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終末の運び屋  作者: 俊
骸の王
24/24

幕間の物語 《イブ・スカーレット》

幕間の物語 イブ・スカーレット


彼女イブは生まれる前から血筋に運命を定められていた。

ヨーロッパ地域の巨大企業、クラレット家の道具のして生きることが生まれる前に決まっていた。

それが子孫を生かすために未来の系譜ごと買われるという決断をした家の成れの果てである。

買われた家の中でも、スカーレット家はそこまで地位が高くないため、自由の範囲が小さい。


「あぁ、なんでだって君の付き添いをしないといけないんだ?」


イブはじろりと前を歩く男、アイクを見ながら言う。

ちなみにスカーレット家よりもアイクの属する家の方が何個か階級が上である。

そのため、今回のクラレットからの任務は彼の主導で動く。

イブは別に誰かに命令したいような人間ではないが命令されるのはあまり好きではない、というよりむしろ嫌っていた。


「文句を言うなスカーレット、それが貴様の仕事だ」


アイクは愚痴に似たイブの言葉に反応する。


「なんで、リベル運び屋(ベクター)に制圧されてしまった場所に行かなきゃならないんだ」


イブはアイクに聞かれないように気をつけながら呟く。

しかし、彼の耳は想像以上に良いらしく


「うちの工場なんだから当たり前だろ、しかも今回はクラレット家配下からの離反者リベルもいるらしい。こちらのメンツに関わる事項だ、しっかり働いてもらうぞ」


と言葉を返す。

イブはため息つきながら


「そういうのって、自警団の仕事じゃないのか?」


と言う。


「無論その通りだ。ただ我々よりも先に偵察にむかった自警団員と連絡がつかなくなっている」


「後続隊は?」


「あちらとて人員が足りてないんだ、それに向こうにうちからの離反者リベルがいることが気付かれてしまった。それで、こちらに処理を押し付けられたわけだ」


「ふざけるなよ、偵察隊とはいえ数人で行って全滅したんだろ?それを二人でどうにかしろと?クラレット家もついにおかしくなったか?」


「口に気をつけろ、スカーレット。不敬罪で射殺するぞ。それにあくまで俺たちは斥候だ」


「いや、私は信じないね。私が未来を予言してやる。どうせ戦闘を強要されるさ」


イブは確信に満ちた表情でそう言い返した。

アイクは「どうだか」と呟きながら目的地に向かって足を進めた。



数分後、クラレット家配下の工場


「外から見えただけで四人リベルがいるな」


アイクが双眼鏡を片手にそう呟く。


「そうだとするとその倍以上はいると考えた方がいいな、んでクラレット家はなんと?」


その横で寝転びながらイブがつまらなそうに言葉を返す。


「……現状戦力で対処せよ?おいふざけるなよ、どういう思考回路を持ってたら、二人で4倍の数を相手にできると思うんだ?一般人ならともかく、リベルは大半が元運び屋(ベクター)だぞ」


「ほらな、私の予想通りだ」


予言が当たって嬉しいなど微塵も思っていない顔でイブはアイクを見る。


「 …どうする、少なくとも正面突破は無理だろう」


「ナイフあるか?」


イブが真面目な顔で尋ねる。

アイクは戸惑いながらもナイフをイブに手渡す。


「あんたは私が行った後、頃合いを見て裏口から制圧してくれ」


「お前はどうするつもりだ?」


「ささっと、片付けてくるよ。一人なら誤射の心配もないし楽な仕事さ」


イブはそう言って、アイクの元を離れる。


「おいっ!」


アイクは離れるイブに叫びかける。

イブは無言で振り返り、続きを促す。


「うちから離反者リベルは殺すな、聞きたいことがある」


「お優しいことで、心に留めておこう」


イブは手を振りながら、歩いていく。




イブは武装を服の下に隠して、工場の門の前で警備しているリベルへと近付く。


「何かあったんですか?」


彼女は猫を被り、事情を全く知らないふりしてリベルに話しかける。


「すみません、ここで事件が起こっ……なっ」


腹にぶっ刺さるナイフを見て、言葉を失うリベル。

リベルは一瞬の思考停止の後、声を発するために口を開く。

しかし、声は外に出ず、イブの追撃によって空いた喉の穴から血が噴き出しただけだった。

イブに蹴られた半死のリベルは地面にぐったりと倒れこむ。


「おい、何かあったか?」


奥から異変を鋭く察したリベルが現れる。

そのリベルの目に死にかけの男の姿が映る。

イブは質問の答えだというかのようにナイフを投げつける。

右肩にナイフが突き刺さった事実を理解しきれないリベルは声を失う。

イブは電光石火の追撃を繰り出し、リベルの喉を搔き切る。

喉が赤く染まったリベルは建物に叩きつけられ、意識を失う。

イブのいる建物の角と逆側から外の見回りをする最後のリベルが現れる。

出でくることを予見していたイブはリベルが顔を出すとほぼ同時に銃を発砲、一瞬で亡き者にする。

イブは射殺したリベルが確実に動かないのを確認しながら、工場の入り口の門の前に立つ。

銃声を聞いたリベルが確認に来る。

しかし、扉が開くと同時にナイフが突き立てられ、リベルは喉に開けられる。

ゴポッ、と喉から空気が漏れ出る音を出しながら、リベルはぐったりと倒れる。

倒れるリベルの奥から、もう一人がイブの眼に映る。


“もう一本のナイフを引き抜いて投擲は間に合わないか、仕方ない”


