プロローグ
むかしむかし、辺境の村に勇者が生まれるよりも遥か昔。
魔王の魔の字も魔族には無く、人も疎らに集まる程度。
神々の戦いよりも少しあと。
竜の時代も始まりのこと。
一頭の竜がブレスを吐いた。
ドラゴンブレス。単純にして強力無比なるこの一撃は、竜の器官によるとも、竜魔法とも解釈されている。
破壊力は山を削る、いや空を穿つ、いやいや、大陸を分断する・・・などおよそ寓話伝説の域を出ない。
ブレスは鉄鉱脈にぶち当たる。芸術的な加減でもって。古竜にしか不可能であろう技術でもって。
極めて高温となった鉄は、絶妙の威力調整でもって蒸発せずに流れ出し、巨大な穴に流れ込む。
どうやらこのドラゴンが用意したらしい。
ズッボン
気でも触れたか、竜は首を突っ込んだ。アツアツの鉄の中に首を突っ込んだ。
溶けた鉄の中に竜の首は深く深く入りこんでいる。
・・・・
しばらく経ち、鉄は冷えた。竜は、どうやら生きている。
ゴボッと首を持ち上げれば、不格好な鉛色を誇らしげに生やした珍奇な生物がそこにいた。
少し遡って彼、または彼女の言い分に耳を傾けてみたい。
なぜ世界の頂点たる竜ともあろうものが、それも古竜の類が不格好にも溶けた鉄を被り、鉄が固まるまで息を止めて待ち、(脆い鉄が壊れないよう慎重な加減でもって)首にそれを、
なんというか、こう、生やした、のか。