ある男の真実
~前回のあらすじ~
ヨルンまさかの仲間外れからの
聖女に質問されてからの
聖女の決意です
カチャ……
遥か昔に絶滅したと言われているヒノイの大木を切り出して作った一枚物の大きいテーブルの上にティーカップが五つ。爽やかな香りがするティーカップの中身はレモの実を乾燥させて作ったレモティー。一口飲めば香りだけでなく頭の中まで爽やかになる一品だ。
「ネア、ヴィネありがとな」
「ネアさん、ヴィネちゃんありがとうね」
「お二人さんすまんのう」
レモティーを用意してくれた二人に感謝の言葉をかける。
「いえいえお気になさらずに」
「あたいはネア姐さんに言われた通りにしただけさ」
そして二人も椅子に腰掛ける。因みにこの椅子もヒノイの大木から俺が作っている。
「さてまずは……」
「この度は心配をお掛けしましたお義父様」
俺が話そうと思ったら急に母さんが話はじめたぞ?…………お義父様?
「お義父様……?はぁぁぁぁあ!?」
どういう事だ!?待て待て、落ち着け俺……スーハー……よし状況を整理しよう。まず病気の母さんを叔母さんに預けました、俺が失踪して心配かけました、ギルドでソルさんと戦いました、いつのまにか母さんはソルさんの屋敷にいました、ソルさんは母さんの為に手を尽くしてくれました、病気が治った母さんはソルさんにお礼をいいました……最後にお義父様と付けて……うん、わからぁぁぁん!
そういやネアとヴィネも驚いてるんじゃ....何二人して優しい眼差しを俺に向けてるの?さてはこの二人事前に母さんに聞いていたな!これは後でO・SHI・O・KIが必要だな....じゃ無くて……あーもう!こんなに混乱したのは裏切られた時以来だぞ...
えーと、これが事実だとしたらソルさんは俺のじいちゃんに...じいちゃんに...ん、おかしいな...確か...
「母さん?確認なんだけど、じいちゃんは俺が小さい頃に亡くなったんじゃなかった?」
「そうよ、父はあなたが二歳の頃に戦争で亡くなったわ。ヨルン、私がお義父様と呼んだこの方はね...」
ソルは手でシーナの言葉を遮り首を横に振った。
「シーナよ、ワシからヨルンに話す...そうじゃのワシの事を話す前に先にある男の真実の話をしよう」
多分この時俺は薄々感ずいていたのかも知れない...そうで有って欲しくないと心のどこかに思っていたんだと思う。
「昔この国スペル王国は隣国のリンド帝国と戦争しておった。最初は拮抗していたが徐々に押されはじめてしまったのじゃ、そして敗戦間近に陥った時、騎士団長をやっておったその男が国王に敗戦する前に一矢報いたいと願い出たのじゃ。最初は国王も悩んでいたそうじゃが、男の熱に負け1000程の部隊を預け男を送り出したそうじゃ。
誰もが無謀に思っていたのじゃが...何という事かその男は獅子奮迅に戦い、敗戦間近だった戦況を立て直しあまつさえ勝利まで導いたのじゃ。
男の戦争での活躍は瞬く間に国中に広がりいつしか男は英雄とさえ呼ばれるようになった。それから一年後リンド帝国を従属国にしていたスペル王国にリンド帝国の皇太子が招かれたのだ。
国王は例え従属国でも何かあれば他の国に付け込まれかねないと思ったのじゃろう、事もあろうにリンド帝国を敗戦に陥れた英雄を護衛に付けたのじゃ。
初めは我慢していたみたいなのじゃがそれも長くは続かず、皇太子は怒り狂い死んでやると一言残して森に駆け出して行ったそうじゃ。
男はすぐさま捜索隊を編成し森へと繰り出して行ったのじゃが...男はそこで目を疑う光景を見たそうじゃ。それは、地面が割れ皇太子を飲み込まんとしていた、いや食べようとしていたそうじゃ。
飲み込まれんとする皇太子に男は直ぐに駆け寄って手を掴み引き上げようとしたのだが、時すでに遅く掴んだのは皇太子がしていた王族の指輪だけだった。
男は直ぐにこの事を国王に報告し皇太子が飲み込まれた場所を捜索したのだが、それらしき痕跡が一切なかったそうじゃ。その事から男の証言は嘘でお前が殺したんだろ等を言われたそうだが、国王は男に全幅の信頼を置いていたのと、皇太子が勝手に森に入った事からお咎めが無かった筈だったのだ....あやつさえいなければ....
