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SINRA  作者: 空想
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VII,刀は銃よりも速く

その瞬間、体育館は凍り付いたような静まりをみせた。

 この空気。心臓を握られているような変な感じに勇人は襲われた。

レベル1の勇人には体験したことのない、戦闘などというものを経験したことのない勇人でもわかる、戦場の空気。喧嘩という次元じゃない。本気で人間同士が殺し合いをしようとしているのだ。

 なのに、誰一人としてここから立ち去ろうという気を起こす者はいない。

 ここにいる奴ら(レベル3)は正気なのか、と勇人は思う。

 隣にいる新聞部の編集長でさえも、冷静に1階にいる二人を見守っている。

 勇人は空気を読んで小声で、

「おい、二人を止めないのか?」

「止めるってどうやって?」

 その言葉は冷たかった。

 編集長は1階で睨み合っている二人を見つめて、

「ヘタに止めたって、被害が広がるだけ。それはここにいる全員が承知していることだし、あの二人の戦闘力はこの学校でも最高クラス……。この3Bの魔法使いや能力者が止めたところで、犠牲が増える。かと言って、話し合いで納得するような二人でもないしっ、やらせとけばいいのよっ」

「……」

 いつもとは違う、編集長の暗い声に勇人は絶句する。

 確かに編集長の言うことには納得がいく。だけど、このままどちらか死ぬのを黙って見るというのもどうかと思った。もちろん、本当にお互いに殺せるチャンスに殺すわけでもないと思うし、況してや、恋人という関係でありながらそれはないとは思うが、もしも誤って殺してしまったとすれば……。

 だけど、勇人には何もできない。最初は『バトル』という言葉に、『遊び』という思考が絡んでいたが、それが『殺し合い』という現実リアルなことだったとは思わなかった。

 この森羅でももちろんこういうことが許されるわけでもない。

 だが、まだ彼らは高校生。まだまだ未熟者だ。喧嘩もするだろう。付き合ってるんだし。

 しかしこれが、この森羅での『日常』なのだ。


「始めるか……?」

「望むところよ……」

 銃刀カップルの二人は、互いに距離を置き、やや腰を落とす。

 その距離は約50m。

 距離で言えば圧倒的に銃使いのライトニングが優勢だ。

 離れた瞬間、大和の目つきが獲物を狙う虎のように鋭くなり、腰にぶら下がった刀のつかを持ち、構える。

 その姿はまるでさむらい

 今にも居合いあいで目の前の獲物を一撃で仕留める侍のようだった。

「じゃあ……、私の銃の合図で開始ねっ……」

 ライトニングは鼻で笑いながら、右の銃口を上……ではなく大和に向かって向ける。

 そのライトニングの動作に勇人は慌てて声を上げようとする。が、恐怖のあまり声が出ない。人が殺される、という恐怖が勇人の首を絞める。

 バンッ! と銃弾を大和の急所、心臓を数センチも外すことなく発射した。と、ほぼ同時、居合い斬りのごとくさやから刀を抜いた瞬間に。


 大和の心臓に銃弾は当たるどころか、体には傷一つなかった。


 カラン。と銃弾が大和の手前で2つの音を立てる。

 大和はさっきの場所から一歩たりとも動いてはいない。


 大和は音速以上の速度で発射された、わずか口径9mmの銃弾を斬り捨てたのだ。


目の前できれいに2等分された銃弾が転がっている。


 勇人は動揺を隠せない様子で、

「おい……、今銃弾を……斬った、のかよ……!?」

「大和って、私たちのクラスではムードメーカ的存在で、まぁ見てわかる通り、馬鹿って感じでしょ? だけど、戦いの時は違う。普通では見せないような眼光で相手を見て、攻撃を見切る、最強の回避率を持ってるの」

 勇人は編集長の言葉をこう理解した。

 銃弾を『目でとらえ、体で反応した』と。


 そして大和はその斬り捨てた運動を利用して体を1回転させ直線的にライトニングに襲い掛かる。

 そのスピードは動物界で最も速い、チーターのようなスピード。50m7秒台、なんてレベルじゃない。

 その猛スピードで突進してくる大和に向かって、2つの銃口がなまりの塊を放つ。

 しかし、大和はライトニングがその構えを見せた瞬間に刀とその体を使って華麗に銃弾をかわしていく。

(まずいっ! 大和は3m内に近づけた時点でアウト!)

 その時、ライトニングの右足から火花が散った。

 慌てて撃ち方をやめると、右足を軽く上げて、

「ッ!」

 勢いよく床を蹴った瞬間、四方八方にビリリッと電気が走り、大和を向こうへ吹き飛ばした。

 もちろん、この体育館に雷が落ちた、とか言うものではなく、彼女自体が発生させた電気だ。


「電気!?」

篠原雷花しのはららいか。別名、稲妻ライトニング。彼女の攻撃と、銃弾の素早さから付けられた名前よ。彼女は電気系統でんきけいとうの超能力者の1人」

「じゃあ圧倒的にその雷花って奴の方が強いじゃないか! 幾ら凄い目を持っていても、電気のスピードについていけるわけが……」

「それはどうかな?」

 編集長は大和を見ながら、笑いながら言った。


 倒れた大和に躊躇ちゅうちょすることなく銃口を向ける雷花。

「私よりも弱い彼氏はいらない。死ね♪」

 雷花の左手が引き金を引く寸前、大和はその銃口にてのひらを見せて、


『スロウ……』

 バンッ!

