1-1 王との邂逅 《精神世界にて》
観察者は嬉しそうに笑っていた。
鏡を囲む3人の少女は現実世界の出来事を見ていた。
もしかしたら予言が外れたかもしれないと思わせるほどの出来事に観察者は笑みを抑えられなくなっていた。
「くふふ、なんとまぁ、回避されたねぇ?予言通りだったぁ?ねぇ、予言者?ねぇ、ってばぁ〜♪」
笑みを我慢しようにも堪えられないというような表情を露骨に予言者に向ける観察者がそこにいた。
予言者の周りで浮く髑髏も心なしか不安げな表情で彼女を見つめていた。
「…まぁ、“予言が外れた”と言えば嘘になりますわ。…ただ本当にかすかに見えただけの未来を引いてくるとは…面白いですわね。観察者さん、実験者さん彼の監視を続けてちょうだい。チャンスがあれば骸の王でもう一度仕掛けますわ。私達はようやく特異的存在を見つけたかもしれませんね」
優雅さを崩さずに答える予言者の姿を見て、観察者は不満げな表情となる。
予言者はいつの間にか姿を消し、鏡の周りにいるのは観察者と実験者の2人だけとなっていた。
ふぅ〜と息の吐く音が流れた後、
「なんなのよあいつぅ!素直じゃないなぁ!“私の予言が外れていましたわ”って言えないのかよぉ!」
悪意の混じったモノマネを挟みながら観察者が叫んだ。
2人だけになったことを確認した観察者は不満を爆発させたのだ。
おもちゃが欲しくて駄々をこねる子供のように地面に寝転び手足をジタバタさせて叫ぶ観察者を実験者が眠たそうに見つめていた。
「観察者、パンツ見えてるよ」
実験者が冷静に冗談めかして話しかける。
しかし、その程度の言葉では彼女の一度発火した焔を鎮火するには至らない。
「そんなこたぁどうでもいいんだよ!なんなんだよ!いつもいつも毎回毎回!何が予言通りだっただ、ちくしょー。どうやったらあいつの余裕の表情を崩せるんだよっ!」
観察者はなおもジタバタすることをやめない。
実験者はため息をつきながら
「それがあの子の受けた才能だもの。仕方ないよ」
と告げる。
観察者はジタバタするのをやめ、その場で寝転んだまま実験者を見る。
「でも、その予言すら覆す可能性のある奴はいるんだろぉ?特異的存在とやらがさぁ」
「そうね、あくまでいるかもだけどね」
「ぜってぇ、見つけてやるかんな。なんなら作ってでもあのゴスロリに吠え面かかせてやる」
観察者が決意に満ちた表情を浮かべる。
その隣で実験者は何度もあくびをしていた。
「はいはい、頑張ってね…ふわぁ〜。私はもう寝るわね」
そう言った次の瞬間には実験者は寝息をたてていた。
観察者は実験者の顔の前で手を振り、名前を呼んだりして完全に深い眠りについていることを確認する。
そうして観察者は実験者に背を抜けながら
「この眠り姫が…だが、まぁなんだ…いつも話聞いてくれて…あ、ありがとな…。な、なんだこれ恥ずかしっ!…さ、さあて!僕はもう少し彼の動向をチェックするとしますかぁ!」
と言った。
いつもは真っ白な肌を真っ赤にさせながら観察者は鏡に映るシオンを見た。
観察者はシオンに彼が特異的存在になるのではと期待の眼差しを向けていた。




