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SINRA  作者: 空想
13/19

XII,乙女から見れば獣

「喚起を解除するとは……、お前、ただ者じゃないなぁ……」

 裕はそう言いながら元の姿へと戻った。

「ふぅ〜。――それより、あの怪物はなんだったんですか? わたくしたちにしか見えないようでしたけど……?」

「俺にも詳しいことはわからねぇ。……ただ、誰かが勇人を狙ってるってことは確かだ」

 二人に安堵の表情はなかった。

 あの亡霊ファントムは、術を解除しただけであって、本当に倒したわけではない。またいつ現れてもおかしくない状態にあったからだ。

 そんなことも知らずに、勇人は腕に白い箱と黒い箱、氷条を抱えながら安堵のため息を漏らす。

「とりあえず、あなた方は早く家に帰った方がいいです」

 その声に似合わない敬語(お嬢語)と、あのゴーレムを消し去った魔法に勇人はこのお嬢様は何者なのかと思う。

「歩は私が引き受けますので……、そのー……、一度地面に降ろして頂けますか?」

「へ?」

 意味が理解できなかった。

 歩を引き受けるのなら、そのまま勇人から受け取ればいいものの、彼女はあえてそれを拒んでいるようだった。

 勇人はしばらく考え、意味を理解したあと、火向に氷条を差し出しながら、

「何も地面に降ろさなくても、俺から直接受け取ればいいだろ?」

「いえ……、」火向は勇人を避けるように身を3歩程退いて、「だから、そのー……」

「………………………………………………………………………………」

(だからなんなの……? 重いんだけど……)

 微妙に頬を赤く染めて、もじもじしている。

 それを見て何かを察した裕が勇人の肩を叩いて、

「その子を俺に貸せっ」

「え? あ、ああ……」

 なんだかわからないが、この重みから開放させるのなら……、と氷条が心を読めていれば、『アンタはレディーに対してのデリカシーはないのか、ゴラァ!!!』とでも言いそうなことを思いながらも、氷条を裕のもとへと渡す。

 裕がそこからどうするのかと思えば、

「ほいっ」

 と、あっさり火向に引き渡した……。

「ど、どうも」

「ど、どうも。じゃねぇーよっ!! 何なんだよ! 何故なぜに俺から引き取るのは嫌なんだっ! 俺が嫌いなのか!? 生理的に無理なのか!?」

「いえっ、そういうわけでは……」

「じゃあ何!? そういうわけではないのなら、どういうわけなんだ? …………わかった。言ってもいい。その理由を全部吐け。何を言われても気にしないから、況してやその方が俺は楽だから」

「そうですか……? じゃあ言いますけどぉ……」

 そう言いながらも勇人の心臓は風船のように繊細せんさいであった。針一本でも刺されたた気絶しそうな状態にある。


「――――『男』だからです」


「…………………………………………………………………………………、はい?」

「私は男を『人間』として見ません。『獣』として見ます」

「そ、それは差別……?」

「いえ、差別する価値もありませんから……」

「………………………………………………………………………………」

 どおりで勇人に触れようとしないわけである。

 しかし、そうなってくると一つ疑問の浮かび上がってくる。

「じゃあ、この隣にいる『男』は何なの?」

 勇人はゆっくりと裕を指差しながら火向を睨みつける。

「え? あぁ、この人は『男』って感じではなく、ただの『人』というオーラを放っているので……」

「オーラって何? 見えるんですか、そのオーラって奴は?」

「見えるというより感じるんです」

「……あんた、さっきから思ってたけど、何者だ?」

「自己紹介がまだでしたねっ。私は森羅女学院高学部2年、生徒会メイジャー及びMHPマジカルハントポリスに所属する、レベル6の……」

 声質からして、明るくて元気な子って感じなのでお嬢語がまったく似合っていなかった――という思考はさて置き、勇人は『生徒会メイジャー』『エムエイチピー』『レベルシックス』――と言ったこの街での最強単語を3つを並べられて頭が混乱してきた。

「――火向ひむかいひなのと申します」

 生徒会メイジャー――各学校に置かれた学校及びその周辺の治安を維持する組織。基本的に成績優秀で生活態度の良い、レベル3以上の力を持つ生徒で組織され、あの空間移動テレポート少女などが良い例である。治安維持だけでなく、学校行事や地域行事等を考えたり、仕切ったりすることもある。

 MHPマジカルハントポリス――メイジャーをそのまま規模だけを大きくした組織。この森羅全体を保安し、主に魔法条例に関しての見張りを行う。この森羅の力を持つ者のほとんどが魔法系統の類なので、それに関する言わば法律を守らせるため、別名『魔法警察』と呼ぶこともある。無論、所属しているほとんどはレベル5以上の力を持つ。大きな行事の際は、このMHPを中心として行われる。

 レベル6――人口の半分をレベル1が、もう半分をレベル2〜5が占めている中で、その人口の1%以下を占めるのがレベル6以上の者たち。その者たちを別名『天才ジーニアス』とも呼ぶ。ちなみに脳の覚醒率は50%以上の者がジーニアスとなる。

 このように、この森羅のエリート3大校の1つ、森羅女学院の2年次にして、生徒会で特殊警察に所属し、しかも大学院教授並に優れたレベルが『火向ひなの』なのである。

「………………」

 なので。

 勇人はその場にひざまずき、地面に頭突きする。

「すいませんでしたっ!!! な、なんか生意気言ってすいませんでした!!!」

「い、いえ……そんな謝らなくても……」

 『男』が嫌だ――というあっちが悪いのだが、勇人も特殊警察なんぞに目を付けられたくない。

 なんせ一生この島からは出られないのだ。こんなところで目を付けられたら、残りの一生は恐怖に支配されてしまう。

 このMHPとは、それほどの強力な権力を有しているのである。

「それより、あなた達は早く家に帰った方がいいです。ここもじきに人で溢れますから」

 火向は周りを気にしながら忠告するように言う。

「――私はこれから、このことをMHPの本部に報告しなければいけません」

「え?」

 勇人は気になる。

 『このこと』とは、勇人のことか、亡霊のことか、はたまた二つか。

「ではこれにて失礼します」

「お、おいっ」

 シュンっ。とそこには何もなかったかのように消えていった。

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