３ メジャー対マイナー
実在の格闘技と名前が似た……以下略
日本発祥の武道は多々あるが
全世界的に圧倒的一位でメジャーなのは、やはり柔道である
柔道がメジャーなのにも理由がある
ルールガチガチで縛られて実戦的で無いとかの批判はされるけど
しかしそれでも結局、実は
柔道が一番実戦的だからなのである
つまり前回の蟷螂拳の例を考えてみれば分かるが
なんでもありならそこまでやらねばならん
つまり蟷螂拳の型が想定しているように
目突き、金的を本気で狙い、また膝関節を狙って横から蹴って破壊するとか
肩関節狙って動けなくした上で爪先で胴体を蹴り上げるとか
しかしそこまでやるのはやりすぎである
そこまでやって良い場合など現実にはほぼ無いレアケース
そんなレアケースだけ想定して鍛えるのは逆に実戦的では無い
体を鍛えて、荒事に備えねばならない人ってのは
ほぼ警察治安関係者である
犯人をいきなりどんな手を使ってでもグチャグチャに壊していいとか、無い
いきなり目を突いて股間潰して肩関節を壊すとか
しちゃダメだろ当然
だからそれしか無い、それしか狙わない蟷螂拳とか物騒過ぎて使えんのである
また現実に犯人を取り押さえることを考えると
打撃系も基本あまり推奨されない
きれいにパンチが入って一発KOとか
当身一発できれいに相手が気絶するとか時代劇じゃねーんだ
実際にはほぼ確実に
泥沼の掴み合いの揉み合いみたいな状況になる
技を交差しあうとかパンチを応酬するとかならねー
服を着てるのも当然で
素っ裸での力の比べあいから発展したレスリングもちょっとアレだ
服を着て、服を掴み合い、揉み合う状況
これが現実に一番ありえる状態で
そこから相手の体重を制して地面に倒して、押さえ込む
これが警察治安関係者などに現実問題一番必要とされる技術で
つまり一番実践的に必要とされる技術なのだ
だから柔道、結局柔道
また柔道家の無視できない利点は
競技人口の圧倒的な多さである
たくさんの中で競い合えば当然レベルが上がる
競技人口少ない競技の中で、少ない人数のなかで技を磨いて見ても
どーしても限界があるだろう
柔道家ってのは基本レベルが高くなるのだ
だから高水準にあらゆる状況に対応できるようになる
タカシの猫パンチを敵は、反射的な対応だけで無効化した
まともに食らわない
スウェーで避ける、とっさに手で流す、打点をずらすなど
打撃対策とかやったことあるわけでもないんだろうけど
素の反応がとにかく速いのだ
これが長年、多人数の中で揉まれて来た経験がもたらす力だろう
また、下手に殴りあいに付き合おうとしない
こっちの打撃はかわして、つかみ合いに持ち込もうと
方針が統一されていて揺るがないのも良い結果をもたらしている
下手に殴り合いをしようとすると
トリッキーなネコパンチを初見で捌くのはほぼ不可能なのだ
だがこの柔道家は打撃に付き合うつもりが全く無いので
逆に完全に対応できている
「なんじゃ？
ボクシングか？ おまえ。
フリッカーとかなんかのう、ようわからんが
でもまあ、ワシも高校ん頃は全国で３位になったことあってのー
路上で打撃系のやつらとかに負けたことは無いんや
そろそろ諦めてつかまってくれんかのう
なーに道路に投げ一発で、すぐ楽になるでぇ」
目の前のオッサンで、高校の全国で三位、程度か
やはり柔道は懐が深い、競技人口の多さだな
しかもこのオッサンの場合その後、多分ヤのつく職業とかやってて
路上でケンカした経験も豊富か
だがしかし！
負けるわけにはいかない！
タカシは気合を入れなおし
おもむろにポーズを決める
目の前の物騒なニーちゃんがいきなり変なシナを作ったのを見て
ヤのつくオッサンは少しビビッた
なんやこのニーちゃん、そっち系かい
あんま係わり合いになりたないなーとか思った
ガチの人にはこんな感じの見るからに逞しいタイプが多く
もしかしたら本気でワシの尻が狙いなんか勘弁して欲しいなあ……
オッサンは殴り合いでも刃物や拳銃持ち出しての出入りでもビビッたことは無い
が
男から性的な意味で狙われるとかはマジ勘弁だった
「猫にゃんにゃん！
猫にゃん拳だにゃー！
ふー！（猫の威嚇音）」
タカシのポーズに台詞が決まった！
オッサンは一瞬思考停止した
なんか斜め上の変態らしい
ますます係わり合いになりたくない
「くっくっく……
俺に本気を出させるとは
なかなかやるな、オッサン
だがここからが本番
さあ狩りの時間だ
にゃー！」
タカシは台詞の途中で、舌を出してペロリと口のまわりを舐めたりしたので
オッサンの誤解はますます深まった
アカン、まじで犯られる危険がある
深夜の路上でガチホモにレ○プとか
マジ勘弁やー！！
ドスを持ってこなかったのが悔まれる
しかしそんなオッサンの気持ちなど構わず
タカシは襲い掛かる！
飛び込みざまに牽制の猫ひっかき！
オッサンは何とか回避する
だがそれを見越してタカシの猫ぱんち！
だがオッサンも必死だ、なんとか捌く
距離が縮まる
パンチを打てる距離ではない
掴み合いのクロスレンジ！
ここは柔道の距離だ！
本当はこんな変態には触りたくも無かったが
しかしそうも言ってられん
手加減無しに投げ飛ばしアスファルトに叩きつけて
とっとと逃げるとしよう！
右手でタカシの胸の襟あたりを掴み
左手はタカシの右手の裾を取る
組み手は取った
後は崩せばすぐに投げられる！
だがタカシもそう簡単には投げさせない
動けば投げが来る、腰を落として警戒
一瞬、掴み合いの距離で動きが止まる
その一瞬！
「ナ～ゴ……
猫だまし！」
ドスッ！
なんでそんなに猫の声が上手いんや
大体猫だましってなんやと
オッサンは思いながらも
その場に崩れ落ちた
クロスレンジ、掴み合いの距離で出す
猫にゃん拳の技、猫だましとは！
つまり肘撃ちである
接近してても肘撃ちなら打てるもんで
まずナ～ゴと猫の声を出す
次に「猫だまし！」と言う
すると有名な相撲技の猫だましのことを誰もが一瞬思い出す
顔を警戒する、上半身に意識がいく
そこで鳩尾に肘撃ち
なまじ格闘技をかじってる人間にほど、面白いくらいきれいに入る
「なんか……納得いかへん……」
地面に崩れ落ちてうめいているオッサンを一瞥すると
タカシはクールに言った
「ふ……
これぞ猫だまし
これが猫だましよ
猫にゃん拳で使う技なんだから
こっちが本物なのだ！
大体オッサンあんたも
きれいに騙されただろ？」
接近距離になったらとりあえず容赦なく肘撃ちしろと
どんな体勢からでも全方位にあらゆる肘撃ちができるように
タカシは厳しい修行を積んでいる
掴み合いの距離は、肘撃ちの距離でもあるのだ
掴み合いの距離になったからと一瞬安心してしまったオッサンの
油断が招いた敗北であると言えよう
オッサンが動けなくなったのを確認して
タカシはクールにその場を去っていった
レ○プされずに済んでオッサンはホッとしていた
柔道って名前でもこの作品の中では柔道じゃないんだよって強引な理屈だなあ
