1-3 王と弱者の戦い《王》
—ブリーフィングファイル—
ミッションコード:113SZK443
目的:新型無線機の回収および通信中継器の確認、
修復
任務難度:Ⅴ
備考:可及的速やかに任務達成することを要求。
骸の王が周囲に存在するため任務難度をⅤに設定した。
新型無線機は非常に人類にとって大切なものの
ため、確実な回収が求められる。
また、最近回収率の低下が著しい武器を回収して帰還した場合、追加報酬を与える。
半日後
シオンはあらゆる装備、準備を最速で終わらせた。
それでも夜になりかけている。
ボディスーツに着替え、ワーム等の補助道具以外何もないカバンを背負ったシオンは外の世界と国を隔てる扉の前にいた。
『シオン、準備はいいか?』
ローグが尋ねる。
シオンは一通り装備を見た後
「ああ、体調・装備オールグリーン。バッチリだ」
と言う。
そのあとハンドガンに初弾すなわち、1発目が装填されているか不安になったシオンはスライドを少し引いてエジェクションポートを覗き、いわゆるプレスチェックで、しっかり装弾されていることを確認する。
ちなみにサブマシンガンは圧縮カプセル化する前に入念に装填確認を行なってある。
『それでは念のためもう一度目的を言うぞ、新型無線機の回収および周辺の通信中継器の動作確認・修理が今回の依頼だ。目的地はワームにすでに読み込ませてある。骸の王に注意しろ』
「わかっているよ、ほんとローグは仕事前になると心配性になるな」
シオンが茶化すようにそう言う。
『注意を怠って死んだやつを何人も見て聞いてきたからな、お前にその一人になってほしくないだけだ』
ローグは至って真面目にそう言う。
シオンが兵士に扉を開けるように指示する。
するとすぐに扉が音を立てる。
肩を密着させて扉を押し開ける。
扉が開ききると重い音が地下鉄の中を通り抜ける。
「目的地までにエーテルの反応は?」
扉が開いて外の世界に出てすぐにシオンが尋ねる。
『感知範囲内には存在しない、ただ注意を怠るな』
「了解、了解、さてとお散歩と行きますか」
シオンはワームの光が指す方へ向かって歩き始める。
取り囲むようにして鏡に映る現実世界を見ていた少女の一人が嬉しそうな声を上げる。
「予想通り、始まったねぇ〜」
「そうですわね、こちらの駒も配置完了しておりますし、後は見るだけですわ」
声をあげた少女に反応するようにいつも通りのゴスロリの服に身を包んだ予言者が言った。
後ろの無数の髑髏が心なしか頷いているように見える。
「予言者、結末を教えてよ」
大きな髑髏に乗ってふわふわと浮く少女、実験者が眠たそうに尋ねる。
「最も確率の高いの未来では彼は死にますわ、ただ珍しいことに薄っすらと彼が生き残る未来も見えましたの」
「そのどちらに転ぶかは分からない感じ?」
様子の違う予言者を見て実験者が少し心配そうに尋ねる。
「そうですわね、余程のことがなければ、十中八九、彼は未来を迎える思いますけれど…」
少し自信なさげにそう言う予言者を見て観察者は
「かー、今、予言に自信がないから保険かけたでしょ?死ぬか生き残るかだって?そんなの当たり前じゃん。それ以外に何があるのさ」
と鋭く言い放つ。
観察者の嫌味のような言い方にムッとした気配すら見せずに
「いいえ、普段なら二つ未来が見えることはないのですけれど…。今回は珍しいタイプでしたのではっきりといえないのですわ」
と予言者は答える。
「ふーん、じゃあ彼のつなぐ未来とやらがどのようなものか見るとしよう」
悪女的な笑みを浮かべて観察者はそう言った。
彼女が指差した先には現実世界を映す鏡がある。
目的地までは何事もなく順調な足取りで到着できた。
骸の王もまだ安全な距離を保てている。
このままいけばとてもつもなく簡単な仕事だ。
