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終末の運び屋  作者: 俊
骸の王
19/24

1-4 死なない王の倒し方 《死なない王の倒し方》

シオンは足をなるべく使わないために匍匐で腕の力に頼りながら骸の王によって崩された瓦礫の間を抜けていく。

時折、骸の王の方を向きこちらに気づく様子がないかを確認しながらゆっくりと進んでいく。

王が彼の方向を向いていれば動きと息を止め必至に気付かないことを願い。

王が彼の方向を向いていなければなるべく早くシンシア達の元へ向かうために、腕をフル活用して前に進む。

極限世界での命をかけた進むか止まるかの駆け引き、あえて可愛らしくいうのであれば“ダルマさんが転んだ”の究極系を行うシオンの脳は再度、限界を迎えようとしていた。

しかし、今回は少々目を閉じてしまったところで命の危機に即座に晒されるわけではないため気が楽だった。

シオンは目を閉じて、ゆっくり息を吐き出す。


そうして極限ダルマさんが転んだを行いながら目的地へと到達したシオンはゆらりと立ち上がる。

シオンはバックパックから鎮痛剤ペインキラーを取りだす。

鎮痛剤ペインキラーは現行の技術では即効性は非常に高いが持続時間の極端に短いものしか作れず、流通、乱用、廃人化を避けるために生産数と携行数に制限がかけられており、一般の市場には全く出回っていない。

