9.5話 頂点たちのわるふざけ
勢いで書いた、反省はしているが後悔はしていない
訓練場に設置されたリングの上、そこで2つの人影が向かい合っていた。
「青コーナー、紫玉級ダンジョンダイバー、超深層探索班。162cm、体重非公開……、東雲ぇ汐ぃ織ぃいい!!」
リングコールと共にリング上に投げられる無数の紙テープと大きな声援。
そして汐織さんは、その声援に応えるかのように大きく拳を突きあげた。
えーと、なにをやっているのでしょうか?
「赤コーナー、紫玉級ダンジョンダイバー、上層警護班。179cm、81kg……、リョーーーウゥゥぅ!!」
先ほどの汐織さんと同じように投げ込まれる紙テープと声援。
リョウさんは大きく手を広げ、観客にアピールしながらその反応を楽しんでいる。
「レフェリー、“ぽっちゃり”ゴロー」
「「「「チュービー!!!!!」」」」
汐織さんやリョウさんよりもさらに大きな声援がレフェリーの吾郎さんに送られる。
……なんでこうなったのかなぁ…………
僕らの席は特別リングサイド。隣に座っているのは、スナック菓子を両手いっぱいに抱えて幸せそうな顔をしているエゼルミア。
そして僕らの前では、これまた個性的な風貌の二人が放送席に座ってマイクを握っている。
「さあ、これより紫玉級ダンジョンダイバー自主興行、第二部を開始したいと思います!
本日の第一試合は、東雲汐織VSリョウのシングルマッチ、30分一本勝負!
実況はわたくし、幼馴染ハーレムが性癖の紫玉級ダンジョンダイバー、『三本角』『人間にして鬼神たるもの』ギーラ・ブル・フォルムス・ルーク・ノーリリアこと、元・鬼熊義威羅。
解説は、アマゾネス系ゴリラウーマンが性癖の紫玉級ダンジョンダイバー、『戦神の末裔』『人間にして竜神たるもの』諏訪部真澄さんでお送りしたいと思います!」
「はい、よろしくお願いします」
立て板に水、といった具合で喋っているのは、赤銅色の肌を持ち、額から三本の角を生やした20代前半の男性である。
人間ではないことが一目でわかる風貌であるが、僕の隣に座るエゼルミアという例を見るに、それほど珍しいという事でもないのだろう。
そしてその隣に座っているのは筋肉ダルマ。年齢は30才をいくらか超えたくらいだろうか?
190cmを超える長身、僕の腰回りよりも太い腕、肩幅などはエゼルミア二人分くらいはありそうで、胸板から背中の厚みなどは僕の5倍以上はありそうだ。
はっきり言って、リング上の二人を含めて、この中で一番強そうである。
「さて、試合の開始前にまずはこの試合が行われることとなった経緯を説明したいと思います。
『寂しんぼのリョウが、みんなと遊びたいと駄々をこねた』以上!!」
「リョウはあんな顔して、ただの寂しんぼですからね。まあ、だから愛されてるとも言いますが」
「はい、諏訪部さんの言う通り、リョウのワガママのためだけに深層探索班7名と、深坂区の区長と副区長を含む上層警護班5名の紫玉級ダンジョンダイバー、合計12名がこの場に勢揃いした訳です。
地上であれば、公私混同だとして野党の追及が3年は続くことは間違いないでしょう!」
「あの連中、何もしないくせに他人の粗探しだけは上手ですからね」
「はい、まさに他人に厳しく自分に甘く!自分の失敗は棚に挙げ、他人の過失に文句を付ける!典型的なモンスタークレーマーと言えるでしょう!
なお、この発言はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ございません!!」
頭痛い……。
でも、お世話になってる人たちの事だし、見ない訳にもいかないよなぁ……
「さあ、リング上。レフェリーチェックが終りーー」
『ゴングッ!!』
カーン、と重く甲高い金属音が会場に響く。
ゴングと共にリング上の二人はゆっくりと動き出す。前傾姿勢をとり、両手を前に出して互いの手を狙い合いーー
「ーーッ!!」
一瞬の間。
超深層の瘴気に汚染された僕が、見ていてもまったくわからなかった。
呼吸の合間を縫ってぬるりと動き、リョウさんが汐織さんの左手を極める。
おそらくは僕の地球で槍の師匠が言っていた、『無拍子』というやつだろう。
予備動作を完全に殺し、タイミングを外すことで人間の反応速度を上回るスピードで仕掛ける、武術の一つの到達点。
そんな絶技を何でもないように見せるあたり、やはりこの人らは化け物である。
「さあ、リョウのリストロック、手首を絞る!
これは……手首でしょうか、肘でしょうか?諏訪部さん、どこの関節を極めているんでしょう!?」
「アキレス腱ですね」
ぶふぉッ!?
「アキレス腱!わたしには左手を極めているように見えますが、アキレス腱が極まっていると!
素人目にはわかりませんが、解説の諏訪部さんのいう事ならば、間違いない!!」
嘘だッ!!
「なにしろ諏訪部さんと言えば、這いよる混沌の千の化身を滅ぼし、外なる神を撃退し、邪神の王と互角に戦う、大三千世界における最強の一角!最強のダンジョンダイバーだ!
そんな諏訪部さんのご意見です!素人ども、ありがたく拝聴しろ!」
権威主義は日本人の悪い癖だぞ!!
