建国の体が整った竜
大陸にあって最大の魔境、竜谷。
七龍連山を眺望するここは、六属性+1の竜種が住まう「竜の本拠地」である。
七龍連山。頂を天に見る険しき山々の細く長く連なる大自然の絶景は、まるで竜の血脈の永遠なる を表しているかのようだ。この山脈は伝説の「古竜大戦」の余波によるものと伝わる。
地竜と火竜がぶつかり合えば、大地からは火が噴き出し天を衝く。
やがて戦場は拡大し、風竜と氷竜が吐息を吐き合えば、ついに世界は氷に覆われ暗黒に覆われた。
当時、人族(このばあいは半精霊も含む)は未曾有の危機に瀕した。
事態を重く見た白竜は女神の意思を尊重し、竜の争いを諫め世界の暗黒を払ったという。
人族の寓話はともあれ、実際のところ七龍連山は竜種の絶対防衛線であり、そもそもの目的は牧畜 である。
我ら竜種は当座の問題が片付いたことに久方ぶりの感慨を得る。
食料は極めて潤沢。我らが住まう限り、鉱物は尽きることがない。借り物とはいえ技術を得、鉄(?)を使った装備は順調に整っている。
その鉄であるが、物は試しと世界樹など入れてみればなんともはや「真の鋼」と呼ぶべきものとな るではないか。ならばと我ら「始まりの竜+」の爪牙、鱗をも入れ、皆で「鋳造」してみれば、こ れはドヴェルグ王国で伝え聞いた「魔鉱石」や「オリハルコン」のようである。
おお、なんと魔鉱石とはこのように作るのか。小さき者からしてみれば鋳造に苦労するわけであ る。我らとて皆で「鋳造鍛造」せねばこのような物、まるで溶けぬ、まるで曲がらぬ。龍鉱の次に 硬いのではないか?
我らはこれを「鋼の中の鋼」、「オリハルコン」と呼ぶこととした。
ドヴェルグ王国に見る「兵」という種族。
これを我らで再現しようとオリハルコン鎧を多く作るべく、オリハルコン炉を建造した。
オリハルええい長い。
略して「オリハルシリーズ」は竜谷で大量に生産されている。
兵という種族には「剣」「盾」「槍」「弓および投石」に「馬」なるものがあるらしい。
我らは剣、槍をオリハルシリーズでまとめ、弓を世界樹で、投石はその辺の岩で行おうと考えた。
が。ブレスと弓矢はどちらが遠くまで、正しく届くのだろうか?
これは盾の素材に関わる重大事であった。
弓の威力が大なれば、盾はオリハルシリーズでもってしても防ぎきれず。したがって衝撃を吸収す るために金属と世界樹の板を重ね合わせたものとなる。当然であるが、盾の大きさは竜を覆う程度 が望ましい。
皆が励んでいる中、我の下に古株の竜が訪れた。身体つきといい、纏う雰囲気といい武辺の者と見 る。
「はじまりの黒竜の。近頃はやれ道具がどうだ、技術がどうだと皆いうが、竜とは己が身一つで既 にして頂に立つものなり。おぬしらはずいぶん齢を重ね、耄碌したのではあるまいか。」
と嘲るように言うものだから、我は答えて
「ではおぬしの爪牙が武具に敵うか見せてもらおう」
と言い大盾を持って組み合った。
真正面から爪牙を繰り出すその姿は見事なれど、その全ては盾に弾かれ、空に昇って勢いをつけ乾 坤一擲の爪を繰り出すも、盾の表面をわずかに削るのみ。
首を狙おうにも、盾が邪魔。
頭を狙おうにも盾を繰り出されて狙えず。
ならばと盾を狙おうにも爪牙が通らず、根負けしたのか
「見事なり」
