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終末の運び屋  作者: 俊
骸の王
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1-1 王との邂逅 《再出発》

案内された家は“家”と呼んでいいのか迷うもので、しっかりしたものではなかった。

崩れた建築物の瓦礫が重なり合って生み出された空間に微かに光るランタンとボロボロの木製の机が置いてあるだけの子供の作った秘密基地を少しだけグレードアップさせたような場所だった。

ただ構造は少し考えられているらしく、布の扉が八方位に配置されている。

おそらく襲撃を受けた際に効率的に安全な方角へ逃げるためだろう。

普通に建っている建物を選ばない理由がこういったところにあるのだろう。

建物を支える瓦礫を繋ぎ合わせているワイヤーは資源に乏しい今の世の中ではお目にかかれないほど太く、強そうである。

もし、持って帰って売れば相当な金になるだろう。


家の中は非常に埃っぽく、慣れるまで何度か呼吸するたびに咳が出るほどだった。

奥からガサガサと何かが動く音が聞こえてくる。

シオンは条件反射で腰のハンドガンのグリップに手を当てる。

敵と判断すれば即座に引き抜き発砲できる状態で音の方を睨む。


「…あ、シンシア、お帰り」


ボロボロの布の中から辛そうな顔をした男が現れる。

彼が先ほどの音の主だろう。

シオンはハンドガンに当てた手を離し、身構えるのをやめる。


「アラン、他の人達は?」


シンシアが男に尋ねる。

他の人ということは彼女と彼以外にも生存者がいるという事だ。

目の前で自分以上に外で生き抜いてきている人間を見て、シオンはその現実に心底自分が5年運び屋(ベクター)を続けているだけで伝説と呼ばれていることに嫌気がさした。


「ゲホッ…ええと夜番の人たちは奥で眠ってる…ゲホッ、昼番の人たちは物資を集めに行ったよ…ん?その人は誰?」


アランは苦しそうな表情を浮かべながらたずねる。

アランと呼ばれた男は間違いなく何かの病を患っていた。

こんな劣悪な環境下だ、治療どころか病気の特定さえできていないだろう。

仮に国に来たとて治療できる病気かすらわからない。

ただ、ここにいるよりかはいくらかマシな治療が受けられるだろうが。


「ああ、この人は…ええと」


そこまで来てシンシアはまだ名前すら聞いていないことを思い出す。

名前を訪ねあぐんでいるシンシアを見てシオンが口を開く。


「シオン・オズボーンだ。シオンと呼んでくれ。よろしくシンシア」


シオンが握手を求める手を差し出す。

シンシアの顔が一気に明るくなる。

シンシアは嬉しそうにその手をしっかりと握り


「私はシンシア・ライリーよ、よろしく」


と言う。


「…ちなみに僕はアラン・フォード…ゲホッ、よ、よろしくシオン」


何か仲間はずれにされているように感じたアランが声を出す。

シオンはそちらを向いて


「こちらこそ、よろしくなアラン」


と言った。

アランの顔色は悪いが顔は明るかった。




数十分後


シオン達は机を囲んで会話していた。

運び屋(ベクター)の話、様々な国の話、シンシアの生きて、見た外の世界の話、経験などなど。

それらの話はどれも2人いや、3人にとって非常に面白いものであった。

アランも時折激しく咳き込みながらシオン達の話を聞いていた。


「この世界にあの化け物に襲われずに人間が安全に生きれる場所があるとはね」


シンシアが皮肉げにそう言う。

彼女とその仲間たちはこの常に死と隣り合わせの世界を99を生かすために1を捨てると言うやり方で生き抜いてきた。

100が生き残れない世界、それが普通だった彼女らにとってシオンの知る世界は平和そのものだっただろう。


シンシアは亡き父の遺志を継ぎ、自らがリーダーとなってすべての責任を負って生きてきていた。


切り捨てた者の名前とどうして切り捨てたかを彼女の記憶の中にすべて自分の罪として背負って生きてきた。