イブは一瞬でそう思考し、素早く銃を引き抜き発砲する。

相手が敵か味方か判断する為に判断力と時間を費やしたリベルは発砲する前にイブによって撃ち伏せられる。

しかし、腹に着弾した為、殺傷とまでは行かず


「敵襲だ!」


と叫ばせてしまう。

その声が呼び水となり、奥から武装したリベルが現れる。

完全に敵がいると判断したリベルは問答無用で発砲してくる。

イブは遮蔽物に体を隠し、被弾を防ぐ。

金属のぶつかり合う音が工場内に響く。

銃声の奥で、リベルが何かを叫んでいるのが聞こえて来る。

イブは銃撃の合間に手だけを壁から出して、発砲する。

もちろん当たることはしたいしていない。

ただ接近するのを防いでいるのだ。

銃撃が数秒止む。

イブは半身を遮蔽物から出して様子を伺う。

イブの眼に二人のリベルが映る。

彼女はとっさに体を戻すが、放たれた銃弾がイブの頰を擦る。

切り裂かれたような痛みを感じ、彼女は頰を触る。

指が赤く染まっている。


「私の顔に傷を付けた…」


イブは小さく呟きながら、銃撃のほんの一瞬の合間を見て半身を外に出す。


リベルが狙いをつける。


イブは敵の位置をある程度予測して、狙いをしっかりつけることなく発砲する。


この差が勝負を決した。


2発だけ放たれた銃弾は確実にリベルを射止めた。


イブは素早くマグチェンジしながら、追撃を確認する。


“敵影なし、追撃はないとなると…”


ほぼ間違いなく、リベル達がいるであろう工場の中央部に入ると同時に蜂の巣にする作戦だろう。


「そうくるんだんたら私の仕事は終わりだな」


イブがそう呟いた次の瞬間、3発の銃声が工場に響き渡る。


「スカーレット!クリアだ」


アイクの声が続けて響く。

イブはその声を聞いて、無言で歩いていく。




アイクの周りに三人否、二人の死体と一人のうずくまる男が一人いた。

ピチャ、とイブの足元で音がなる。

イブはそこを確認すると、アイクに撃ち抜かれたリベルの死体の周りに血だまりができていた。


「うぇぇ、汚ねぇ。靴汚れちゃったよ」


イブは靴裏を確認した後、苦しそうにうずくまる男に視線を向ける。


「しかし、あんた凄いねぇ。間髪入れずに発砲していたにもかかわらず確実に一人を生かし、二人を殺すなんて」


アイクはイブの言葉を無視して、男に銃を突きつける。


「どうして、こんなことをした?」


「どうしてだと?お前らにはわからないだろうよ!」


男は絞り出したような声で叫ぶ。


「そうだ、分からないから聞いている。質問の意味を取り違えるな」


アイクは男を蹴りながら冷静にそう言い返す。


「俺は、お前達(クラレット)飼い犬(ペット)でもまして道具ツールでもないからだ!俺の生き方は俺が決める、何か間違っているか!」


激昂したように叫びかける男の言葉にイブが少しだけ反応する。

しかし、イブは何も言わず男を見続ける。



「何を言っている、俺たちはクラレット家がいなければ産まれることすら出来なかったのだぞ、その恩義を感じていないのか」



「だからって、親の働き次第で子の運命を決めていい理由にならないだろ!その日を生き抜く為に仕事を休むことができない俺たちの身にもなれよ!」


「休みならしっかり設けてくれているではないか」


「それはお前たち中級以上の家はそうだろうな、だがな、下級の俺たちは毎日働かねばその日を食いつなぐことすらできない。俺はいつの日かから自分が人なのか人形なのかついに分からなくなった。だから、俺はお前たちに命を狙われ、こうやって殺される事になるとしても人として生きる道を選んだんだ!」


