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SINRA  作者: 空想
9/19

VIII,銃は刀よりも鋭い

「……おい……、どう、なってんだ……? あいつは……、大和って奴は……、いつ後ろに……!?」

 そういう驚きを見せるのは勇人だけではなかった。

 2階にいる一部を除く全員が勇人と同じ表情になっている。

「空間加速。英名では『ヘイスト』っていう魔法の効果よ」

 そう説明する編集長の顔も驚きを隠せないという感じだった。

「――時空魔法の一種で、自分じゃなく、その周りの時空間を加速されて、あたかも自分が速くなったように見せる効果があるの」

「あたかも、ってことは、実際は違う、ってことなのか?」

「ん〜……その質問は難しいかも……。周りの人から見れば、実際に速いんだけど、その術者は周りが遅く見えるの。だから、どっちも正しいし、どっちも間違ってるとも言えちゃう……」

 2階にいる一部の人たちは、編集長のようにそういう魔法知識を知っているため驚きが半減されてしまっていた。

 だが、そういう人から見ても、大和の魔法や魔術はとても高度なものだった。編集長が若干驚いているのはそのためだ。

「まっ、それぐらい時空魔法は難しいってことよっ」

「……」

 勇人には編集長の言葉に応答するまでの気の余裕はなかった。

 目の前で、二人の人間が互いにいつ殺されても殺してもおかしくない状況にあるのだ。そんな時にのんきに「へぇ〜、凄いね♪」なんて応答はできなかった。


「ッ……。だけど、忘れた、の?」

 大和の鍛え抜かれた腕力を必死に抑えながら雷花が言葉を放つ。

 雷花は力一つでも緩めてしまえば、一気に切り落とされそうな恐怖に近い感覚に包まれていた。

「――私が……、『エレキテル・メーカー』ってこと、をッ!」

 その瞬間、何かに気がついた大和は急いで雷花から身を引こうとするが、もう遅かった。

 銃から電撃が発生して、大和を直撃した。

 2階の生徒、特に女子が微かな悲鳴を上げた。

 いつの間にか、男子は雷花を女子は大和に視線を注いでいたのである。


「エレキテル・メーカーについて聞きたい?」

「え? ……あ、ああっ……」

 別にそれほど気になる言葉でもなかった、ていうよりは、目の前で起きているバトルに集中しすぎて、そこまで頭が働かなかった。

「別名『金属発電』ていうんだけどねっ、金属から電気を発生させる超能力の一種。でも、そのまま電気を利用できるわけじゃないから、威力は全然ないんだけどぉ……、人を軽く飛ばすくらいの衝撃ぐらいかな? 殺すまではいかないかも」