 

 ほぼ同時。

 銃弾は大和まで3mという付近で時速1km(人間の歩く速度のおよそ3分の1)という速度でゆっくりと大和を目掛けて飛んでいた。

 その大和の掌からは、緑色の直径2mの魔法陣が生じている。


「魔法使い!?」

 これで3度目。

 勇人があまりにも知らないことが多すぎるので、編集長はそろそろ説明するのがめんどくさくなってきた。

「ってあれ? 説明してくれないの?」

「はぁ〜……。正確には魔術師ね。とは言っても、時空魔術しか使えないんだけど……」

 魔術と魔法の区別がわからない勇人にはさっぱり意味がわからなかったが、何よりなぜ呆れられてるのかということが特にわからない。


「だったら!」

 雷花は空中へ大宙返り。その高さは2階まで数メートルというほどの高さであった。

 ぉぉおおお! と2階にいる男子生徒は狼のように吠え、雷花が空中で真っ逆さまになったとき、おっ……ああぁぁぁ……、とがっかりする。

 言うまでもなく、彼らの目的はスカートの中であり、それが短パンだったことにショックを受けているのであった。

 今ので緊迫感がほぐれた体育館は、又も異性の対立が目立ってきた。

 大和は体勢を立て直し、刀を持ち直すと、雷花が引き金を引く直前に刀を十字に斬り払う。

 その瞬間、真っ逆さまの状態で銃声と共に放たれた銃弾は、見事なタイミングで十字によって真っ二つに分かれて、床から金属音を響かせた。


 その時、大和は下を向いたままだった。


 勇人はさっきの編集長の説明で、銃弾を『目でとらえ、体で反応した』と理解したため、その光景に思わず絶句する。

「……お、おい……」

「何で見てもいないで銃弾を斬ったかって?」編集長は大和を見て、「私は眼光は凄いとは言ったけど、目が凄いなんて一言も言ってないよ?」

「……はい?」

 引っ掛け? と勇人は思う。

「ハヤトはたぶん洞察力が凄いとか思ってたんでしょう? 悪いけどそれは無理。人間の目で銃弾を見切るなんて出来ないもん。仮に見切れたとしても、それに対応して身体からだがついてはいけないし」

「じゃあ、あいつの何が『最強の回避率』なんだよっ……?」

「知ってた? 大和って、銃弾を『撃ってから』じゃなくて、『撃つ前から』なんらかの動きを見せてるでしょ?」

 勇人はこれまでの大和の動きを思い出してみる。……確かに、始めのときも撃ってからではなく、ほぼ同時。しかも、『ほぼ』ということは大和が速かったという可能性もある。銃弾を避けるときも、構えた瞬間に身体を動かして回避していた。つまり、大和は銃弾を見ている、というよりは、『雷花を見て』攻撃を回避しているということになる。

「――彼が凄いのは、『勘』」

「勘?」

「相手を観察して、次に相手がこう動くだろうっていう予想を立てて、それに合わせて体を先に動かして回避する、最強の勘シックスセンス。大和の一族は、そういう戦闘に優れてるから、そういう力が受け継がれてるんだと思うよ。それと努力もあるだろうし」


 森羅が出来たと言われる一説がある。

 それは昔、世界各国の魔法使いのような特殊な一族が、この森羅を作り発展させた、という説だ。そのため、この森羅には魔法使いや錬金術師、降霊術師、戦士と言った特殊な族種がいると言われている。

 

「魔法使いって、不便よねっ」

 雷花が床に着地しながら嫌味ったらしく言う。

「生命体に対する魔法は全部半減しちゃうんだから。しかも、あんたのその時空魔法にいたっては、その効果は無効だしね」

 やっぱり魔法使いで合ってるんじゃね? と勇人はそれを聞いて思う。内容は理解しかねるが……。

 雷花が言いたいのは、その『スロウ』って魔法が私自体に使えたら楽勝なのにねっ、という嫌味である。

 空間を利用した魔法を生命体に使うのはこの森羅では禁止……ではあるが、どの道使えない。生命体に関しての空間の魔法解明はまだ出来ておらず、その魔法を発動させることなどできない。万が一、それを発動できた者が現れぬように、それに関する研究及び魔法(魔術)の発動は禁止なのである。

 理由は言うまでもないが、そんなことできたら、不老不死どころか、自分の好きのようにできるし、相手を簡単に殺せるし、自分と相手の人生を変えることが容易たやすくできてしまうからに決まっている。

 しかし、それを聞いて普通大和は『んだとぉ!? だったらいつか俺様がテメェをヨボヨボのババァにしてやるよ!』とでも言いそうなのだが、目つきを変えずにそのまま何の反応もなく雷花に向かって襲い掛かってきた。

「そういうところが、あんたの一番好きところなのよッ!」

 そう言いながらも、右足を軽く上げて地団太を踏


「なっ!」


 その瞬間に床を蹴り上げて大ジャンプ。電気を予知して攻撃を避けた、のだが、

「やっぱり馬鹿ね? 空中じゃ、身動きがとれないでしょうがッ!」

 銃口を天に向けて、引き金を引いた。しかし、


 そこにはもう大和の姿がなかった。


「ッ……!?」

 雷花も含め、2階にいる全生徒が1階を見回して大和を探す。


「!!」


 その時! 瞬時に背後から殺気を感じ取った雷花はとっさに持っていた銃でその攻撃を防ぐ。

 その攻撃は刀。


 それは刀背みねではなく、その銃は『刃』を抑えていた。


「その目といい……、私を本気で殺す気ね……大和……」

 そう言いながらも、雷花は微笑んていた。

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