と一言述べて戻って行った。
それから各々しばしの訓練の後、若い地竜の一組が弓と盾をもって検討を始めた。
片方はオリハルシリーズの盾を構え、もう一方は弓に矢を番えた。
果たして結果はいかにと皆が見守る中、矢は放たれた。
「ばしん」と空を割らんばかりの初速でもって、「どっ」と周囲一帯を吹き飛ばしながら果たして矢 は盾に半分ほど刺さった。
次に吐息を吹きかけてみようということで、盾を崖下にはめ込んで、皆それぞれ吐息を吹いてみ た。
しかしいくら吹けどもびくともしない。
弓矢は強力無比なる武具である。
盾を強大にせねば貫かれる。
鎧を隙無く分厚く作らねば、一矢にして集団ごと「破壊」される。
鱗が何の役に立つ? あの矢から翼で逃れることなど不可能だ。
爪牙がどれほどの威を持とうか? 盾を貫くことなどできるはずもない。
なぜなら我らのブレスを防ぐのだから。
竜が真の意味で「道具」の恐ろしさを体感したのはこの時であった。
我ら竜種の間では盛んに議論が行われるようになった。
このような道具を初めに持ったものは我らか。否か。
それは小さき者というらしい。
小さき者は獰猛か。
真っ先に魔獣とみれば襲い掛かり、我らに臆することなく射掛けてくるほどである。
なれば小さき者たちが攻め寄せてくるのではないか。
どうやら我らの鱗に奴らの弓矢は弾かれる。
ならばそれは技術というのを隠しているのではなかろうか。
「弱い」と思い込ませる。いかにも隠れ潜んで狩るものに似ている。
聞けば小さき者たちはずっと潜んできたらしい。
それが急に増えたものだから、互いに争ってでも獲物を探しているようだ。我は空からそれを見 た。
なれば、ここは格好の狩場ではないか。
然り。我らの住処は狩場として最上級。
鉄も獲れるのだ。奴らは鉄が好きだという。
まさに奴らは手ぐすね引いて我らを攻めようと企んでいる。
これはまさに危急の事態ではないか。
そのような時世である。
人族、建国。帝国を名乗るもの、大陸の東に覇を唱える。
ドヴェルグの諜報竜より空を伝ってもたらされた報せに竜谷は対応を迫られる。
そこに輪をかけて事態は混沌の様を呈する。
長く沈黙を保った大森林、ドヴェルグ王国に使者を出し、中立を宣言。
ドヴェルグ王国から再度使者を出すも、中立を宣言。
帝国より使者。中立を宣言。
中立を宣言。
あらゆる対話に置いて時に優雅に、時に横柄に中立を宣言するこの種族をアールフと呼び皆恐れ た。
何をもってしても、中立を宣言する大森林。
竜谷もまたどこか期待するように使者を待っていた。
我らも、中立を宣言されたい。
そうすることで得られる何かがあるような気がしていた。
魔人諸部族、西に建国。
アールフは流れるように中立を宣言。
大陸中央に位置する秘境、大森林はとにかく絶対中立を謡い。
北部のドヴェルグ王国は竜谷に使者を送る。
もっとも、使者はごく簡単な方法で送られた。
スパイに「乗ってきた」のだ。
我らは「城のような山」あるいは「山のような城」へ使者を招いた。
愕然とした心持ちでもってである。
我らは、我らに対しただけは、何も言って来ないか! 大森林!
小さき者、未だ見ぬ者、アールフ! 滅ぼしたい! 姿が見えない!
相対した暁には、せめて態度だけでも中立的になってもらおうぞ!