「なんなんだ、こいつ…」


返す言葉が見つからないアイクの手が震える。

男はポケットから何かを取り出し頭に当てる。

イブは何を行なおうとしているか理解する。


「こいつ、自殺する気だぞっ!」


イブの叫びでアイクは正気に戻る。

しかし、時すでに遅く


「俺の仕掛けを楽しみな」


男はそう言い捨て、自殺用とも思える小さな銃で自らの頭を撃ち抜く。


「くそっ!…それよりあいつの仕掛けとはなんだ?」


「煙草吸っていいか?」


イブは退屈そうにそう尋ねた後、欠伸をする。


「少し待て、……あいつとんでもないものを遺して逝きやがった」


「なんだそれ?まさか爆薬?」


「ここが吹き飛ぶとまでは言わないが、かなりの量の爆薬がこの時限爆弾につながれている。しかもこの爆弾が厄介だ中途半端な知識で組み合わされて作られている」


「解除できるか?」


「不可能ではないが、この爆弾いつ爆発するか分からん。その上、正攻法の解除が通じないからな…」


その時限爆弾はリベルが主に扱う主流の爆弾から離れており、解除は一筋縄ではいかないものだった。


「面倒だな、逃げるか?」


「それこそ、クラレット家に減級処分だぜ…俺はともかくスカーレットあんたはギリギリなんじゃないか?」


「ああ、そいつはまずいな、解除してくれ…私は煙草でも吸いながら他のリベルが来ないか見張っとくよ」


もしスカーレット家が減級処分を受けると下級へ降格する可能性がある。

そうなるとイブは死亡したリベルと同じ運命を辿ることになる。


「頼むぞ、こちらは集中させてもらう」




煙草をゆっくり吸い終わるほどの時間が経った後



イブはタバコの吸い殻を投げ捨て、アイクの様子を見に行く。


「アイク、解除できたか?」


イブは工場内の機械の角から半身を出してちらりと彼の姿を見る。


「もう少しまて、ここをこうすれば…あと少し」


カチッ、と嫌な音が聞こえた次の瞬間、目の前が真っ赤に染まる。

機械の陰から出した半身が業火に焼かれる。

声にならない苦痛を感じながら爆破の衝撃で後方へ吹き飛ばされる。

空中にいる間も、何度も爆発の音が聞こえてきた。

工場の構成パーツがいくつも崩れ落ちるのが見えた。

地面に体が叩きつけられると同時にイブは意識を失う。




ぼんやりとした世界に自分の意識の存在を感じる。


「私は死んだのか?」


彼女は一人で尋ねる。


もちろん誰も答えてはくれない。


思い返すとひたすらクラレットのために道具ツールのごとく利用されてきたロクでもない人生だった。


突如頭の中で


「俺は、お前達(クラレット)飼い犬(ペット)でもまして道具ツールでもないからだ!俺の生き方は俺が決める、何か間違っているか!」


この言葉が響く。


「そうだ、私だってあいつらの犬でも道具でもない。だがあいつみたいに下手は打たない。もし、生きているなら私はもっとうまくやる」


彼女ば一人、生徒も死とも取れない世界で呟いた。




イブは意識を取り戻す。

燃えた後の焦げた匂いが鼻をつく。


「私は…何を…っ!」


右半身に激痛を感じてイブは苦痛の表情を浮かべる。

見るも無残な醜い腕が眼に映る。


「アイク、無事か!」


イブが苦しそうな声で叫ぶ。

返事はない。

意識を失う前の映像がぼんやりと思い出される。

爆発の直撃を受けた彼が生存している可能性はとてつもなく低い。


「おい、今人の声がしなかったか?」


「そんなわけないだろ、生存者はいないはずだ。今頃、クラレットと自警団はカバーストーリーをばら撒き、情報屋を散らすのに忙しいはずだ」


イブは聞こえてきた声の主が敵だと判断し、痛む身体を無理やり動かし、左手でハンドガンを構える。

男の姿がイブの眼に映った次の瞬間、銃声とともに地面に伏せられていた。

イブはフラフラと男の元に近づく。


「お前が、こんなことをしたのか?」


イブが尋ねる。


「くたばれ、雌犬ビッチ


男の一人がそう言った次の瞬間、イブによって処刑が執行される。


「はっ、ボロボロだな…。可愛い顔が台無しだぞ…まあ俺らのせいだが」


「お前が私をこんな目に合わせたのかっ!」


イブの怒りに呼応したかのように右腕が燃える。

しかしその腕は熱くない。

腕が燃えていることを確認したイブは


「復讐の炎か?粋な話しだ」


と言いながら、燃えている右手で男の首を掴む。

男は全身油まみれで燃やされたかのように勢いよく発火する、


「あああっ!うぁぁぁっ!」


男は悲痛な叫びをあげながら悶え苦しみ息絶える。

イブは炎の消えた腕を見る。

その腕は先ほどと同じものとは思えないほど綺麗なものだった。


イブには


「俺は、お前達(クラレット)飼い犬(ペット)でもまして道具ツールでもないからだ!俺の生き方は俺が決める、何か間違っているか!」


という言葉が頭の中でずっと何度もリピートされて聞こえてきていた。


「私だって、奴らの犬でも道具でもない。彼の意思を継ぐわけではないが、私の生き方は私が決めるとしよう」


イブはそう呟きながらフラフラと廃墟と化した工場を後にした。


現在の物語(仮)上で超がつくほど重要人物であるイブ・スカーレットですが彼女は物語の裏で動くタイプなので彼女について書くタイミングがなさそうなのでここで書きました。

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