……実況と解説がそんな巫山戯たことを言ってる間にも、リングの上では極上の技術が披露されている。
汐織さんは左腕を取られつつ、自分の左足をリョウさんの左足に引っ掛けると、右膝でリョウさんの左膝裏を押す。
人体の構造上、足を固定された状態で膝裏を押されると踏ん張ることは不可能である。
前受け身を取る形で倒れるリョウさん。
汐織さんはそのままリョウさんの上を取りーー
「さあ、汐織が上になる!そしてここからーー添い寝固めだッ!!」
体を押し付け、リョウさんの腕を枕にするようにして密着する。
……どこが極まっているのだろう?
「あー!苦しそうです、リョウの顔が苦痛に歪む!」
「リョウの性癖がメス堕ちボテ腹男の娘に対して、汐織の性癖はロリショタですからね。
リョウも今でこそあんなんですが、10年ほど前までは汐織の好みど真ん中であった訳ですから。
思い出補正がある分、汐織のダメージは少ないでしょうね」
えーと、つまり、自分の性癖と違う相手に密着されていることでダメージを受けている……と?
「逃げる、逃げる!そして、ロープブレイクです!いやあ、危なかったですね、諏訪部さん!」
「油断大敵というやつですね。この超濃厚接触の環境では、一つのミスが致命傷に繋がりかねませんよ」
「そうです!観客席では三密に注意していますが、リングの上では対策は不可能だ!このままでは汐織のクラスターが発射されかねません!」
「セコンドはおしぼりを用意した方がいいかもしれませんね」
あーあー、聞こえなーい。だから、何を言っているかもわかりません!
「さあ、いったん仕切り直しです。……そして、汐織がヘッドロックに取る!絞る、絞る!力の限りに、コメカミを絞っていく!」
「いえ、これは胸を押し付けているんですね」
「そうでした!これこそは究極奥義、当ててんのよ2020・巨乳の誘惑!
『さあ、どうした!男の娘にこれが真似できるのか』そんな声が聞こえてきそうな勢いで胸を当てています!!」
聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない…………
「汐織の性癖はロリショタですが、相手の容姿が幼いならば、おねショタもおねロリも守備範囲です!
巨乳の誘惑に堕ちるロリショタなど、彼女の大好物だ!」
「今、汐織の脳内では昔のリョウに胸を押し当てている妄想が広がっているのでしょうね。
例えるならば、お前の性癖を変えてやろうか、そんな勢いで攻めているのでしょう……おおッ!?」
「あーっと!リョウ、汐織を力任せに持ち上げて……尾てい骨割りだ!」
懐かしい技をやるなぁ……
たしか父さんがよく見てた昔のプロレスで『ニューヨークの帝王』とかいうあだ名のレスラーが良く使ってたような。
背後から持ち上げた相手の臀部を立てた膝の上に落とすっていう、シンプルな技だけど……え?
「あーっと!効いていない!汐織は全くのノーダメージです!」
いや、ノーダメージはいいけど……なんで腰を振っているの?
「そしてノーダメージだとアピールするように、腕を後頭部に当てて、腰を左右に振る!振る!振る!これぞ、アメリカ直輸入のニューヨークスタイル!」
「詳しく知りたければ、リック・〇ードでググってみよう!」
「ああっと、リョウが怒ったか!?汐織をロープに振って……持ち上げた!マンハッタン・ドロップ!!」
マンハッタン・ドロップ。たしか、前後が逆のアトミックドロップだったっけ。
「効いていなーい!やはり、汐織はノーダメージ!そしてノーダメージだとアピールするように、くるくると回る回る回るーーあーっと、脱いだー!!」
はいいいいいいいいぃ!?
「汐織と言えばデニムパンツ、デニムパンツと言えば汐織!しかし、そのトレードマークを脱ぎ捨てて、下着一枚で腰を振る!」
は!?え!?ちょ!?なにやってるん!?
「リョウの顔が苦痛に歪んでいる!ダメージを隠せていないか!?」
「効いてますよー!!」
うん、たしかにリョウさんってば、なんかふらふらとしてーー
あ。
「そしてダメージを隠せないリョウ!そのまま、ふらりふらりと千鳥足のままーー汐織の下着の中に、頭を突っ込んだ!」
……深夜番組で見たな、この技。たしか名前はーー
「汐織がリョウを持ち上げる!そしてそのまま『生パンツドライバー』!そしてフォールに行く!カウントがーー1、2、3!!」
決着と同時にゴングが打ち鳴らされる。
「8分50秒、8分50秒、生パンツドライバーからの体固めによりまして、東雲汐織選手の勝利です!」
「さあ、終わってみれば汐織の圧勝という感じでしたが、諏訪部さんの感想を聞いてみたいと思います!諏訪部さん、どうだったでしょう?」
「相性が悪かったですね、汐織の性癖がロリショタに対して、リョウの性癖はメス堕ちボテ腹男の娘ですから。
リョウも昔は典型的なロリショタな感じでしたから、なにをやっても汐織にとってはご褒美だったのではないでしょうか。
つまり、汐織の攻撃だけが一方的に通っていた感じですね」
「なるほど!つまり、土ポ〇モンVS電気ポ〇モンな感じだったわけですね?」
「はい、その通りです」
……頭痛い、マジに。
「さあ、それでは第二試合を始めたいと思います。……青コーナーより、猿渡優香選手の入場です!」
え?続くの?マジ?
と、こんな感じで、この乱痴気騒ぎは深夜まで続いたのであった……
どっとはらい。
書きたいことを全部書いていたら、多分2倍くらいになったと思う……
必死になって削りましたとも、ええ