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終末の運び屋  作者: 俊
骸の王
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1-2 少女は笑う 《入国》

アランを運ぶことはそれほど困難ではなかった。

彼自身歩けないほど衰弱しきっているいるわけではないため少し重くなった程度だったのだ。

周囲にエーテルの反応はなく、ただ淡々と瓦礫と土の上を歩くだけだ。

アランのためになるべく平らな道を選んで歩く。

シオンはちょっとしたハイキングだな、とどうでもいい冗談を呟き、一人で小さく笑う。

ただ、アランの足取りはシオンの予想よりも遅く、平らな場所を選んでなお、足場の悪さがあった為か、国の入り口に着いたのは夜が完全に開けた後だった。

だが、いつも一人で仕事を行なっているシオンにとって喋り相手がいることは懐かしく、数時間延長された程度の長めの旅は苦ではなかった。

むしろ、アラン自身やシンシア達の事などいろいろな知らないこと、新しいことが聞けて楽しかったのが素直な感想だ。



地下鉄のプラットホームから降り、少し線路の上を歩いたところにある、明らかに異質な分厚い扉を叩く。

扉のすぐ横にあるスピーカーから大きい雑音に紛れた男の声が鳴り始める。


『名前、目的を言え…入国申請がまだなら申請してから呼べ』


そっけない態度で男がそう言う。

ノイズがひどく耳を集中させなければ聞こえない。

シオンはいつも通り自分の名前、目的を言うために口を開く。


運び屋(ベクター)のシオン・オズボーンだ。荷物を届けにきた」


スピーカーの向こうの男が静かになりノイズだけが響く。

紙をめくるごく僅かな音が雑音に紛れてシオンの耳に入る。

アランを肩から下ろし、寝かす。

ノイズの中に男の声が聞こえてくる。


『確認しました。扉が開きますので下がってお待ちください』


この言葉のきっかり5秒後、空気が一気に移動する音とともに扉が開く。

中から現れたフル装備の兵士がライフルを動かし、無言で中に入るように促す。

シオンはアランを起こして中に入る。


ちなみにこの状況はまだ入国したとは言えない。

簡単に言うとここは国と外との狭間、入国審査を受けるところだ。

ここで下手をうてばごくごく稀にはじき出されることがある。

そうとは言っても、そもそもこの世界で国を移動する人などほぼいない上に運び屋(ベクター)以外は門前払いにできるため、ここまできてはじき出されることを心配する必要はほとんどない。

この仕事は運び屋(ベクター)に比べて非常に楽なものだろう。


「その男は誰ですか?」


ガスマスク越しで聞こえにくいが確かにそう言ったのを聞いたシオンは


「俺の命の恩人の仲間だ。外の世界で生きていた彼からは有益な情報を得られるかもしれない」


とはっきりと言う。

男は何も言わずに何かを待つそぶりを見せる。

沈黙を我慢できずシオンが口を開こうとした瞬間


「ダメです、入国を許可できるのはシオンさんのみです」


兵士がそう淡々と告げる。


「どうしてだ?金が必要ならこちらで出す、迷惑はかけない」


シオンがすぐさま反抗する。

アランが心配そうな表情でシオンを見つめる。


「上の指示です。私に理由を伝えられる権限はありません」


「んだとこのっ!じゃあ、こいつはどうするんだ!?このクソみたいな世界に放り出せと?」


意見を聞こうとすらしない態度に怒りが抑えきれなくなったシオンは兵士に突っかかる。

兵士はなにも答えない。

シオン自身を言っているか数秒後に忘れてしまう勢いで言葉を連ねる。

兵士はただシオンにされるがままだ。

そうしてしばらく経った頃、奥つまり国とシオンたちを隔てるところにある扉が開く。

扉を開けて入ってきた兵士が


「入れ、案内しよう」


と言う。

シオンは兵士を突き放すように解放し、アランに向けて手招きしたあと前を向き歩き始める。

アランの顔が明るくなる。



バン



乾いた大きな音が周囲の耳を貫く。


その音が何から発せられたかはすぐにわかった。


シオンが即座に振り返る。


目に映ったのは血を撒き散らしながら地に伏せさせられたアランの姿。


その顔に生者の持つ生気はない。


シオンは発砲していない方の兵士が制止にかかるより早く発砲した方に襲いかかる。

素早く兵士のハンドガンを持つ手を捻る。

兵士の手からアランを殺すのに使った先端の赤く染まったハンドガンが落ちる。

ハンドガンは小さくバウンドした後、シオンに蹴られて滑っていく。


「貴様、今なにをしたぁ!」


発砲したことは自明だがシオンはそう叫ばざるを得なかった。

兵士を外と内を隔てる扉に押し付ける。

後ろから掴み掛かられるがすぐに振り払い、シオンはさらに叫ぶ。


「人の命を奪うことになにも感じないのか!?おい!なんとか言えよ!」


シオンが感情に任せて叫ぶ。

兵士はうつむきながら何かを堪え切れなくなったように


「本気でなにも感じていないと思っているのかよ?そんなわけないだろ!」


シオンを強い力で押し返しながら兵士が叫び返す。

シオンは想像を超える兵士の力に一瞬怯む。


「あいつを通せば俺の家族が!妻が、娘がかわりに殺されるんだぞ!?お前は家族と何処の馬の骨とも知れない奴を天秤にかけられた時、どちらを取る!?お前がこいつを連れてこなきりゃ…こんな事…こんな事する必要はなかったんだ…あぁ、父さん人を殺しちまったよ……もう娘に触れられない…こんな、こんな汚れた手じゃあ」


兵士はシオンを押し返すことをやめ、力なく壁に押し付けられる。

やがて嗚咽する声を出し始めた。

シオンも言葉を失い兵士を拘束していた手を離す。

シオンが何かを言う前に後ろの兵士が頭を強く殴り意識を奪う。

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