ただ、シオンは一種の使命感をもって進路を少し変更する。
寄り道する先はもちろんシンシア達の家だ。
例えどんなにひどい言葉を投げかけられてもそれを受け入れ、アランの死を伝える責任は自分にあると考えたのだ。
シンシア達の家付近に来た瞬間、何かに引っ張り込まれる。
シオンはナイフを引き抜きかけるが殺意がないことに気付き、手を引っ込める。
「1日ぶりかしら、シオン」
シンシアの声が耳に入る。
シオンの拍動が一瞬で加速する。
口を開き何か言葉を言おうとするも、喉が音を発することを拒んでしまう。
喉がカラカラに乾いてくるのを感じる。
何も言わないシオンに不信感を覚えたシンシアは彼の顔を覗き込む。
いつのまにか周りにシンシアの仲間がいる。
シオンはアランの死を告げることを決意し、深呼吸する。
「すまない!アランを、アランを入国させてやれなかった…それどころかあいつの命が…」
シオンは土下座をしながら叫ぶようにそう言う。
どういう意味をシオンの言葉が持っているかを理解した一同は絶句する。
「あなたがそんなに気に病む必要はないわ、彼はどちらにせよ病にやられてしまったでしょうし…気にしないで…」
シンシアが感情を押し殺した表情でそう言う。
彼女はシオンに背を向けて歩き始める。
「少し、一人にしてちょうだい」
彼女はそう言って外へと出ていった。
「シオンはん?追うのよしてもらえませんか?」
ジェイクが追いかけようとするシオンを腕を掴み、そう言う。
シオンはジェイクの制止を受けて止まる。
「わい、いやわいらはシオンはんに感謝しておるんや」
ジェイクの放った言葉は意外そのものだった。
“仲間を殺されて感謝?きつい言葉だ”
そう思ったシオンは黙ってジェイクの言葉の真意を探る。
「シオンはんも聞いていたやろうが、シンシアは今まで失ってきた仲間全てを背負って生きてはる。言い方悪いかもしれんが今回の死はシオンはんの責任にできる、シンシアの重荷を少し軽くしてくれたんや」
「そういうことか感謝しているという意味は」
「シンシアは親父さん譲りの判断、行動力はあるが仲間の死を受け止めきる心の強さがないんや。そういう点ではシオンはんの方がリーダー向きかもしれんな」
ジェイクがそう言うとシオンの顔に影が落ちる。
「俺にはリーダーなんか無理だよ。背負うことからも背負われることからも逃げた弱い人間になんてな。仲間の死を背負ってなお皆んなを率いているシンシアの方がよほど強いよ」
自虐的な笑みを浮かべてそう言うシオン。
ジェイクは触れてはいけないものに触れた時のように言葉を失う。
数秒ののちジェイクが口を開く。
「いや、わいはそうは思わん。シオンはんはリーダーになるべき人間や。シンシアの親父さんによぉ目が似とる」
シオンがその言葉に反応する隙もなく大地が大きく揺れる。
「うあぁぁぁぁ!!む、骸の王だぁ!!」
絶望に似た叫びを近くの者全てが聞いた。
「見張り!距離は!」
誰かが大声で叫ぶ。
「距離およそ200、こちらにまっすぐ進んでいます!」
今にも泣き出しそうな声で見張りはそう報告する。
「どうしてもっと早く報告しない!」
怒りを帯びた声が家の中に響き渡る。
起きてしまった以上責めても意味はないが思わず言葉が出たのだろう。
「急に、急に目の前に現れたんです!」
『彼らの言う通りだ、エネルギー反応が瞬間移動した。シオン、荷物を回収してその場から離れろ』
ローグの命令が聞こえてくる。
しかし、外へ出てすぐに最悪な化け物がいる。
そいつをなんとかしない限り任務もクソもない。
悪いことには悪いことが重なるようで
『お……シオン?……まさか、…嵐?…お…今す…』
突風が吹く音が聞こえ始める。
通信が完全に乱れている。
霊嵐が起きたのだ。