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SINRA  作者: 空想
15/19

XIV,その霊に胃袋なし

「………………………………………………………………………………………………、」

 一同は街中のとあるファミリーレストランで沈黙していた。

 それは勇人たちだけではなく、周りのお客というお客は全員が沈黙し、ウェイトレスや厨房ちゅうぼうのコックと言った従業員も皆、なにかを見つめてあ然とする。

 現在、この店で何かを口にしているのは裕だけだった。

 スプーンの金属音だけが店に響き渡る。

「ムグムグ……、ッウェイトレスさ〜ん! 次はこのヨーグルトのプリン、トッピングはメイプルシロップで10個ね」

 一番近くにいたウェイトレスが裕の声にビクッと反応して、

「は、はい!」

 慌てて厨房へと駆け込むと、それを聞いた料理長も大慌てで注文の品を作る。

「お、おい……、これでどれくらい金を消費した?」

「い、今の今の注文で残りのクーポンは1000円になりましたぁ……!」

 島尻の言葉を逆に解釈すれば、裕はもう既に一万9千円も使ってしまったのである。

 1人で。

 さて、どうしてこうなってしまったのかと言えば、


「さぁ〜♪ お金はたくさんあるんだから、思いついた人からじゃんじゃん頼んじゃって〜!」


 という守原の失言からそれは始まった。

 当然、勇人としても、裕がデザートを(大量に)注文するぐらいの予想はできていたのだが、全額2万円、5人いるので、1人4000円分というデザートは食べきれないだろう、という甘い考えもまたひとつの原因。まぁ確かに、それはパフェを1人で6個前後食べられるほどの額なので、食べられないと考えたほうが妥当だとうなのだが、ここは『森羅』という変な人たちがつどう場所であり、しかもその裕という存在は『守護霊』という超自然的な生命体(?)なのであるからして、最悪の状況を想定するべきだったのだ。

 話を戻し、そう守原が言うので当然、一番腹を空かしている裕が真っ先に手を挙げて、

「じゃあ、俺から頼んでもいい?」

「いいわよ♪」

 と、守原はにっこりスマイルで答える。

 ここで、誰かが止めたり、守原が(言うはずもないが)『ダメ!』とか言ってくれればクーポンはキレイに使われたはずだったのに……。

「じゃあ……」

 メニュー(当然デザート)を見ながらどれにしようかと、しばらく迷って、

「――これ全部。ハヤト、持って来いっ」

「はぁ?」

 この裕の言葉を本気で受け止めたのは勇人だけ。

 女性陣はそれを『冗談』だと受け止めたのだ。

 それも当然のことで、彼女たちから見れば、裕はただの『天然な人間』という種類カテゴリーに分類されているからである。なので、当然レストランという仕組みシステムをわかっている、と思い込んでいる。

「あんたのダチって、馬鹿?」

「注文という注文は、ウェイトレスさんに言うんですよ?」

 まだ救いはあった。

 だが、この島尻の発言は完璧にそのクーポンをじきに消滅させることを意味していた。

「うぇいとれす?」

「ほらっ、この店ん中に、同じ服着た女の人がいるだろ? あれだあれ」

しかし、勇人はそれを止めようという気はなかった。

 どうせ、全部頼んだとしても食べきれないだろうし、金額も4000円どころか、5000円を切る値段になるが、自分は2000円分ぐらいあれば満足、という感じでそれを許可してしまったのだ。

 そのウェイトレスというものを理解したところでさっそく、

「えっと……、う、うぇいとれすさん? こっち来てっ」

 一番近くにいたウェイトレスが反応してこちらへ向かってくる。

「はい?」

「これにあるの、全部ください」

 ウェイトレスは少し戸惑った様子で、

「え? あ、あっ、はいっ! ではご注文を確認しますね」

 ――パンケーキ、アイスクリーム、パフェ、プリン、ワッフル、クレープなどなど、長い確認リピートのあと、ウェイトレスは一つお辞儀して厨房へ。

 しばらくのあと、テーブルいっぱいの油と糖分に全員は絶句。もちろん裕を除いて。

「頂き♪」

 その時だけ見せる満面の笑みで、味わっているのか、という疑問が浮上するほどのスピードで次々とそれらを平らげてしまい、さらにお構いなく次から次へと注文していった結果が、


