1-1 王との邂逅 《企てる者》
精神世界のとある場所にて
精神世界は人々が想像するような何か不思議なものがある場所ではない。
ただ一面の茶色がかった黒が延々と広がるだだっ広い空間である。
精神世界はそこにいる霊的存在の量に応じて無限に広がっていく。
そんな精神世界に無数の人型の死者の魂がただあてもなく彷徨っている。
死の瞬間時を止められた魂たちは生者を強く恨み、叫び声をあげる。
その様子はまさしく地獄であり、悍ましい世界が延々と広がっている。
ここにいるといつしか死者の苦痛の叫びが、BGMや子守唄のように聞こえ出す。
そんな精神世界に唯一の浮島に神殿のようなものがある。
その中で
「くふふ、動き出したねぇ…特異点候補者くん♪…頑張って予言者に吠え面かかせてやってよ♪」
顔の半分が髑髏に包まれた中性的な顔立ちの少女が、鎖に繋がれた鏡に映る現実世界を見て笑う。
その隣で髑髏に乗って浮遊する黒いワンピースを見に纏った少女が気だるげにかつ眠そうに
「無理でしょ、骸の王の倒し方知らない人には無理ゲーだよ」
と呟く。
それを聞いた中性的な顔立ちの少女はなおも笑みを崩さずに
「そうかなぁ?彼はいい情報素体だと思うよぉ?」
と尋ねる。
中性的な少女の視線の先に、ふわふわとという表現がが一番しっくりくる動きをする髑髏の上のもう一人の少女が眠たそうに目をこすっていた。
「うーん、それは認めるけど…私には予言者の予言が外れるとは思えないよ」
宙に浮く少女が率直な感想を述べる。
中性的な少女が不満げな顔で何かを言い出す前に声が響く。
「そうですわ、私の予言が外れるなどあり得ませんわ」
どこからともなく現れたフリル状の装飾の付いたブラウスにレース柄のチュール、ダマスク柄のスカートを履いた淑女(少女)がそう告げる。
全体的に服が黒くゴシックファッションのような服装となっている。
その淑女(少女)の後ろにはいくつもの髑髏がケタケタと笑いながら浮いている。
「うわぁ、でたよこのゴスロリ…いい趣味してるねぇ」
中性的な少女が顔をしかめる。
そう言われた淑女(少女)、予言者は表情一つ崩さない。
そして一息開けた後、
「観察者さん、何かおっしゃいましたか?」
そう言いながら予言者が威圧的な笑みを向ける。
それだけでなく彼女の周りで舞う髑髏が観察者を心なしか睨みつけている気がする。
彼女は心の弱い人間なら状況の異常さ、髑髏の睨みつけてくる恐怖で失神してしまうレベルの威圧感を感じる。
その中で、観察者は無言で視線を使って髑髏に乗った少女に助けを求めるが彼女が何かしてくれる気配はない。
「……いいえ、何も」
助け舟は来ないと判断した観察者は諦めて、極めて小さな声でそう言った。
「そう、ならいいわ。観察者さん、実験者さん、特異点候補者の情報回収準備は整っていますか?」
「…この地獄耳が。一応ねぇ、一応。今度こそあんたの予想が外れることを願っているよ…毎度予想通りじゃ、ちっとも面白くない」
観察者がつまらなさそうに言い放つ。
予言者は実験者に目を向ける。
すると実験者はその視線の意味を理解し、観察者は嘘をついていないという意味を込めて頷く。
それを見た予言者は「そう」と言いながら満足げな表情を浮かべる。
「…ただ、観察者さんの言う通りかもしれないですわね。毎回予言通りでは得られる情報が非常に乏しい…彼女の完成まであと何回の実験を行えばいいのかしら」
そう言いながら予言者は現実世界を移す鏡の10メートル上で鼓動する液体的であり、固体的でもある紫色の卵を見つめた。
あの中で何が起こっているかは観察者、実験者はおろか予言者さえ知らない。
ただわかっているのは情報を与えると卵がその情報の質に応じて大きくなることだけだ。
そしてその中で女性の胎児のような何かが動いている。
「あれ、本当に完成するですかねぇ」
同じく卵を見ていた実験者がふと言葉を漏らす。
卵の完成を目的に色々行動してきたが、未だ生まれる気配のないそれに疑問が湧いたのだ。
「えぇ、間違いなく完成します…いえ、完成させますわ。あの卵に眠る力が私たちの手に降りた時、私たちの存在した意味が証明されますわ」
予言者は独り言のようにそう呟く。
実験者も黙って卵を見つめる。
つまりは無言の肯定である。
「そーだといいけどねぇ」
ただ1人、観察者のみが卵を見ることもせずそう言い放った。




