1-4 死なない王の倒し方 《奮起する戦士》
骸の王から逃れた後、シンシア達と無事に合流できたシオンは自らが考える最善策を伝えていた。
「以上が俺の考える最善の案だ、みんなにも協力してもらうことになる上、この作戦は俺の推測に過ぎない考えに基づくことになる。危険な賭けだ、おりても構わない」
「待って、これじゃああなたのリスクだけ大きすぎるわ。それに最善と言うのなら嵐が過ぎ去るのを待って国とやらに帰るのが一番でしょ?」
シンシアは作戦の内容があまりにもシオン一人に負担が大きいのにも関わらずその作戦を最善と言う彼に質問を投げかける。
「嵐がやんでも骸の王は消えない、あんたらは近くに化け物がうろつく中生きられるのか?」
シオンが真面目な顔で尋ね返す。
「それは……。でもそんなリスク背負う意味がわからな……っ!」
心当たりが見つかり、言葉を失うシンシア。
おそらく彼自身が一番気にしているであろうことに触れかけてしまったシンシアはそろりとシオンの顔を伺う。
シオンの顔に不機嫌は浮かんでいなかった。
そのシンシアの様子からなにを言わんとしているかを悟ったシオンは
「俺がこの作戦を提案したのはアランの件の罪滅ぼしのためだけじゃない。死んだ時に胸張って“あいつ”に会うためだ…つまり俺のために奴を倒す。俺の我儘に付き合ってくれないか」
と言いながら頭を下げる。
予想外の展開にシンシアも周りで聞いていた人間もどう反応して良いかわからなくなる。
“あいつ”とやらも“アラン”と同様に触れてはならない話、存在であるような気がして掛ける言葉に悩んでしまう。
「シンシアはん、シオンはんはもうなにを言うても曲がらへん。あの目はあんたの親父さんにようよう似とる。あんたが協力するかせえへんかは彼にとって少しの違いしかない」
ジェイクがシンシアに向けて諭すようにそう言う。
シンシアは数秒悩むようなそぶりを見せた後
「わかりました、私たちの協力があなたを助けることになるのであれば手伝わせて」
とはっきりと言い切る。
「よっしゃ、そうと決まればみんなあれを持ってこい!今こそあれを使う時や」
それを聞いたジェイクが嬉しそうに部屋の隅、布がかけられた荷物置き場を指差しそう言う。
布が剥がされた先に見えたのは二桁はゆうに超えている数のある銃であった。
全て圧縮装置が未起動の状態で放置されている。
ここ最近の死亡した運び屋が持っていた銃の回収率の悪さの理由の一つをかいま見た気がしたシオンは苦笑いを浮かべながらそれらを見る。
「そんなご大層なものどもをどこで?」
シオンはだいたい答えは分かっているがあえて訪ねた。
「そこらへんに落ちているのを拾ってきただけや。…といっても安心せぇ、ここにいるもんみんな一通りの心得はある。シオンはんの作戦成功に役立つはずや」
ジェイクが得意げに言う。
一通り使えるのであれば扱いの上手い下手の関係なしに作戦へ組み込む要素として十分だった。
作戦の最終段階で一人では心許なかった攻撃の手数が増えるのはシオンにとって非常にありがたい話であった。
「よし、作戦は先ほどの通りだ、もし数十分間連絡が途絶えたら俺は死んだ者として扱ってどんな状況であれ、その場を急いで離れろ…いいな?」
シオンが冷静に強い口調でそう念押しをする。
ただ一人を除いて全員が頷く。
シオンはその例外に目を向ける。
一番返事をしっかりしそうな彼女が頷かなかったことに違和感を覚えたシオンは
「シンシア?聞いていたのか?」
と彼女に向けて言葉をかける。
「ええ、聞いていたわよ。でも、その命令にだけは従えない」
シンシアはシオンに負けない強い口調でそう言い返す。
このタイミングで反論されると思っていなかったシオンは一瞬言葉が詰まってしまう。
「どうして?これはリスクヘッジのためだ。一番失敗のリスクが高い部分が失敗した時にすぐに逃げられるように…」
シンシアの毅然とした態度に驚きながらシオンが言葉を連ねる。
しかしシンシアはその言葉を遮るように首をふり、
「そんなことは関係ない。やるからにはみんな生きて奴を倒して家に帰るの、それが約束できないならこの作戦は無しよ。……約束して、絶対に生きて戻ってくるって」
と言う。
予想外の言葉の連続に驚きを顔に出したシオンはシンシアの目を見る。
その青い瞳は真っ直ぐシオンを見つめ返している。
その目を見るだけで彼女の意志の強さが伝わってくる。
やがてシオンはふっ、と笑い
「約束しよう、絶対に生きてここに戻ってくると。さあ、みんなあの化け物に見せてやろう“死なない王の倒し方”と言うのをな!」
と言った。
その言葉に戦意を奮い立たせられたその場にいた全ての人が叫び声をあげた。
王との決戦の時はすぐそこまで来ていた。