「ごちそさま♪」


 合計22680円。

 クーポンを使い切ったどころか、オーバーする結果となってしまった。

 無論、そのはみ出した金額と自分を含める4名の夕飯代は勇人が支払うことになった。

「うぅ……、最悪だぁ……」

「この方は……、一体全体何者何ですか!?」

「ああ〜、ちょっとショックかも……」

「アンタらは……まったくぅ……」

 驚きと悲しみはともかく、怒りの方に勇人は身の危険を感じる。

「い、いや、俺のせいじゃない……だろ?」

「アンタのダチでしょ!? アンタの責任だろうがぁ!」

「うぅ……」

 さすがに勇人も甘党までは把握はあくできても、大食いとまでは気がつかない。

 だが、今そんなことに気づいても仕方がない。

 問題は、どうやって埋め合わせをするか、それとお金はどうするか。

「俺は守護霊だぞ? 胃袋なんて言うものはない」

「「「はぁ!?」」」

 確かに、着ている制服がはち切れるどころか、食前とまったくその腹は変わっていない――という思考はあとにして、勇人は『守護霊』という言葉に仰天する3人の相手をすることに。

「守護霊!?」

「あ、あ、アンタって奴は! なんでお化けなんかと一緒に居んの!?」

「胃袋がないとは一体全体、何事ですか!?」

 1人だけツッコミどころが違うが、とりあえずスルー。

「い、いや〜ぁ……、そ、そういうわけなんだよ〜ぉ……これが」

「そういうわけって、どういうわけなの!?」

「はっきりしろっゴラァ!」

「……胃袋がないということは……、人間ではないということでしょうか……?」

 1名を除く女性陣に押しつぶされそうになる。

「わ、わかったっ。説明するから……!」

 と、言うわけで、勇人は裕との出会いからこれまでの成り行きを話した。

 朝起きたら突如現れたこと。

 なぜ裕が制服を着ているか、ということ。

 悪霊の捕獲のこと。

 お金のこと。

 亡霊のこと。

 とにかく関わることほとんどを話した。


「ふ〜ん。それで私と偶然出会ってしまったわけね〜」

 はぁ〜。と氷条がため息を吐き絶望する。

 もちろん、勇人たちと出会わなければ、今頃ファレスで食べ放題で苦しんでいたはずなのに、という意味である。

「で? それがその例のカメラ?」

「あ? あ、ああ」

 守原が勇人の手の中にある白いカメラを指差す。

「こいつが言うには、非契約霊体を吸い取ることができるって話なんだが……」

「? 非契約霊体って何?」

 さっきまで絶望に浸っていた氷条がその言葉に反応した。

「誰とも契約を交わしてない、一言で言えば『悪霊』だ」

「!」

 その言葉に一瞬目を丸くする氷条。しばらく考えて、真顔に戻り、

「ふ〜ん……、じゃあ、それ私にちょうだいっ」

「はぁ? なんでテメェーに渡さないきゃいけないんだよっ?」

 すると氷条は何か悩んでいるような顔をして、

「そ、それは……」

「あ!」

 その話を折るようにして、守原が何かを思いついたように声を上げる。

「勇人のレベルが突然上がったのって、このヒロシ君と関係があるんじゃない?」守原は人差し指を立てて、「ほらっ、霊感って、霊を頻繁ひんぱんに見ると、目覚めるって言うじゃない?」

「え?」

 勇人は隣にいる裕を見る。

 思えば、裕と出会ってから霊魂とか、悪霊とか、亡霊とかを見るようになったのは確かだ。

「………………………………………編集長? その話もっと詳しくお願いします」

「超心理学では、脳は存在しないと思ってるものを確認すると、『存在しない』から『存在する』にスイッチを切り替えるようにして、その情報を変えてしまうの。それで、今まで視覚で捉えられなかったのもも、見えるようになるわけ」

