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SINRA  作者: 空想
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III,警告は脅し

 人間とはよく出来たもので、あまりに自分の都合の悪いことが起きると『気絶』という最終の現実逃避を行うらしい。テレビの時刻は6時を指していたことから、勇人は約5分程度気絶をしていたようである。

守護霊はと言えば、無表情で無邪気(?)にもベットに座り跳ねていた。心配する様子もなく、こちらをただ見つめていることが、何とも腹立たしい。


「――俺が死ぬ……と、突然言われても困るんだけど……?」

 見ず知らずの他人に、死ぬよ? とか言われても、喧嘩売ってんのぉ? としか思わないが、状況が違う。相手は自分が守護霊ガーディアンとか言って、勇人の私服を全焼させた奴なのだ。守護霊とは言っても、守護霊という名の死神だってあり得る。そんな奴をこのまま部屋から追い出すわけにもいかない。


「じゃあ何から話して欲しいんだ?」

「ん〜……、そう言われてもなぁ……、」

「俺の名は神守裕かみもりひろし

 なぜかいきなり自己紹介が始まる。そのあまりの突然さに、勇人は初め何のことを言っているのかわからなった。だが、すぐに脳が『名前』と理解した。

「かみもり……裕?」

 勇人は思う。普通の名前? と。それに『泥棒』という言葉の意味がわからないから、日本人じゃないかと思っていたら、裕というモロ日本人の名前……。勇人は余計に混乱してきた。

「……、守護霊だったら、なんかもっと、エルフとか、ゴーストとか、ファントムとかいう名前じゃない、の……?」

「?? ファントムならわかるが、その他のは何語だ?」

 どうやら、この守護霊さんも勇人と同じ、I can`t Englishの種族らしい。

 とりあえず、相手が名乗ったので自分も名乗り返してみる。

「まぁいいや。俺の名前は、森羅勇人……、――?」

 勇人はここにきてやっと気づく。


『お前の名前は森羅勇人か?』


 なぜ初対面の彼が自分の名前を知っているのか……。


「……。ぁぁあぁあああ!!!」


 突然、守護霊こと裕が叫び声を上げる。

 何事か、と勇人も思考を一時中断して、裕の方に視線を戻す。


「お前が『勇人』か!!」


 い、今頃!? 

 と、心の中で突っ込みを入れたりする。

 するといきなりベットから降りてこちらへ近づき、勇人の手を取って、

「どうもどうも♪ 俺は今日からアンタの守護霊ガーディアンになった裕だ。よろしく」


 少しイタイ子なのかな? 

 やや本気で裕を心配な眼差しで見る。

 いや、その以前に『アンタの守護霊』という部分が引っ掛かる。

「? 俺の……、ガーディアン?」

「そ。俺は霊界から派遣されたアンタのガーディアン」

「ぇ……。少々理解しかねるんですけど……?」

「ハヤトは放っておけば死ぬんだ♪ だから俺が助けに来た」

 どうもこの裕という守護霊は『死ぬ』という単語を楽しそうに言う癖があるらしい。

「し、死ぬって……。誰に殺されるんだよ」

「悪霊」

「あくりょう? 悪霊ってあの、幽霊だろ?」

「そう。悪霊がはやとを殺す前に、こっちから捕まえて身を守ってもらう」

「守ってもらうって、お前が俺を護るじゃないのか?」

「いやぁ。お前が自分で自分の身を守るんだ」

「はぁ……」

 そんなこと言われてもなぁ……。


 確かにこの島には悪霊が存在する。するが、勇人は見たことがない。故に半信半疑なのである。

 悪霊や、神と言った類は、見える人と、見えない人がいる。なので、信じる者と、信じない者で分かれるという少し厄介な現状にある。

 しかし、この目の前にいる裕が本当に守護霊ならば、その存在を認めざるおえない。


「もしかして、まだ俺がガーディアンって信じてないのか?」

「うっ……」

 そう。裕の言うように、正直のところ勇人はまだ守護霊という存在を完全に認めたわけではない。例え本物の守護霊だとしても、『霊』などというオカルトの世界に入り込むことはなるべくは避けたい。


