発達する石器が全般的に怖い
戦化粧を施された者たちの間に神官が入り、ここに太古の神威を示す。
鬨の声が上がる。神前の戦が始まった。石器に弓矢、豪の者には銅器の刃。この戦は、世界最先端 の集落が互いの雌雄を決すものであった。
戦士たちの切り結ぶこと数十合。矢が飛び交うも、石のナイフを構わず振るう。
合戦よりしばらく。
やがて戦場には血の匂いが漂う。
横合いから狼型の魔獣の群れ。ここに人類は一時休戦。
対魔獣の共同戦線を張る。
一時は押し込まれたものの、即席の連携にもかかわらず一進一退の攻防へと盛り返す。
その攻防を果たして勝利したのは、これ幸いと魔獣の背後より見物に入った者である。
人々は初めて「岩から羽が生えたもの」を直に目撃した。
動揺した人類共同戦線は魔獣に掃討され、その魔獣も同様に怯えて逃げ去った。
黒竜配下の古竜、普段は上司に振り回される存在も、生態系の中ではトップである。
小さき者たちの争い・・・。
近頃増えてきたという。争いの道具はすべて回収だ。弓、矢、剣、石の道具。
滑らかな石器だ。より細かいものもあるようだが、我では拾えん。
「加工」された肉と魚。
これらすべてを作れと言われた。無理である。我らは力強いが器用ではないのだ。
こんなものか。「集落」なるものには不用意に近づいてはならぬ。
しかし恐ろしい。
どこまで歩みを進めるのだろうか。主が脅威を覚えるわけだ。
彼らはいずれ竜の敵となろう。
脆弱なるものに臆する主など仕えるに値しないと思っていたが。流石はわが主よ。
「主、以上が報告と収穫物です」
我、始まりの黒竜は道具の数々を見る。どれもこれも我らには作れないものばかりだ。
「子よ、大儀である。くれぐれも小さきもの相手に油断をするなよ。お前は我の言いつけ通り、出 発前に溶けた鉄の中に入り身体を覆ってから行くが、皆にも徹底させよ。ところで新しき住処はど うであるか」
古株の竜はため息をついて答えた。
「はい、元からこのような風景だったように見えて参りました。色々と。」
この数万年間、我らとて安穏としていたわけではない。火山を連ね、囲いを完成させ、神獣・魔獣 を養殖し、各地に眠る竜鉱「脈」の回収とブレスによる加工を行った。弓矢の材料として世界樹に も目をつけた。
材料が脆いから加工に失敗するのだ。
我らの力でも壊れない素材を加工すればよい。さすれば小さき者たちの物を上回る道具も生み出せ よう、と気合は十分である。
しかし、状況は芳しくない。
用途不明の美しい品がある。
回収された中にある黒光りする刃は一見して黒曜石のようである。
しかし、厄介なのは小さく磨かれた刃であろう。
この鋭く滑らかなるは、狩りの道具と察する。
刺すものもあれば切るものもある。
だが、細かくてよく見えん! 木・・・・が付いているのか?
ええい! 小さい! まどろっこしい!
鱗の間に刺さったらどうする!
・・・いや待てよ? それが狙いか?
小さき者たちは「既に我らを狩る算段を立てている」のか?
鱗と鱗の間・・・我らの弱点をよく見ているものだ。
小さき者たちよ、お前たちは良い目を持っている。
我らは溶岩なり鉄なりを浴び全身塗り固めた上、極めて注意深く相当に遠方から観察しているというのに。まさか、すでに弱点を見抜いていたとは。
すると翼、目、首元、胴の下、各関節など、すべての急所は既に見抜かれていよう。
我には分かる。奴らがあの「弓」という道具で我ら竜を地に落とし、「槍」なる道具で刺し貫こう と企てていることが! 弱った我らを「刃」なる彼らの爪牙でもって切り裂き、食おうと言うのだ ろう?!
なんと!なんということか!なんたる傲慢か! 地を這うものが天を征く我らを既に敵としてです らなく、食料として見定めるか! 天空のさらに上、それこそが道具を使う者の視点だというの か!
こうしてはおれん。
道具だ、我らも道具を使うのだ!なんとしても奴らに先んじて強力なる道具を我が物とするのだ!
さもなくば、我らドラゴンは討滅されるであろう!
ところで。
生き残った人族は壁画を描いた。
人と人の争いが、魔獣との争いに変化し、岩から羽の生えた怪物に滅ぼされる教訓の絵