万全な装備とサポートでただ荷物を運ぶ男とは違い、貧弱な装備と仲間の死から得た経験のみで生き抜いてきたシンシア

シンシアはシオンの想像をはるかに超える苦しい人生を送ってきたに違いなかった。

シオンはいつしかシンシアに尊敬の念さえ覚えていた。


不意に外からいくつかの足音が聞こえてくる。

シオンが警戒し、そちらを睨みつける。

シオンの手がゆっくりとハンドガンへと動く。


「警戒しなくていいわ、昼番のみんなが帰って来たみたい」


座った状態から腰を浮かせて、身構えたシオンをシンシアが手で制止する。

人が増えたことで、室内がガヤガヤと一気に騒がしくなる。


シンシアがシオンを紹介し、シオンは軽く自己紹介をする。

そのあとシンシアがシオンに関して簡単に紹介した。



会話が盛り上がり始める。

その時、無線機から声が聞こえてくる。


『シオン、お楽しみのところ悪いがそろそろ出発してくれ。これ以上の任務の遅延は悪影響が出る』


水を差すようなローグの出立の催促を受け、シオンは不本意ながら仕事に戻ることにする。

仕事に戻ることを告げシオンは荷物を背負う。

シオンは一歩踏み出したところで振り返り


「彼、アランだっけ?国まで連れてこれれば病気の治療できるかも」


と言う。

一同が「本当か?」と疑問を孕んだ喜びの目を向ける。

現在の技術で治療できる病は数えるほどしかない。

それでもここでゆっくり体を蝕まれていくよりはマシだとシオンは考えたのだ。


『だめだ、シオン。彼を連れては国には入れない』


「どうして?外の世界で生き残っている人だぜ、有益な情報が得られるかもしれないじゃないか」


周囲の人間はそこにいない相手に話しかけているシオンに怪奇なものを見るような視線を送る。


「これが、無線機ちゅうやつか?…ほんま魔法みたいな代物やなぁ」


ジェイクと名乗っていた男がそう言うと皆が頷く。

何も知らない人間からしたら遠くの誰かと会話できることも立派な魔法なのだ。

その点からすると“科学”は“魔法”のようなものと言えるのかもしれない。

静かな室内にシオンの声だけが響く。

ローグの声は当然聞こえていないので周りの人たちには断片的にしか情報が入ってこない。


『…シオン、その選択を後悔しないな?』


決心したシオンを何度か説得しようと粘り強く交渉していたローグがついに折れ、最終確認をする。

シオンは決まりきっていると言いたげな表情を浮かべる。


「ああ、後悔しないさ」


シオンがそう言い切る。


『はぁ、わかった。こちらも交渉の努力はしよう。ローグ、アウト』


ローグはいらだたしげにため息をつき通信を切る。

シオンは後ろを振り返りアランを見る。


「というわけで、歩けるか?」


「…ゲホッ、す、少しなら…でも本当にいいのかい?…ゲホッ、そんなに止められるってことは何かあるんじゃ…」


アランが申し訳なさそうに尋ねる。

シオンはアランの方へ歩いて行く。


「気にすんな。大丈夫さ、さぁ俺の肩を使え」


よろよろと頼りなく立ち上がるアランの腕を肩に回して立ち上がるのを助ける。

ボロボロの布から埃が巻き立つ。



そして、2人は夜も開け始めた中、目的地を目指して歩き始めた。


「シオン!」


シンシアが大声で叫ぶ。

もしエーテルが近くにいれば普通に話すことの4倍は危険な行為だが、ワームは反応していないので安全だとすぐにわかる。


「どうした?」


シオンは歩みを止めてワームに向けた目と体を動かして振り返る。

一瞬、シンシアの不安げな表情が目に入る。


「アランをお願いね」


シンシアの不安げな表情はすぐに消え、彼女は笑顔でそう言う。


「ああ、任せろ」


シオンは力強くそう答えることでシンシアを安心させようとした。

シオンはシンシア他アランの仲間が何も言わないことを確認したあとまた歩き始めた。

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