1-4 死なない王の倒し方 《帰国へ》
ローグから送られた四人の運び屋は思いのほか早く到着した。
流石の仕事の手早さはピカイチの男だと感心しながら、シオンはその運び屋達に視線を向ける。
シオンはローグとの通信の後、シンシアの介助を受けながらビルの側面に背中を当てて座っていた。
重武装タイプの装備で大層な隊列を組みながら現れた運び屋にシオンを除いた骸の王討伐隊がざわめきを発する。
こちらの存在というよりかはこの場に明らかに異常な骸の山に気付いた運び屋はこちらに走ってくる。
そのおまけでシオン達を発見し、骸の王確認チームとシオン達救出チームの2対2に分かれて各々の仕事を始める。
「シオンさん!無事でよかった…この方達は?運び屋には見えませんが」
シオンに駆け寄った運び屋がそう尋ねる。
「これが無事に見えるなんてお前相当だな。こいつらは俺とともに骸の王を倒した奴らだ、丁重に扱わんと俺が許さんからな」
少し威圧感を出しながらそう答える。
するとそれを聞いた運び屋はシオンを守ろうと銃を突きつけシンシア達を威圧していた男に「おいっ!」と言い、その行動をたしなめる。
たしなめられた男は何か言いたそうな表情で銃をしまう。
おそらく、しっかりシオンを防衛するように作戦前にきつく言われていたのをひっくり返されたからだろう。
「立てますか?ブリーフィングでは右足を負傷したと」
「ああ、折れてるとまではいかないがヒビが入っているかもしれん。すまんが歩く時は肩を貸してくれ」
「了解しました、その程度お安い御用です。それでその彼女らはいかがいたしましょう」
「国に迎え入れられないのならここでお別れしかないだろう」
シオンがそっとシンシアを見やると、彼女は「そっか」と小さく呟きながら寂しそうに彼を見かえす。
一応にも生死の狭間を共有し、共に“ナニカ”を倒した関係であるもう赤の他人、知り合い程度では済まされないだろう。
友人のそれに近い関係にまで迫ったところでいきなりお別れときた。
それにこの世界で国と外の世界だともはや出会う可能性は皆無である。
それ故にシンシアは寂しそうな表情をしているのだ。
奥でずっと骸の王だったものを触ってた運び屋がこちらにやってくる。
「確認しました。おそらく骸の王の骸で間違いありません。これ程大量の人間を外の世界で殺して骨にしたとは考えにくいですし、何より骸の王の特徴である胸にある二本の角の存在が認められました」
「そうか、その旨を本国に伝えて指示を仰げ」
先ほどまでシオンと会話していた運び屋がそう命令する。
彼がリーダーなのだろう。
骸の王を倒したという報告が国に入るとともに世界の常識が一つ覆った。
人の手には明らかに余る存在だと考えられていた幻魔の一角である骸の王が倒されたという事は、今まで無敵とまで考えられていた他のすべての幻魔にも倒せる可能性が初めて考えられるようになったのだ。
骸の王の討伐の報せは世界中の運び屋に希望を与えたと同時にシオンへの信仰のそれにも近い尊敬が強まることとなった。
運び屋の一人が無言で無線機を触る。
おそらく本国からの返答があったのだろう。
シオンは座りながら、無線機を使って会話している男の顔を見る。
「はい、はい、了解しました。そのようにいたします」
男はそう言って無線機から手を離す。
「本国の意向により、シオンさん並びにそちらの方々を国まで護衛します。そちらの方々もそれでよろしいでしょうか?」
その発言から意味を汲み取りきれなかったシンシアは首を傾げ、頭から“?”が飛び出てそうな顔でシオンを見る。
「つまり、俺と一緒に国に来ないかってことだ」
シンシアの顔を見て、彼女が運び屋の台詞の意味を理解していないことを察したシオンはそう簡単にまとめる。
「他のみんなも一緒に?」
シンシアがシオンの言葉から数秒開けて尋ねる。
簡単にまとめたがそれでも理解に時間を要したのだろう。
「もちろんです。あなた方は幻魔を倒した英雄なのですから」
シオンが何か答える前に運び屋が答える。
シンシアは仲間の顔を伺い、どう思っているかを探る。
仲間達もその様子に気づいてシンシアに向けて頷きを返す。
流石は極限状態で生き抜いてきただけはあり、リップシンクなどの技術を用いずとも無言でもある程度の意思疎通が可能なのだろう。
「わかったわ、私たちも国へ行きましょう」
シンシアが返事をする。
「一つ確認させてくれ、シンシア達の住居や食料はどうする気だ?」
シオンは運び屋に支えられながら、そう尋ねる。
住居の空きも食料の備蓄も有るだろうがいきなり十数人のもの人間を受け入れられるのだろうか。
そんな疑問がふと頭をよぎったのだ。
「国が準備します。その点に関しては心配無用です」
シオンの肩を支える運び屋が即答する。
シオンは即答されたその言葉を信じる事にして、詮索するのをやめた。