そやつはこれは国の一大事と国王は頭を抱えている時こう進言したそうだ『あの男を国に反旗を翻した者とし我が国を陥れる為に皇太子を殺した』とそして『我が国は何とか取り押さえたのだが時すでに遅く皇太子を魔の手からお救いする事が出来なかった』と国王は中々首を縦に振らなったのだが、そやつが大臣だった事とそれで全てが上手く行く事を考え渋々了承したそうじゃ。
そこからは早く、大臣が流したであろう噂で人々からは裏切り者のレッテル貼られ男は落胆し抵抗もせず捕まりおった。
しかも男を捕まえるだけでは終わらず、家族とその街の住人にまで反逆の罪を着せようとしていたのだ。だがこれを良しとしなかった街の領主は国王に説明を求めたのじゃが...返って来たのは『反逆していないというならば、明日行われるそなたの息子の処刑人をせよ』だった...
最愛の息子の家族と街の住人を人質に捕られ領主は迷いに迷い解決策を考えていたのだが……無情にも時間がそれを許さずその時が来てしまったのじゃ...領主は処刑台に立ち息子である男と顔を見合わせた...領主はこの時この男を助け本当に反旗を翻してやろうと心に決めたのだが...
その行動を止めたのは、皮肉にも息子である男の言葉だった。
『馬鹿な真似は止めてくれ...例え俺が生き残っても家族共々辛い道しか歩めない。なら俺は死んでもいい、だが妻と息子だけはどうか辛い道を歩まない様にしてやって欲しい...これは親父にしか頼めないんだ...頼む』と、その言葉を聞いた領主は全ての感情を押し殺し震える手を我慢しながら男の首を刎ねたのじゃ....」
ソルさん、いやソルじいちゃんは途中から手を握りしめそして最後は涙を流して話していた。
「もうわかっとると思うがその男こそヨルンの父親であるロルフじゃ。そして....首を..我が子の首を落とした領主がワシじゃよ...」
俺は聞いてる最中ずっと歯を食いしばり怒りを押し込めていた。握りしめていた手からは血が滴り落ち口の端からも血が流れ出ていた。
母さんはずっと首を下に伏せ、声を押し殺し泣いていた。ネアとヴィネはそんな母さんを両方で抱きしめ背中を摩っている。
話が終わり俺は真実を知る事ができスッと胸の中に詰まっていた物が落ちた気がしたのと、この国に対する怒りが沸くのがわかったがそんな事よりも父さんを誇りに思う気持ちの方が今は勝っていた。
「やっぱり父さんは英雄だったんだな...俺と母さんを守る為に凄いや...」
暫くの沈黙の後、ソルじいちゃんがテーブルに手を付き頭を下げた。
「どんな理由があろうともワシはヨルンの父親を奪った。本当にすまなかった...謝っても許せるものじゃないのは分かっておる。ワシを責めるならいくらでも責めてもいい、その資格がヨルンにはあるのじゃから...」
「ヨルン、お願いだからお義父様を責めないであげて...私達家族とこの街の人達が人質に取られていて仕方が無かったの。お義父様も我が子を……ロルフを手に掛け苦しんでいたの...それでも責めるならこの事を隠していた母さんも責めなさい」
あー俺は母さんやソルじいちゃんに何を言わせてるんだろうか?父さんの事で責める?誰を?俺に資格がある?何の?俺に母さんやソルじいちゃんを責める資格なんてこれっぽっちも無い。父さんの死んだ原因を調べようとせず、ただ恨み言を言って守られながらのうのうと生きてきたんだから。
「母さん、俺はソルじいちゃんを責めるなんてしない?ましてや母さんも責めない。それこそ死んだ父さんに笑われてしまう。本当に責めるべきはこの国なんだから....それにね、今日だけは父さんを誇りに思う事に浸らせて欲しい。だからソルじいちゃんももう謝らなくていいから」
「こんなワシをじいちゃんと呼んでくれるのかヨルンよ」
「ヨルンあなたは...ううん、大人に……なったのね」
「もう成人してるから大人だ母さん」
母さんは涙を流しながら微笑み、ソルじいちゃんは憑き物が落ちた様に優しい顔を俺に向けていた。
その後、時間が遅くなった事から今日はお開きにして明日同じ時間に話をする事になったのだった。
英雄でも噂で一発ですね(o・ω・o)