「わかったっ……」

 裕はそう言って立ち上がり、ちゃぶ台の横にビシッっと気をつけをする。

 ハッ! と突然、勢いよくちゃぶ台に右手を叩きつけた。

「!?」

 ちゃぶ台に黒字の魔法陣らしきものが現れ、次第にちゃぶ台を黒で塗りつぶしていく。


 ポンっ。


「……」

 勇人が瞬きをした瞬間に、ちゃぶ台はキレイさっぱりなくなっていた。その代わりに白い箱がぽつんっとたたずんでいる。

 勇人は白い箱よりも、ちゃぶ台がどこに消えたのかが気になる。


「……何してくれちゃってんの? 召還? 今のは召還魔法とか言う、超自然現象だったりするわけ?」

「?? しょうかん? まほう? 一体何の話だ?」

 なぜか勇人は1人寂しくオタクの世界へ入ったような気がした。

 だが、そんなことでいちいち落ち込んでいられない勇人は、目の前に可愛く佇む小さい白い箱に注目する。

「こ、この白い箱は何?」

 そう指差すと、

「おれのいえ」

 今のは聞き間違えか? と耳を小指でほじる。

 そして今度は優しく質問する。

「もう一回聞くぞ? これは何だ?」


「俺の家」


 今度ははっきり『俺の家』と聞こえた。

「お前の……いえ?」

「そうだけど? さっきのは、俺の家とちゃぶ台の位置を交換する『心霊術』の儀式だ」

 あまりご理解できない勇人にもこれだけはわかる。『オカルト』ということには間違いない。

 まぁ、そんなところにつっ込んでも勇人には絶対理解できないので、裕が『マイハウス』と呼ぶこの白い箱に関してさらに追求してみる。

「それで? このお前の家と引き換えになってしまったちゃぶ台は?」


「霊界」


 ……。

 勇人は絶句する。この1時間でどれだけ財布がダメージを喰らったことか……。この収入源の薄い学生が、さらに秋休みで既に無計画で金を使ったばかりだと言うのに……。


「そ、その意味は?」

「これでハヤトは自分の身を守ってもらうぞ」

「はぁ?」

 意味がわからない。どうやって他人の家で身を守れというんだ?

「これはカメラなんだっ」

「……? か、カメラ?」

 裕がその白い箱を手に取ると、その白い箱がカメラ状に変形した。

「ぁ……」

「これは、非契約霊体を吸い取る力が宿る特殊カメラだ」

「ひ、ひけいやく……なんだって?」

「非契約霊体っ。何とも契約を結んでいない幽霊とか、その物質のことだ」

 例えるなら、野生の動物とか、そこらへんに落ちているコインのような、誰も所持していない物や、所有者が不明のようなものと言えばわかりやすい。

「俺は神道かんながらのみちに所属しているから『守護霊』なんだ。所属していなかったただの浮遊霊だけどな」

「つまりあれか? 俺がこのカメラで悪霊とやらにられる前に、俺がこのカメラで悪霊を捕獲しろ、と?」

「まぁそういうことだ」

 勇人は少し考えて、


「断るっ」


 少し考えたとは言ったものの、勇人は既に何を言われようと拒否することは確定していた。ただ、断ったときの、この裕という守護霊の対処法に困っただけである。

 予想通り、勇人の拒絶に裕はかなり困った様子で、

「そ、それは出来ないぞ! これは日本だけじゃなく、インドやエジプト、イギリスとも大きく関わることだ! 断ったら俺は……契約を解除される……」

「そんな意味のわからないこと言っても無駄だ。だいたい、いきなり部屋に現れた見ず知らずの幽霊の言うことを聞くとでも思ったのか? 人間なめんなよっ、ったく」

 裕は眉を目頭に寄せて不機嫌そうに、そしてすねたように、

「あ〜あ、お前のせいで世界が滅びてもいいのかぁ?」

「そんなこと俺の知ったことかっ。だいたい、どうして俺なんだよ」

 すると裕はため息をついて、

「わかった、仕方がない。」

 そう言って立ち上がると、勇人に思いっきり顔近づけてきた。

「な、何ぃ……?」

「殺していい?」

「……はい?」

 とうとう本性を表したか! と内心思いつつも、勇人は冗談だとその裏で思っていた。

 裕は首を落とし、床の方に視線を向けて、

「知ってるかぁ? 守護霊ガーディアンの別名」

 突如場の空気が凍りつく。どうやら冗談というレベルではない気がしてきた。

「――ワーナー」

「わ、わーなあぁ?」

「守護霊は『守護』するものがなければ、別の仕事をすることになるんだぁー……」

 そう言う裕は無表情だったが、今までとは違う、何か殺気じみたような……。

「――それが、死を宣告する『警告者ワーナー』……」

「お、おい!? 何する気だっ……?」

 ゾクンッ、とその殺気に勇人は数歩を後ろへ下がるが、足にテレビが当たり、行き止まり。

 勇人は氷の精霊にでも抱きつかれたような全身の悪寒を覚えた。

「――その意味は『死神』。そして死神のもう一つの仕事が、」

 裕が笑みを浮かべながら、瞬間的にこちらへ近づいてくる。

 次の台詞の予想はできていた。

 なので、

(ぎゃあぁあぁあぁあああああああーーーーーっ!!!)

 世界一怖いホラー映画をでも見ているように内心で叫びまくる。

 信じてもいないキリスト教の神々たちに祈りを捧げる。

「わわわ、わかったっ。わかったから、命だけはぁ……」

 情けない声を出さないように努力しても、この恐怖には耐えられないようだった。


「よし、じゃあ霊狩りに行くかっ♪」


 以外にも裕はにっこり笑って勇人の腕を掴む。

(は、はめられたぁ!?)

 勇人は強制連行。

 驚きのあまり抵抗もできずに霊狩りに出発した。

 その時の時刻は午前6時30分。

それから倒れるまでの午後10時までの15時間30分、勇人は地獄のような時間を送るはめになった。

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