「……」

 『ちょっとハヤト聞いてるの? 人がせっかく説明してあげてるのに!』という次の編集長の言葉は耳に入らなかった。

 勇人は改めて、この森羅という世界の恐ろしさを身に感じていた。

 人口の半分が、人を簡単に殺せるなんらかの力を持っている。

 その恐怖が今頃になって勇人にのしかかる。


 軽く5mほど吹き飛ばされた大和は刀を握り締めたまま立ち上がり、それを構え、攻撃又は防衛体制に入る。

「そろそろ決着つけなきゃねっ?」

 すでに30分が経過していた。

 あの妖精の先生は何をしてるんだと勇人は思う。

 雷花は銃口をゆっくりと大和に向ける。

 その時、雷花は笑っていた。

 勝利を確信したように笑っていた。

 しかし大和はまったくその鋭い表情を変える様子などなかった。

 ただ、一点を。

 銃口ではなく、雷花を鋭い眼光で見つめる。

「死ね♪」

 バンッ! と放たれた銃弾と共に、大和は刀を一振りした。

 銃弾は大和の刀によってやはり一刀両断されてしまう、

 はずだった。

 悲鳴のような金属音が体育館全体に響き渡る。

 冷たい泣き声が大和の耳を襲った。


 刀は銃弾が当たったところから粉々に砕け散った。


刀と銃弾の相打ち……ではない。

 刀を粉々に砕いたあと、肩に刀にでも切られたような深いかすり傷を負った。

 刀が鋭さで負けたのである。


「まずいよっ! あれじゃ次はられちゃう!」

 隣の編集長がいきなり大声を上げる。

 その言葉は2階の生徒誰もが承知しているように見えた。だけど、止めようとする者は誰もいない。

「ど、どういうことだよ!? 刀がなくたって、ヘイストとか言う魔法とかを使えば、銃弾なんて避けられるん、だろ……?」

「違う! あの刀は攻撃や防衛の他にも重大な役割をっているの!」

「??」

 刀を『斬る』物としか知識にない勇人には意味が理解できなかった。

「あの刀は『魔具』っ。あれを魔力源として魔法や魔術を行っているからっ、あれがない大和は『魔法がうまく発動できない』!」

「なっ……!」

 前半の台詞は専門用語が多くてよくわかなかったが、最後の言葉で大和は今、魔法が使えない、ということだけはわかった。


『す、スロウ……!』


 左肩を動かさないように、右手で魔法陣を発動させようと、自分に向かっている銃口に力の限り手の平を見せる。

 緑の魔法陣が一瞬の発光と共に姿を現した。が、

 魔法陣はガラスが割れるように、わずか1秒で粉々に消滅してしまった。

「ッ!」

 鋭い眼光もこの状況では驚きを隠せない。

「やっぱりっ、魔具なしでの魔術は安定性がないっ。……もう、終わりかも……」

「そんな……」

 とうとう殺されてしまう。

 大和が殺される画が脳裏に浮かんできた。

「やっぱり、アンタは馬鹿よっ。なんでもかんでも防ぐんじゃなくて、避けるってこともおぼえなきゃねっ」

 そう言いながらも、左銃口も大和に向け、両手の銃口がまるで蛇の口ような恐怖感を漂わせた。

「死ねっ!」


 ドーンッ!

 

「!?」

 今のは誰が聞いても銃声ではない。

 銃刀カップルの間に突如として現れたのは、岩で作られた3mほどの巨人。ここで言う『岩人形ゴーレム』と呼ばれる代物。

 それが銃弾から大和の身を守った。


「は〜い、そこまでっ」


 何やら気の抜けた女性の声が体育館に響いた。

「な、なにを考えているんですかっ、あなたは!」

そのあとから可愛らしい子供……ではなく妖精のディナ・エルフ・シー先生の声が耳が痛くなるぐらい体育館に響く。

 突然の出来事に勇人はポカーンとなっている。

 それはなぜか勇人だけで、隣の編集長も含め、2階にいる生徒らは驚く、とか、あ然、とか言うんじゃなくて、呆れ、という表情をしている。

 やっと来たよ、先生たちっ。と呆れているが、怒っているようにも見える

「生徒を殺すつもりなんですかぁ!? 死ぬ寸前まで見物――もぐっ!」

気の抜けた女性は、その小さい口を慌てておおい、窒息させる勢いで自分の元へグイッと引っ張る。

「は〜い、全員教室に戻ってなさ〜いっ」

 だが、妖精の言ったことをここにいるすべての生徒は聞いていた。

『見物……!?』

 全員が心の中で突っ込む。

 そしてその後に全員に怒りが込み上げてくる。

(まさか、あの先生。今の戦い見物してたの? しかも、死ぬ直前まで放っておいたの?)

