリォ様、ソンフォード様、リッツマイル様。今日から、皆様はお兄様になられます。ですから、身支度を整えて奥の間へおいで下さいませ。そして、奥様とお子様に挨拶をお願い致します。」
そう、目線を合わせながら小声で話すジルの言葉を聞いた5つ子は、それぞれ賑やかな声を上げながら自分の部屋へ我、先にと急ぎ向かっていった。
それから数十分後……
息を切らせながら思い思いのお洒落をした5つ子が並んだ。
急いで来たので蝶ネクタイが歪んでいたり、髪が崩れていたり、手が綺麗に洗えて無かったりといった乱れをジルが指摘しメイド達が整えて行く。
きっちり仕上がった姿を確認したジルは、静かに赤ちゃんの居る部屋へ案内した。
その部屋は優しい音色のオルゴールが流れ、どこからか来る甘い匂いが漂っている。
そして、赤ちゃんに近づくにつれ、その匂いが強くなれば5つ子達は段々と赤ちゃんの方角を見つめながら静かに歩いていった。
「うわぁ、寝てる〜」、「ほっぺは、モチモチしてるぞ!」、「僕たちの声、聞こえてるのかな? 君のお兄ちゃんのトゥーリォだぞ〜」、「あ、ずるい!僕はソンフォードだぞ〜」、「しっ!静かに!みんなの声で起きちゃうじゃないか!」と5つ子達は思い思いに小さい声で赤ちゃんに話しかける。
すると、目の前の赤ちゃんは少しずつ顔を歪ませていき泣き始める。
そうして、「ソンフォードの所為で泣いたぞ!」とトゥーリォが言えば、「リードが叱る所為だ!」とソンフォードが言い出す。ジウローグは蚊帳の外で笑っているし、リッツマイルはオロオロと渦中の周りを彷徨くだけ。
問題が膨らみそうになった時、メイデンが奥から顔を覗かせた。
「小さな5羽の小鳥さん、お喋りをやめて私の周りに集まって。」
そう、メイデンが言うと五つ子は静かにメイデンの周りに集まった。
そしてメイデンが赤ちゃんを抱いて子守を歌うと、またスヤスヤと眠りについたのだった。
「ねぇ、お母様。この子は何という名前なんですか? それに性別も知りたいです。」
そう最初に口火を切ったのはリードだった。
そこから、5つ子の中でクイズタイムが起こった。
そして、すぐさま全員が名前は分からないが性別は可愛いから絶対、女の子という結果に至り、
メイデンに同意を得る眼差しを向ける。
メイデンは、その光景が愛らしくて思わず吹き出すようなら笑ってしまう。
ひとしきり笑った後に性別と名前を教えると今度は、どの愛称が良いかの論争を始めてしまった。
この論争は屋敷中を巡って何年もの間、続いたのを、この時は知るよしも無かった。
さて、この時を境に5つ子はアンツェローズに夢中になった。
そして、噂が噂を呼び一週間も経たない内に屋敷中にまでアンツェローズは愛されるようになった。
そして、誰が一番に懐かれ笑わせるか?から始まり、お決まりの最初の言葉は何か?や、変わり種の好きな物をどれだけ見つけられるか?など、様々な競争を兄弟間から家族間に、そしてひっそりと屋敷中の侍従達の者まで競い合うようになる。
それから一年後、とある勝負の勝敗を決めた歴史的な日を迎えた。
「んなぁっ!じゆ〜。じゆ〜。」
それは、いつものように5つ子がアンツェローズのご機嫌を取ろうと、プレゼント競争してた時だった。
兄達に引っ張りだこになりながら助けを求めたアンツェローズが呼んだのは じゆ〜 こと、ジル。
その時、赤ちゃん言葉であるものの初めて人の名前だと分かる発音で言ったのである。
しかも、ジルの方を向いていたので間違いない。
それからというもの、屋敷中から反感をかったジルはそっけない態度を1ヶ月とられたのであった。
5つ子がメイデンの言う事を素直に聞いたのは、
出産時の話や他にも多々あるメイデンの逸話を幼い頃に、こっそり侍従達の話で聞いてしまったからです。
そして、アンツェローズがジルの名前を呼んだのは、
この家の中で一番耳にする名前だから。
そして、執事長のジルを中心にして物事が動くので多分スーパーマンだと思ってるのだと思います。
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