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終末の運び屋  作者: 俊
骸の王
14/24

1-3 王と弱者の戦い 《湖で》

風の吹く音と大地の揺れが人々に恐怖を植え付ける。

視界は舞い踊る灰や埃でかなり悪くなっている。


「ここが見つかるのは時間の問題や、逃げましょ」


ジェイクが焦りを必死に抑えてそう言う。

しかしみんな何故か逃げることを渋っている。

シオンが自殺願望でもあるのだろうか?と疑問に思っていると、ある理由に気づいた。


「シンシアは?シンシアがいないじゃないか」


シオンは彼女の先ほどの行動を忘れたかのようにキョロキョロと周囲を見回す。


「シンシアは仲間が失われると決まって一人どっかに行ってまう。わいらにもどこにおるかはわからへん」


「わかった、俺が探してくる。ジェイクたちはその間に避難準備をしてくれ」


シオンがそう言い切り、外に出ようとする。

すると肩を強く引かれる。


「一人ではいかせん、わいらも探す」


ジェイクがまっすぐシオンを見つめて言う。

ジェイクの背後の男たちも揃って頷いている。

正直一人で探せる気のしなかったためこの申し出は有り難がった。

そうして、視界不良の中で命をかけたかくれんぼプラス鬼ごっこすなわちデスゲームが始まった。




シオンは一人で北側を捜索していた。

ここはちょうど目的の荷物が落ちていると予測されている場所に当たる。

シンシアのついでに荷物も探すためにここを選んだ。

先程からずっとシオンの神経を刺激する王の足音に彼の顔にほんの少し疲れが浮かんでいた。

運び屋(ベクター)はそもそもこのような状況になることを避けて仕事を行うものだ。

あってもエーテルとの戦闘程度である。

それがエーテルの圧倒的な上位的存在である幻魔、骸の王(ロード・オブ・デッド)に見つからぬよう人と荷物を探すなど当然ながら基本的に想定されていない。

シオンは今までの経験、己の勘を総動員して捜索にあたっている。

少しの油断が即、命に関わる状況は一部例外を除いた人間にとって心地の良いものではない。

シオンはふとポケットの中を思い出し、取り出す。


“あいつが言っていたことが本当ならここにヒントが”


そう思いながら取り出された紙には終末聖書のことが書いてある。

彼女はここにヒントかつ答えがあると言っていた。


“新手の布教手段でもない限り、何かしらの意味があるはずだ”


シオンは外に最大限の注意を払いながら紙の内容をよく読む。


“もし、内容が答えなら王は殺せない。ただあいつは殺せると言った筈だ。何かが違うのか?”


考えるほどに何かに飲まれていくような感覚はシオンに不快感を与え続ける。

シオンは黙って思考を続ける。

幸いにもまだ骸の王はこちらに完全に気付いているわけではないようだった。

ただ何かいそうだから探しているといった状態だ。


“何が違う?何が答えだ?…それさえわかれば…”


もしかすれば、そもそも答えのない問いかもしれないが思考せずにはいられなかった。

常識的に考えて彼女が真実を言っている可能性は限りなく低い。

誰も倒し方を知らない相手の殺し方を少女が知っていると考える方がありえないだろう。

しかし、たったコンマ数パーセントでも真実を言っている可能性がある限りは信じたかった。

思考の間もゆっくりと歩みを進めていたシオンの前に宝石が現れる。

実際に宝石があったわけではないが、黒が視界の8割を占める中に現れた小さな湖はまさに宝石サファイアのごとき煌めきを有していた。

前回の運送ではルートに含まれていないため一切気付かなかったが見なかったかことが惜しいほど素晴らしい景色である。

その水辺に一人の見覚えのある女性が立っている。


「シンシア、ここにいたか。状況がかなりまずい、戻ろう」


「…綺麗でしょここ」


憔悴しきった様子の彼女が語りかける。

脈絡のない言葉に驚くシオンを無視して彼女は語りを続ける。


「お父さんが仲間が減った日の夜、一人ここに来ていたの」


———それに気付いてからしばらくした後、私はこっそりついて行って驚かそうと思ったの。

そこで見たお父さんの姿を忘れることはないわ。

亡くした仲間の名前を呼びながら泣いていたの。

その涙が湖を作ってるんじゃないかと思うほど泣いていたの…。

当時の私にはそっとしておくことが出来ずお父さんに話しかけに行ったの。

そうしたらお父さんの涙はすっと止まって


「シンシア、この景色はこの世で最も綺麗かもしれない。もし、一人になりたくなったらここに来るといい。自然が慰めてくれる」


と言ったの。

お父さんが死んだ後、私は仲間を失うたびにその言葉を思い出してはここに来てあの時見た父のようにここで涙を流すの。———


シンシアが語りを終えると同時に地面に座り込む。

涙を流していたのだろうか目が赤く腫れぼったい。

シオンはシンシアに手を差し伸べる。


「辛いと思うが、今は悲しんでいる場合じゃない。ここであんたが立ち上がらなきゃもっと多くの仲間を失うことになるんだぞ?」


シンシアが死んだ魚のような目でシオンを見る。

脳がシオンの言葉を理解してゆっくりと正気を取り戻す。

正気を取り戻した目がシオンをしっかりと捉える。


「シ、シオン…どうしてここに?」


冗談ではなく本気で驚くシンシア。

虚ろな思考でただ目の前にいる誰か(きょぞう)に話していたのだろう。


「状況が最悪な上に時間がない、軽く状況説明だけしよう」


シオンは簡単に説明を始める。


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