選ばぬ者は何兎も気にしない
店の外に出ると冷たい空気が頬をなぞり、外は夕焼けがやって来そうな黄金色の光を放っていた。
家路に向かって歩いている人達は満足げだったり、名残惜しそうにしているが、
アンツェローズはクジが引けると気持ちが舞い上がってしまっている。
そんな気持ちが先走って、歩くスピードが早いのに気が付かず兄を急かすばかり。
でも、妹の新しい面を見ているリードは悪い気はしないのであった。
2人が催事場に着くと、周りには親子連れや大小、様々な冒険者グループなど沢山の人が集まり活気に満ち溢れていて、目当てのクジ屋台に近づくにつれ兄の神々しいオーラによって前にいる人たちの波が奇麗に横に分かれていくので凄く気恥ずかしくなってしまう。
実は催事場に入る前、
「リード兄さん。私、クジを引いて来るからここで待ってて。」
と言うのに、どう言っても聞いてくれなかったのだ。
しかし、クジ屋台の係員が萎縮したのがきっかけで、後ろにある小さなオベリスクのモニュメントまで渋々、下がってくれたけれど眼力は衰えることは無い。
クジは引換券1枚につき1回らしく、私は3回引けるみたいだ。
そして景品は上から
ミスリル賞
【加護付きA級従魔契約券】
金賞
【マルタ牧場・金等級の餌 一年分(従魔の懐き度が格段に上がる餌)】
白銀賞
【B級従魔契約券】
銀賞
【従魔専用の新生活応援グッズ10点セット】
白銅賞
【何が出るかな?ドキドキタマゴ3点セット(殆どが初心者でも飼いやすいF級の獣魔)】
銅賞
【テイマー市場デザインのステッカー】の6種類。
机の上や、後ろの箱の中にはステッカーが山程あり、見ただけでも当たらない空気が漂っている。
それでも気持ちを引き締めてクジの入っている箱の中に手を伸ばし、ヴェー賞以外を当てようと祈りながらボールを探った。
そうして選んで出てきたのは、銀色のボール【従魔専用の新生活応援グッズ10点セット】だった。
最初にしては悪くない引き。
スワローリンクに関係するアイテムがタダで貰えるなら有り難い事、この上ない。
次に選んで出てきたのは、白銅色のボール【何が出るかな?ドキドキタマゴ3点セット】だ。
当てた瞬間、後ろの方から冷たい風が此方に向かって吹いているような気がしたけど気にしないようにした。
自分の飼う従魔を選べない程に私は優柔不断だから、何が生まれてくるのかワクワクしながら育てる方が性に合ってる気がしている。
だけど、目の前にいるクジ担当の係員は私の遠く後ろにいる兄の圧に萎縮どころか縮み上がっていたので、早くここから離れた方が良いと思った私は、すぐさま箱に手を入れてボール選びに移る。
でも、クジを引くのが最後だと思うと中々、即決できない……
目の前で祈りを捧げている係員の圧に押されて取り出したのは、金賞の【マルタ牧場・金等級の餌 一年分】。
祈りが届いたのがよっぽど嬉しいのか、大粒の涙を零しながら係員は「当たり〜!当たりだよ〜!」と叫び、「ありがとう。ありがとう。」と勢い余って私の手を握ろうとしたところを兄に制止させられ直ぐに屋台を後にしたのだった。
屋台を出た後、賞品を受け取りに交換所へ向かうと、先ほど行ったように従魔契約をするように進められる。
なんでも、孵化した従魔が最初に食べる物は従魔契約紋が付いた卵の殻らしく、それを食べることによって従魔契約が完了するらしい。
なるほど、と思いながら契約をすると、苦々しい顔をした兄が私に2度目の癒し魔法で傷を塞いでくれた。
スワローリンクの鳥籠に、3つの卵が入ったケース、応援グッズ(10点セット)、一年分の餌と持って帰れない程の大荷物になるかなと思っていたけれど、
一年分の餌は後日、新しい住まい先のジーニァの家に届けてもらえるし、応援グッズは兄の収納魔法で運んでもらえる事になったので、タマゴを背負っていたリュックに入れて、左手にスワローリンクの入った鳥籠を持つ事にした。
そして、帰りの貸切馬車では一度に3個の卵と1匹の従魔との契約をしたことで上がりきったテンションのまま、緊張せずに兄と話しながら帰路に着いたのだった。
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今まで伺うような表情ばかりで、感情を出してこなかったアンが、
今日の帰り道は他の兄弟と話すように柔らかい表情を浮かべながら自分を見て話してくる。
それは今日、契約したばかりの従魔のおかげなのだろうが、今までで1番心温まった日だとリードは感慨深く思った。
周りの兄弟以上にアンに対する思いは強いのだが、嫌われないようにと感情の起伏を無くした結果、逆にアンとの距離ができてしまっていたのだ。
王宮にある自分専用の自室兼、寝室に戻った後、今日あった出来事を嬉し涙を流しながら日記に長文で認め終わったリードは、従魔のムーンラピッドに今日の出来事を記憶ごと全て残さず伝える。
主人の心を読み取ったムーンラピッドは、おとなしく撫でられていたものの、耳をパタパタと大きく動かして同じように喜ぶのであった。
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まさか、後から3つの従魔が増える事になるとは思っていなかったけれど、これからの事を考えると今まで以上に胸がときめいた。
そして、朝のぎこちない態度を兄に取っていたことを忘れて沢山、話しながら一緒に帰った瞬間は今までの2人の中で一番、温かい時間になったと自室に着いたアンツェローズは思いつつも、いつもとは真逆の言動に気恥ずかしさが募りベッドの上で身悶えながらも夜はゆっくり更けていくのである。
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