使者は竜谷の奥底に作ったはいいものの誰も使わない「山のような城」の威容に飲まれて眼下の光 景に目を余裕も無かったようであった。
そこにはドワーフ垂涎必至の光景が広がっていたにも関わらず。
竜の鍛冶場。
一つ一つが小山のようなオリハルシリーズ。形は歪なれど素材が「色々おかしい」オリハル炉。世 界樹の弓矢。竜称「鉄・魔鉱・オリハルコン」が山を形成し、方々でブレスが上がり(ブレス工 法)、尾に槌をつけた竜が轟音を響かせる。奥には龍鉱「脈」の山々(オリハル炉とハンマーで少 し使った)。
どれ一つとっても向こう数千年は戦える代物である。
ともあれ使者を城へ案内し、半神獣(最近では神気が薄れている)の良い部位を焼いて出してやっ た。
大層驚きながらも土産に、一口含んで喜色を浮かべ、土産にと言うので運んでやることにした。
使者は言った。
「時代に大乱の兆しあり。大いなる龍種の方々におかれては如何ようにもなりましょう。されど我ら は小さき者。大乱に飲まれ立ち消えるやもしれず。ここに盟約を結びたく馳せ参じた次第でござい ます。まずは両国の友誼の証として、」
語られる言葉に淀み無く、今を生きるものの力強さが感じられた。通訳の竜は感じ入ったようだっ た。
我らはしばしの間、語りに飲まれた。荘厳なる龍の城には危険な沈黙が降りていた。
我らのうちの誰が言ったか、
「待たれよ、勇敢なる小さき者よ。乱とは言うが、どの乱か。東の乱か。西の乱か。それとも東西が 相争う乱か。」
一条の風が吹いた。
使者は答えて
「と、東西の、ひ、東の帝国と西の魔人との乱に、ございます。」
風は強まる。
「して、我らに何を求める?」
使者は必死に答えて
「庇護を!、代わりに我らの技術を!技術のすべてを!」
使者は椅子とテーブルにしがみついていた。
我らは調印し、「正式に」技術を頂くことと相成った。
風竜め、無茶なハッタリを効かせおって。我は問うた。
「風竜の、ドヴェルグなる小さき者の技術を得られることの理は分かる。だが我らの技術もまたあの 者らの知るところとなろう。それはどうする。」
奴は答えて
「我らならではの技術です。小さき者たちは吐息を吐きません。それも反対属性の吐息を含めて我ら の技術。まず不可能です。仮に可能であってもそれで五分。代わりに難航中の「留める」「外す」 の理を得られれば我らに利があるというもの。彼らが技術を進めるならばそれも良し。我らに「教 えて」頂きましょう。」
などと涼しい顔でのたまう。
我はしかし、庇護を与えることに乗り気ではない。その旨伝えてみれば、白竜が割って入って
「我らの技術、試して初めて分かる道理というものもありましょう。」
などと言う。
火竜などは「腕が鳴る。腕が鳴るぜぇ」などとうるさくてたまらん。
どうにも分が悪いのでここはあえて氷竜に話を振った。
「凍らせてしまえば事は済む。熱があるならば、時すらも凍らせてみせよう。」
と戦意を滾らせているものだから、致し方なし。
竜、ここに満場の一致を持ってドヴェルグ王国との不可侵を宣言。
また立て続けに、技術供与を見返りとした保護を宣言。
さあ来い、とばかりに建国をまで宣言した。七龍連山龍谷連峰長老協議会。
略称「龍谷」、転じて「竜国」または単に竜の国。
さあ来いと身構える竜たちの姿や虚しく。
中立宣言は待てど暮らせど来なかった。
竜とアールフとの間にある歴史問題が発生した。
これが両国間に多くの摩擦と妥協を生む
「建国時中立宣言問題」
である。
本当に頂けるとは思っておりませんで。
皆さま続きはこちらです。
https://ncode.syosetu.com/n8340gj/ 『竜と文化人』Ulysses様より ありがとうございます
エタった。無理だ。数は少なくとも心優しき読者の皆様、どうかこの作品を読んでそして書いて
成仏させてくれ。
本編は全編フリー素材でできています。誰か、竜を武装させてくれ。わたしに竜の重装歩兵を見せてくれ。龍の国を見せてくれ。龍の国の繁栄をわたしは見たい。人を蹂躙するもよし。人と共にあるもよし。