1-4 死なない王の倒し方 《幻魔の残滓》
鎖に吊るされた鏡を見ていた3人の少女はそこに映された光景に様々な反応を見せる。
飛び跳ねて喜ぶ者、ありえないと唖然とする者、静かに黙っている者、三者三様の動作で現実世界の出来事を見た。
「まさか、あり得ないよ。本当に彼、ただの人間?」
驚きから解放された実験者が小さく呟く。
実験者は見てはいけないものをこっそりと見るかのように首を動かさず目だけを予言者に向ける。
予言者は顔に一切表情を出しておらず、どう言った感情を持っているかわからない。
周囲の髑髏も不安そうな様子で予言者を見つめている。
満面の笑みを浮かべた観察者が予言者の顔を覗き込む。
「どう?どう?流石に驚いたんじゃない?」
「ちょっと、観察者…流石に今は…」
実験者は無遠慮な態度をたしなめるような言葉を発する。
しかし、観察者にその言葉は届かない。
「ねぇ、何か言ってよぉ?ねぇ、ねぇってばぁ♪」
観察者は畳み掛けるように言葉を連ねる。
予言者は観察者の言葉を聞いている様子はあるものの沈黙を破ることはしない。
「予言者……」
心配そうに実験者が言葉を漏らす。
予言者は数回深呼吸した後、
「…はぁ、ようやく整理がつきましたわ。たしかに観察者さんの言う通り、流石にこの極薄の未来を掴んでくるなんて正直驚きましたわ。引き続き彼の追跡を続けてくださいな。彼から引き出せる限りの情報をいただきましょう、私たちの目的のために」
と言う。
「けっ、黙っている間に情報を整理して、こっちに本音を悟られないようにしたわけかよ。本当に気にくわない女だよ」
観察者はそう吐き捨てると二人の元を離れていく。
現実世界のどこかにて
観察者は現実世界と精神世界とをつなぐ門をくぐり現実世界にやってくる。
そこに一体の化け物のが片膝をついてこうべを垂れて待っていた。
「来ると思い、お待ちしていました」
化け物がそう話しかける。
「ん?君はたしか例外個体、幻魔の残滓くんだっけ?」
観察者は意外でめずらしいものを見たと言った表情をしながらそう言葉を返す。
「例外個体も幻魔の残滓という言い方もあまり好まないのでやめていただきたいのですが…。もっとも搾り滓というのは間違いないのですが…」
“残滓”はほんの少しだけ不機嫌そうに言葉を漏らす。
「まぁ、いいじゃない“残滓”って言葉の響きがいいし。……で?わざわざここに来たってことは何か言いたいことがあるんだろ?」
観察者は見透かした様子でそう尋ねる。
「それがわかっていただけていると話が早い。奴の件です。貴女が動けない時も多いでしょうし、この件に関してのみの自由権限を与えてくれないでしょうか」
“残滓”は終始低姿勢な様子でそういう。
「ふーん、そう言うことか…こちらのメリットは大きいが、そちらのメリットがわからない。現実世界の言葉に“タダより高いものはない”と言う言葉があるように全ての物事は何かしらあるのの要素で対等を保ち、ウィンウィンで構成されている。本当の無償の行為など、この世に存在しない。君にもあるんだろう?何か狙いが」
「まぁ、自由権限というメリットと、奴に興味があると言ったところです」
観察者は笑みを崩さずに“残滓”の周りを意味ありげにくるくる歩く。
「ん、わかったこの件に関する限定的な自由権限を与えよう。…そのかわり、もし予言者や実験者の命令と僕の命令が被った時は僕のをしっかり聞いてくれよ♪」
“残滓”は無言でこうべを垂れた。