シオン自身、鎮痛剤ペインキラーを好んで使うことはほぼなく、だいたい痛みから意識を逸らして乗り切ると言った古典的な方法で耐えてきた。

そもそも本当に持続時間が短いため携行数が一本では使う旨味があまりない。

しかし今回は別だった。

足に無茶させてでもこの作戦を成功させる必要がある。

自分のためにもそして、みんなのためにも。

シオンは注射器を足に突き立てる。

数秒すると足の痛みが引いていくのを感じる。


「ほんと、即効性だけはすごいな」


他はそうでもないけどと含みを持たせて一人呟く。

そしてシオンはサブマシンガンを構えて、骸の王のいるであろう方角に向けて乱射する。

骸の王の咆哮が耳に飛び込む。

砂や埃、ゴミが舞い散る中、圧倒的存在感を放つ骸の王がその姿をあらわす。

骸の王はシオンに向かって一直線に向かってくる。


「さぁ、この命をかけた鬼ごっこも“最終章”だ。ここで沈んでもらうぞ、骸の王!」


そう大見得切って走りだすシオン。

足は多少の違和感があるものの、痛みはなく、なんとか走れる程度にはなっている。

この周辺一番乗り大通りに入ってきた骸の王は走っているシオンをまっすぐ追いかけ続ける。

その差はどんどん短くなっていく。

やがて大剣の間合いとなり腕が振り上げられる。

シオンは最後の特殊スモークグレネードのピンを引き抜き、地面に落とす。


「後は、頼むぞっ!お前たち!」


シオンが叫びながら投げ出されたかのように転がる。

シオン目掛けて振り下ろされるはずだった大剣はその剣先を煙へと変えそこに突き立てる。


「今よっ!全員動いて(ムーブ)っ!」


シンシアの良く通る声が聞こえてくる。

威勢のいい叫び声とともに配置されていたワイヤーがシンシア達の手によって動かされ、骸の王を絡めて、拘束する。

息のあった動作のおかげで特殊スモークグレネードの有効時間内に全てのワイヤーを動かしきった。

骸の王が動くも周囲にあるいくつものビルを支柱としてつけられたワイヤーの拘束はなかなか堅牢で切れない。


「さぁ、仕上げよっ!シオン、命令して」


シンシアがわざと回りくどいやり方を取ってくるが、今更この状況で言う(つっこむ)ことでもないと判断したシオンは


「総員、ぇ!」


と叫ぶ。

うぉぉぉ!と叫ぶ声とともに無数の鉛玉が銃声とともに撃ち出され始める。

無数の銃弾が一つの的に向けて放たれるその様子はまさに花火であった。

数十はあるマズルフラッシュと骸の王とをつなぐ弾丸の光、それが形成するのはまさにファイヤーワークスと例えるに相応しいものだった。

何十、何百、何千もの銃弾が同時に発射される影響で周囲は火薬の香りに満たされていく。

しかしそれでも王は死なないし殺せない。

その理由は単純、その程度の火力では傷付きもしないからだ。

それを分かってなお、シオンもシンシアもそのほかの仲間たちも死なない王を見ても、絶望せず引き金を引き、マガジンを入れ替えて、また引き金を引く。

それを延々と繰り返している。

その先にあるシオンの示した可能性を信じているからこそ、誰も撃つのをやめなかった。

骸の王は暴れようとするがワイヤーが有効に働き未だにビルとビルの間でもがいているだけだ。

しかし、骸の王に弾丸が通用している気配は全くない。

それどこらか気にも留めていない様子でワイヤーと格闘している。

王にとっては銃弾よりもワイヤーによる拘束の方が脅威なのだろう。

シオンもサブマシンガンを構えて、骸の王に向けて撃ち続ける。




シオン自身どれだけ撃って、どれだけ残弾があるかわからなくなり始めた瞬間、ワイヤーが悲鳴をあげた。

骸の王を拘束するワイヤーの内の幾らかが限界を迎え、ついに切断されてしまった。

これによって骸の王は自由に動きやすくなった。

しかし、それ以上骸の王が動くことはなかった。

それどころか、操り人形の糸が途切れたかのようにワイヤーに抱きかかえられるように倒れこむ。

そして、身体を形成していた骸は有象無象の骨へとバラバラと崩れ去り戻る。

そうして骸の王(ロード・オブ・デッド)は崩れ去った。


「やった……のか?」


その光景を見ながらゆっくりと尻を地面に付けたシオンがつぶやく。

骸の王が再度動き始める様子はない。


そう、彼らは勝ったのだ。


“殺せない”はずの骸の王を倒したのだ。


「はっ、ははは」


どこからともなく気の抜けた笑い声が聞こえてくる。

殆どの者がその声に数瞬遅れる形で勝利を自覚した。


「うぉぉぉ!やった!やったんだ!勝ったぞ!俺たちはあの化け物を仕留めたんだ!」


そこらじゅうから勝利を喜ぶ言葉が聞こえてくる。


終末以前の文明を持ってしても決して倒せなかった幻魔の一角をその手で崩した現実に笑み、涙、驚きさまざまな感情が入り乱れた。


シオンの目に走ってくるシンシアの姿が映る。

勢いを止めることなく抱きつかれたシオンは全身に痛みを感じながらそれを受け止める。


「よかった、よかったよ、シオン、あんたが生きていて…。そしてあの化け物を仕留めた。全部あんたのおかげさ」


シオンに強く抱きつきながらシンシアはそう言う。

全身ボロボロのシオンにはシンシアの抱きつきが体に響くものだった。


「すまん、多分骨にヒビが入っているんだ」


シオンが苦しげにそう言うと、シンシアは初めて抱きついていたことを自覚したように驚きながら距離を取る。


「ああっ、ごめんなさい。…でも良く気づいたよね、骸の王(ロード・オブ・デッド)が“生きていない”って」


そう、骸の王は生きていなかったのだ。

それ故に死者をもう一度殺すことができないのと同様に骸の王は殺せなかった。

しかし、骸の王は動いて“いた”。

そのカラクリは暴いて仕舞えば実に単純なものだった。

ジェーンの言った、「骸の王の動きをしっかり見る事だね。自ずと骸の王の倒し方がわかってくるはずさ」という言葉セリフが全てを示していた。

骸の王は視認能力がないもしくは鈍いために、戦闘状態でも特殊スモークグレネードが有効にはたらいた。

そして、骸の王の動きが完全に止まった時に決まって放たれる無数のエーテルα型の存在。

そこから答えを導くのは難しくないだろう。

骸の王と無数のエーテルは同時に存在せず、行動しなかった。

つまりはその二つの存在は表裏一体であり、エーテルが骸の王(ロード・オブ・デッド)本体でもあることを示していた。


簡単にまとめると無数のエーテルが骸の王すなわち巨人型に集まった骨の塊を動かしていたのだ。

最初から骸の王が生きていたことなどなかったのだからそもそも“殺す”という概念が通用するはずがない。

だからジェーンはあえて「簡単にいうなら骸の王(ロード・オブ・デッド)は倒せる」と“殺せる”ではなく“倒せる”という言葉を選んだのだろう。

“死なない”王は“倒す”しかないのだ。

そして、全ての元凶となっていた無数のエーテルは骸の王の外周を取り巻くように存在していた。

そこに弾丸をぶつけて、ほぼ全てのエーテルを打ち払うことで骸の王を無力化したのだ。

打ち払っただけなのでエーテルは復活するだろうが、骸の王の巨体を再生するのは難しいだろう。

実際、シンシアたちの援助なしでは骸の王を倒すことはできなかったと確信する量のエーテルが骸の王を動かしていた。




『まだだ、まだ終わってない』


無線機を介して聞いたことのない声が耳に入る。


「お前は誰だ?」


得体の知れない声にシオンが反応する。

弱まってきているとはいえ霊嵐はまだ止んでいない。

それにシオンの使っている無線機の相方は目の前にいるシンシアが腰につけている。

つまり、何かしらの方法で無線機に介入して強制的に通信を開いたとしか考えられないのだ。


『話は後にしよう。くるぞ、残ったありったけの弾を撃ち込め』


そういうと無線は途切れてしまう。


「おいっ!おいっ!このっ!」


どのように繋いできたかがわからなければこちらからは相手にかけることもできない。

ただ、一方的に話をされ一方的に無線を切られただけだった。

シオンがそれを非常に高度な技術を用いたいたずら無線で片付けようとした時、シンシアが青ざめた表情で口を手で押さえながら、骸の王“だった”骨の山を見ていた。

シンシアの視線を追った先に、人とも異形の化け物とも区別のつかない得体の知れない少なくとも“人型”とだけのわかる何かがいた。

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