 勇人もあ然に加え、怒りというより疑問の方が強い、なんとも言えない感情が込み上げる。

 その気が抜けた(怪しい)女教師は、ディナ先生に何かを耳打ちしたあと、ゴーレムに向かって、

『O・U・T』

 謎のスペルを言った瞬間にゴーレムは崩れ落ち、一瞬の発光と共に消えて去った。

「あと、そこの二人、」

 ここにいるほぼ全員が『後で指導室へ来なさい』とでも言うのかと思えば、

「――保健室に行きなさい」

 と以外な言葉だった。

 大和は傷を負っているからわかるが、雷花まで行く必要ないと勇人は思った。

ほほ

 指を指された雷花はとっさに頬を触る。

 べたっとした赤い液体が指に付着した。

 他にも傷つけられたところがないかと体を見回す。

 ふくらはぎ、腕、服にもところどころ斬り後が残っていた。

「いつの間に……」

「――お前がさっき電撃を放つ前だ」

「え?」

 大和が砕け散った刀を持って立ち上がる。

「ヘイストでお前を後ろから斬りつける前に、軽く斬ってやったんだよっ」

 大和は空中で消えてから雷花に斬りかかる間に、高速で斬りつけていたのだ。

 後ろから斬りかかったのも、それは雷花が銃で防ぐことを承知の上で、その実力があると認めた上で斬りかかったのである。


「つまり俺は、『お前をいつでも殺せた』」


そう言う大和の目には戦っていたときのような鋭い眼光はなかった。

「だけどまぁ、お前は――」静かに目をつむって、


「よくも俺を本気で殺そうとしてくれたな!? おいっ!!」


「なっ、何かっこつけてんのよっ! だ、だいたい! 喧嘩ってそういうもんでしょ!?」

「俺の一族でも喧嘩で本気で殺すなんてことしなかったぞ!?」

「ふんっ。あんたの一族甘いわねぇ〜。私の家なんて毎日殺し合いよっ! 命争奪戦よ!」

 何やらさっきと同じ雰囲気になってきました。

「しかも見ろ! この哀れなる愛刀の姿を! これ幾らすると思ってんだ! ゴラァ!!」

 刀を指差して地団太を踏む。

「100円でしょ? 百均ひゃっきんで売ってる玩具おもちゃでしょ?」

「テメェ……もう一度言って見やがれ、……殺すぞ!!」

「何回でも言ってあげる♪ 百均の玩具。何も出来ないただの飾り♪」

「んだとぉ!!! ……はい! もう切れましたっ! 俺様こと時雨大和しぐれやまとは堪忍袋が切れましたっ! この変な髪形の女を殺すことをここに宣言しますっ!」

 確かに雷花の髪型は、左前髪を垂らして左目があまり見えないような髪形だ。まぁそこまでは普通範囲内。しかし、後ろ右側に髪を束ねているんだが……、それが斜め上に向かって、まるでワックスでもかけたようにカチカチに尖がっていて見た目、鳥? という印象を受けるので、これは常識範囲外だったのである。 

「へ、へんな髪型だとぉ!!! 髪は女性の(ライフよ! それにこの鶏冠とさか見たいのは生まれつき!! 生まれつき人の上に立つことを許された王の証なのよ!?」

「うぷぷっ。そ、その曲がった鶏冠が!? お、お前の……クククッ、ライフ!? 笑わせんじゃねぇよ! あははははっ!」

 爆笑。

 笑いすぎてたまに、痛ててっ、と左肩を抑えるが、彼の笑いのつぼに命中したらしく、痛さを堪えてまでもまだ笑っていた。

「わ、笑いすぎだっ、ゴラァ! ……殺す! 絶対殺す!!」


「……あいつらアホだろ?」

「あれ? 今頃気づく? それ」

 勇人が呆れるのも当然だが、なにより、あのバカップルに対して、『心配』とか『恐怖』を感じた自分に呆れてしまった。

 しばらく二人の喧嘩は続き、先生がなぜ止めに入らないのかと思えば、ディナ先生を必死で気の抜けた先生が抑えていためということがわかった。

 気絶した役に立たない生徒会メイジャー)が目覚め、やっと二人の喧嘩を止めることができたが、そのせいで勇人は脳診断(レベルチェックに大きく遅れをとってしまった。


 勇人は思う。

 この学校から一刻も早く卒業したい、と。

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