1 伝説の始まり
バカになって読んで下さい
猫にゃんにゃん
猫にゃん拳だにゃー!
フー!(猫の威嚇音)
彼がその台詞を大声で叫び
手は指先を丸め猫手にして顔の横で曲げてニャンニャンポーズ
全身も丸めがちにして、シナを作ったその瞬間
道場の空気が凍った
にゃんにゃんというその声が妙に猫っぽかった
本物の猫の鳴き声に近い
もしも目隠しされて見えない状態だったら猫の声だと疑わないレベル
フーっという猫の威嚇音も本物そのままである
フーっと言うか、シャーというか、あの呼吸が掠れたような音
すごい似てる、いや本物そのままなのか
この声芸だけで有名になるのではないか
一子相伝の秘拳「猫にゃん拳」
その先代の継承者であった父より
子供の頃から厳しく「にゃんにゃん」と猫の声を移せと
鍛えられた結果に手に入れた猫の声真似
ひたすらニャンニャンと鳴き続け
遠くにいる野良猫が反射的に鳴き返してしまうまで
実に十年以上の厳しい修行の成果であるから
人が聞けば猫の声そのままとしか聞こえない
「良いか、タカシ
お前のようなゴツい男が、人前で
猫にゃんにゃん、猫にゃん拳だにゃーなどという台詞を言うとき
お前は何かを失う
そう、もうどうでも良くなる
なんか格好良さとかプライドとか
そういうものを全部失う
なあ……
もうダメだよ
勝っても格好つかないし
きっと誰も尊敬してくれない
勝った後でも苦笑されてそれで終わりになってしまうだろう
だからこそ……」
父の
クソ親父の言葉が思い出される
そう、だからこそ
もう勝ち以外に
何も無いのだよ
せめて勝たねば話にならん
これで負けたらピエロ以下だ
あの無駄に厳しかった「猫にゃん拳」習得のための修行も
これまでの自分の人生全ても無駄になってしまう
ダメだそれだけは認められない
だからこそ「猫にゃん拳」は最強なのだ
羞恥心を捨てたその時こそ
人は最強の力を得る!
「クックック……
褒めてやろう
とうとう俺に本気を出させたな……
かつて敗北は無く
ただ勝利のみがある
空前絶後
最強の拳法
猫にゃん拳を
引き出してしまったな
さあ狩りの時間だ
ナ~ゴ(猫の声)」
身長190近く
ネコというよりはクマに近い
骨格から太く逞しい体格の
そしてこれまでは真面目に戦っていた
いかにも歴戦の拳法家らしく戦っていた
タカシ(19)が
急にニャンニャン言い出した衝撃は
相手を直撃していた
敵は空手家
黒帯、有段者
世界大会にも出場経験ありという
まあ素人ではどうにもならない相手である
が
その彼とこれまでもほぼ互角に打ち合っていたタカシ
しかし経験の差か
彼の突きを腹に食らって吹き飛んでしまったタカシが
急にネコニャンニャンとか言い出して
いやそれでも迫力はあったから笑い出しはしなかったんだけど
でもなんか変な呼気が出てブホって呼吸乱れた
その瞬間
「フニャー!」
ネコの声そのままの気合と共にタカシが飛び込んでくる!
その踏み込みは速く手の動きも目にも留まらぬ
が
それよりも
その声
ネコに似すぎてるだろー!
と思いながら
気の毒な空手家はネコパンチを顎にきれいに食らって
吹き飛び、気絶した
猫ニャン拳の基本、ネコパンチ
ネコがネコジャラシをエイエイって叩く時の動きのように
ネコ手を保ったまま対象に触る感じで叩く
しかし相手に触ったその一瞬に全体重をかける
手の動きは実際、猫手から触るその動きが一番速いのだ
つまり拳を握って構えて突くよりも
体の前で猫手をひょっと突き出す動きの方が必ず速く
そしてその動きに体重を連動させ確実に手に全体重を乗せられるなら
それを相手の急所に直撃させることができるなら
この形のパンチこそが最速かつ最強なのだ!
基本にして奥義
ねこぱんち
それを食らって倒れた相手をクールに眺めて
タカシは言った
「ふん……
世界大会出場とか言ってもこんなものか
ネコぱんち一発に耐えられんとは……
まあ良い
我が猫にゃん拳は最強
そんなことは分りきったことだったな
では
さらばだ
ニャー」
そして体格のみならず
顔までクマっぽくゴツく
猫にゃんとか言うのが死ぬほど似合ってない
タカシ(19歳童貞)は
道場を後にしていった
今、倒された彼以外にも
彼と同じくらい強い人とか
彼の師匠筋の人とか
結構いたんだけど
猫にゃん拳の衝撃に耐えられず
固まったままで
タカシは何の妨害も受けず、帰っていった
今
最強格闘技伝説
猫にゃん拳の物語が始まる!
にゃー
酔って書いた。後悔はしていない。