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終末の運び屋  作者: 俊
骸の王
11/24

1-2 少女は笑う 《少女は笑う》

シオンは目にも留まらぬ速さで髑髏の少女の首元にナイフを当てる。

その速度はもはや神速の域である。

シオンはナイフを動かさずに威圧的な目で少女を睨む。


「貴様何者だ?どうやってここに入った?」


髑髏の少女は笑みを崩さず


「そのナイフで僕を斬れるかい?そのナイフを汚せるかい?」


と尋ねる。

なにかを知っているかのような言葉を受けて、ナイフがわずかに震える。

シオンは少女の質問に答えずに


「貴様の目的はなんだ?」


と言う。

少女に聞きたいことが多すぎるがとりあえず聞くべきはそれであった。


「君の手助けをしようと思ってね」


「へぇ、そんな手助けをしようとすると君の名前を聞いても良いか?」


シオンが本意を探るように尋ねる。

彼女は何から何まで怪しすぎるのだ。


「ジェーン・ドゥとかでどう?」


シオンは隠すつもりもなく偽名を使ってきた少女に警戒心を強める。

ナイフは返答次第で離すつもりだったが、少し力を込めれば首を斬り裂ける位置で止まったままだ。


名無しの権兵衛(ジェーン・ドゥ)がなにを教えてくれるというんだ?」


シオンが皮肉を言うように尋ねる。

ジェーンはシオンの言葉の外にある意図を読み取り


「君の知りたいことさ」


と含みを持たせて言葉を返す。


「具体的にどういったことだ?」


「聞きたいならそれなりの態度を示してほしいなぁ」


ジェーンはシオンの持つナイフを軽く指で軽く叩く。

シオンはジェーンが襲いかかってきた時、即応できるギリギリの位置までナイフを下げる。

シオンは全神経をジェーンに集中させ、怪しい動きをしないか監視する。

ナイフが下がったのを確認したジェーンが口を開く。


「簡単にいうなら骸の王(ロード・オブ・デッド)は倒せる」


その言葉にシオンの顔がわずかに反応する。

ジェーンはそのシオンの反応を見て笑う。

彼女は常にシオンの思考を読んでいるかのようだった。

その様子は気味が悪かった。

いつのまにか彼女の手に一枚の紙が握られている。


「答えのわかった問題ほど面白くないものはないからね。あげるのはヒントだけ」


ジェーンはシオンにその紙を手渡す。

“終末聖書 一章 第17節”、そう書かれた紙を見る。

終末聖書とはこの世界で最も栄えている宗教が聖書と位置付けているものだ。

終末聖書に終末の日からの事が終末の日以前に書かれていた。

まるで終末を予言するかのように。

そこから終末は人類の高慢さに対するノアの洪水、バベルの塔に続く神の怒りだと妄言を吐き始める輩が現れたのだ。

そして自然に与えられるもので慎ましく暮らしていくことが神の赦しにつながると考えられた。

その考えは信じた神に裏切られた世界中で一気に広まり、宗教のパワーバランスを一瞬で塗り替え、最大規模の宗教となった。


「宗教の勧誘ならお断りだ」


シオンは紙をコーヒーの横に置く。

紙に溢れたコーヒーが染み入る。

ジェーンは笑顔を崩さずこう告げる。


「この僕が人間が絶望からの逃げ道として作ったものに勧誘をするわけがないよ。骸の王を放っておけば、シンシア達もアランの後を追うことになるよ」


「…なにが言いたい?」


シオンが不機嫌さを隠さずに尋ねる。

わざわざ回りくどくはぐらかす態度にシオンは少しずつイライラを募らせていた。


「まー、そんなに怒らないで僕の話を聞いてよ。聞いておいて損はないと思うよ」


シオンは黙ってジェーンを睨みつける。

それを無言で続きを促していると解釈したジェーンは口を開く。


「それでは…こほん」


わざとらしく咳をしたジェーンはシオンに渡した紙の内容を読み上げ始めた。




一通り読み終えたジェーンは満足げにシオンを見る。


「どう?骸の王の倒し方のヒントわかった?」


「今のどこがヒントだ、終末聖書を一部分をただ読んだだけじゃないか」


シオンは紙を指で強く叩きながらそう言う。

その紙の角はコーヒーのシミがある。


「当たり前だよ、あれがヒントであり、同時に答えなんだから。ただ、もう一つヒントをあげるなら…そーだなぁ、骸の王の動きをしっかり見る事だね。自ずと骸の王の倒し方がわかってくるはずさ」


少女は笑いそういう。


“これ以上聞いてもはぐらかされるだけか”


シオンは紙を再びコーヒーの横に置いて


「まあ、俺がわざわざ骸の王を倒しに行くなんてことがないと思うが、面白い話だった」


とジェーンを背後に置いて言う。


——倒しに行くかわからないねぇ、まぁ君には期待しているよ


シオンが視線を外した瞬間、ジェーンはそう告げる。

シオンがジェーンの元へ視線を戻すとすでに少女の姿はなかった。

異常な経験をしたシオンは嘘か真か夢か現実か理解できず無言で突っ立っていた。


「…シャワーでも浴びるか」


自分が汗臭いことを感じたシオンはそう呟いた。

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