「それで?」

「つまり、ヒロシ君の存在を認めた時点で、勇人の眠っていた脳の一部が覚醒したってこと」

(やっぱりこいつのせいであのヘンテコクラスになったのか……)

 と、ひどくうな垂れて絶望モードに突入。

「じゃあ、テメェーと、あの火向とか言う『天才ジーニアス』も、俺と同じ霊感を持ってるのか?」

「違うぞっ」

 あれだけデザートを食べておきながら、躊躇ちゅうちょすることなく会話に参加。

「――俺に触ったり、喋ったりした奴はみんな契約霊体が見えるようになるんだ」

「ひっ!? それってまさかのまさか、私たちもお化けが見えるようになるということですかぁ!?」

 さっきまでどうして胃袋がないのか、という疑問と格闘していた島尻が目を丸くして仰天する。

 契約霊体ということは、非契約霊体の反対、つまりさっきの亡霊ファントムが一つの例である。

 すると何かを思い出したような顔をして、氷条が軽くテーブルを叩く。

「って、このアンタのダチは、どうやって火向先輩に触れたり、喋ったりしたのよ!?」

 そう言われてみれば、と勇人も呟く。

 火向という最強女子生徒は、『男』が嫌い。だから例え、『オーラ』ってやつで裕がそんな風に見えなかったとしても、極力は触れたり話したりはしないはず。だが、彼女には亡霊が見えた。レベル6という脳が異常に覚醒しているせいもあるかもしれないが、二人がいきなりの登場で『裕さん』などという関係になるはずがない。となれば、守護霊と男嫌いはどっか別の場所で出会い、意気投合したか何かのきっかけで仲良くなった――という結論にたどり着く。

 それに答えるように、裕が回想を始める。

「俺が、ハヤトを探しに行こうと、外へ出たら……」

 勇人は外に出たことぐらいは許す。

「――女の人が近づいてきて、」

 それが火向――

「『森羅勇人』……、』って睨みつけられた」

 ――ではなかった。

「おいっ、ちょっと待て! 何今の回想!? 俺の名前呼んで睨みつけるって何事だ!? そいつどんな奴だよ!?」

「え〜っと……、背は俺ぐらいで、へそ出してて、ミニスカートだったな」

「それって、先生じゃない?」

 守原が勇人に攻撃を仕掛ける。

「そ、そんな先生いたっけか?」

「居たよ! 確か、2年の教師で……、ほらっ、今日の銃刀カップル戦のときに、岩人形ゴーレム召喚した先生!」

 さらに追い討ちをかける。

 その先生の名は『レベッカ・くれない』という、欧米だと『レベッカ』が名前で、日本だと『紅』が名前という、どっちが名前かよくわからない名前なのだが、そのレベッカという先生は勇人たちの学校ではかなり有名な先生だった。一部では人気だが、また一部では嫌われてる、というよりは関わりたくない的な存在なのだが、これだけは言える。

 『危ない先生』ということは。

「マーク……? もしかして俺、マークされたの?」

「はははぁ! バッカじゃないの〜!? そりゃ、学校の日に学校の時間に外にぶらついてる奴がいたら、マークするに決まってるでしょ!?」

「うっ、確かに……」

 勇人は裕の着ている『自分の』制服を横目で睨みつける。

「なぁ、島尻? お前生徒会メイジャーだろ? この哀れなる少年のために、その先生に事情を言ってくれない?」

 子供が母親にほしいおもちゃをねだるような顔をして手を合わせる。

「うぅ〜……、」

 しばらく考え悩んだあと、わざとらしく、

「――あっ! わ、私は私は仕事を思い出したのでこれにて失礼します!」

「お、おい!」

 勇人が瞬きした瞬間にはもう島尻の姿はなかった。

 その代わりに千円札がそのテーブルの上に舞い落ちる。

「……これで勘弁かんべんしてください――ってか?」

 まぁこれで、はみ出した料金のプラスにはなる。

「まぁ、それもそうよね〜。だって、あの先生の怖さを一番知ってるのは、生徒会メイジャーなんだから……」

 勇人はその言葉に首を傾げて、

「氷条? なんでお前がその先生のことを知ってるんだ?」

「はぁ〜。あの先生、森羅高校を中心とした、地域の学校に姿を現すのよね〜。言わば『見張り』。私たちも困ってんのよ〜。あの先生、注意とか指導はしないけど、学校の他の先生に告げ口すんのよねぇ〜。ホントッ、迷惑もいいとこ。だから、ここ一帯の学校生徒のほとんどは知ってるってわけ」

 氷条はさらにため息を重ねて、

「しかも、この地区のメイジャーの指揮官的存在らしくて、メイジャーの生徒はもっと悲惨らしいよ」

 と、勇人から灰色のオーラが漂っている。

「はぁ〜……。そんな先生に俺、マークされたのかぁ……」

 それと反比例して、楽しそうに浮遊する霊魂。

 その光景に守原は、

「何それ?」

「それは霊魂と言って、マイナスな気分、特に『落ち込み』のときに発生する霊の子供だ」

 その素朴な疑問に裕が丁寧に答える。

「それは周りの人達には見えないの?」

「こいつは契約霊体だから、俺に触れるか、喋るかしないと、見えないな」

 その落ち込みモードの中で勇人に疑問が浮上する。

「契約って、誰と契約してんだよ?」

「ハヤト、だけど?」

 それを聞いてさらに霊魂の数が増え始めた。

「マジかぁ……」

 と、ここで氷条がやっと話が大幅にズレていることに気がつく。

「――って、すっかり話がそこに行っちゃったけど……。それで? 火向先輩とはどうやって知り合ったわけ?」

「えっと……、それから、美味しそうな看板を見つけたから、その店に入った」

 美味しそうな看板とは無論、デザート系である。

「――そこで、パフェを食ってるあいつがいたんだが……」

「は!? 先輩、パフェ食ってたの!?」

 何故か異常なまでの反応をする。

「そうだけど?」

 その反応に相変わらず無情で答える裕。

(私も誘ってほしかった……)

 ガクーン! と肩を落としてしょんぼりする。

「どうやら、『パフェ大食い』らしきイベントをやっていたらしく、食べられないようだったから――」


『――食わないんだったら俺が食うぞ?』

『うぅ……、ど、どうぞっ……』

 5分も立たないうちに、高さ60cmパフェを食べ終えてしまった。

『あ、ありがとうございます……。おかげでお金を払わずに――って『男』!?』

『ん? それがどうかしたか?』

『い、いえ……、別に……』


「――的な感じで知り合ったってところだな」

 当然、全員があ然。

「高さ60cmって、もうふざけてるとしか言いようがないなぁ、こりゃ」

 勇人は『もう既にそんなに食って、腹が減ったとかぬかしてたのかよ……』というツッコミはあえてしないことにする。

 するといきなり氷条が勇人の制服の襟を掴んで、

「アンタ! 突っ込むとこそこじゃないでしょう!!!」

「ッ!? は、はいぃ?」

「あの絶対男立入禁止の火向ひなの様が、こ、こい、こいつと! …………………そ、その」

 何か言いづらいことでもあるかのようにためらいを見せる。

「だから、あれよあれ」

「悪いんだけど、お前が俺に何を求めてるのかさっぱりわかんないんだけど……?」

「……、つまり、同じ物を一つの物で二人で食べるっていう……」

 あぁ〜! と、それを理解した守原は、

「――間接……ッ!」

 と、いい終わる直前で氷条は、守原の口を手で無理やり塞ぐ。

「かんせつ? 何? あの子『関節』でも弱いわけ?」

「…………………、アンタって人は……!」

「そうかぁ? 関節が弱いようには見えなかったぞ?」

 プチンッ! と、氷条の中でひものような何かが切れる。


「――この……、『鈍感野郎共』がぁ!!!!」


 その瞬間、男二名は、頭部に強打撃、全身に悪寒を感じた。


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