牛乳パックの飛行機
課題「出会い」
タイトル「牛乳パックの飛行機」
木村達人
登場人物
徳治(24)
春美(24)
◯小学校の裏庭
スーツ姿の徳治が地面を見ながらウロウ
ロする。そこへ春美が来る。
春美「あの、何してるんですか?関係者以外
立ち入り禁止ですけど」
徳治「あ、すみません・・。勝手に入ってご
めんなさい。すぐに出ますんで」
春美「工事関係者の方なら、大丈夫です
が・・、もっとも私も関係者じゃないです
が」
徳治「そうですか、てっきりここの先生だと。
俺、ここの卒業生なんですよ」
春美「私もだよ。ここの学校はこの間、閉校になったからだーれもいないですよ」
徳治「え!?そうなんですか?そうかぁ、なくなっちゃったのかぁ・・」
春美「そうなんですよ。子どももほとんどい
なくなって、隣の小学校と合併することに
なってね・・、卒業生でしたら、何か証明
できるものがあれば入れると思いますよ。
例えば卒業証書とか・・」
徳治「困ったなぁ、今持ってないんですよ。
そうだ!ここの学校の人じゃないと知らな
い秘密は知ってますよ」
徳治は校舎の窓のサッシを叩き始める。
春美「あの」
徳治「このサッシを叩くと、スクリューロッ
クが外れるんだよ」
春美「あのさぁ」
徳治「おっかしいなぁ・・。昔はすぐ開いた
んだけど」
春美が隣の窓のサッシを叩く。
春美「そっちじゃないよ」
スクリューロックが外れて窓が開く。
徳治「あれ?そっちか・・」
二人とも窓から侵入する。
◯廊下
春美「ねぇ、いくら閉校してても校舎の中で
は靴を脱いでね」
徳治「あ、そっか・・。そうだったね」
二人とも両手に靴を持って廊下を歩く。
徳治「もっと長くて広いと思ってたけど、こ
んなに小さい学校だったんだ・・」
春美「ハハ、それはあなたが背が高いからだ
よ」
徳治「そっか、背が伸びたか・・。周りはも
っと大きい人が多かったからな」
春美「教室どこだった?」
徳治「えっと・・、思い出した!一番奥の教
室だよ!教室の後ろにも窓があるところ!」
徳治は廊下の奥まで走る。
春美「廊下を走っちゃ行けません!」
徳治「そうだった。忘れてた!あ!」
徳治は言われたそばから転ぶ。
徳治「イッテェ、この廊下滑りやすかったん
だ。あれ、教室に鍵がかかってる。前は
なかった気がするけど・・」
教室の扉には南京錠がかかっている。
徳治「さすがに入れないか・・」
春美はどこからか鍵束を取り出し南京錠
を外す。
徳治「あれ、鍵持ってるんですか?」
春美「え?あ、ちょっとそこに置いてあって
ね」
◯教室
教室の後ろの窓から陽の光が差し込む。
徳治「懐かしい・・。あ!教壇に彫った落書
きがまだ残ってる!ほら、ゴリポンって」
春美「ゴリポン先生のクラスだったの?」
徳治「うん。六年生のときね」
春美「私も六年のときゴリポンだったよ」
徳治「もしかして同級生?俺、西山、西山徳
治だよ!」
春美「私は小川春美。西山くんかぁ。わから
ないなぁ」
徳治「小川さん・・。十人しかいなかったか
ら、覚えてるはずだけど・・学年が違うの
かぁ。図書室行ってもいいかな?」
春美「いいよ」
◯図書室
徳治は一冊の本を探し出す。
徳治「これだ。『飛行士フレディ・レグラン
ド』ずっとタイトルが思い出せなくて・・」
春美「どんな本なの?」
徳治「飛行士が金のカモメ号って飛行機に乗
って旅をするんだけど、不時着して現地の
人に助けられて友達になるんだ」
春美「ふーん」
徳治「そのあと、今度は銀の白鳥号って飛行
機を作って旅に出るんだけど、今度は誰も
いない雪山に不時着してしまうんだ」
春美「そのあとどうなるの?」
徳治「どうしようもなく一人でずっと過ごし
ていると、最初に不時着した先の友達が金
のカモメ号を修理して助けに来てくれて終
わるんだ」
春美「飛行機が好きなんだね。ねぇ、ここに
昔の卒業アルバムがあるから見てみない?」
徳治「・・・」
春美「どうしたの?」
徳治「卒業アルバムはいいよ・・」
春美「・・なんで?」
徳治「俺、卒業アルバムに載ってないんだ」
春美「え?」
徳治「六年間、ここの小学校にいたけど・・
二学期の終わりに引越したんだ・・。卒業
目前だったのに、父親の仕事でアメリカに
行ったんだ・・」
春美「そうだったの」
徳治「こんな田舎の小学校にいたのに、いき
なり大都会の学校に転校でさ、言葉も文化
も全然違くて未だに一人ぼっちでさ」
春美「そんなことないでしょ。こうして戻っ
て来たんだから、また友達に会えるよ」
徳治「いや・・、今もアメリカに住んでて、
昨日は日本の工場の視察研修で、明日の朝、
またアメリカに帰るんだ。今日一日だけ空
いて来てみたんだ。それに今思えば、みん
な友達だったけど、連絡先も知らないしさ、
誰も俺なんか覚えていないよ」
春美「そうか、でもそんなことないと思うよ」
徳治「アメリカに行けるって、最初は嬉しか
ったけど、六年もここにいたのに卒業証書
もらえなかった。すごく悔しくてね・・。
戻って来てみたけど、やっぱり誰もいない」
春美「せっかく来たのにそこまで落ち込まな
いでよ。私なんかね。ここの学校、六年の
三学期から転校だから、たった三ヶ月しか
いなかったよ。最初は寂しかったけど、で
もここの学校で良かったと思ってるよ」
徳治「そうなんだ・・。変なこと言ってごめ
ん・・」
春美「あなたは大変だったと思うけど、楽し
かった思い出があればそれでいいんじゃな
い?そうだ、私が載ってる卒業アルバム見
る?」
春美は本棚か卒業アルバムを取り出す。
徳治「あれ?これ、俺がいた年だ・・」
春美「え?二学期の終わりに引っ越したって
ことはすれ違い?」
徳治「ゴリポンのクラスで、安田と浜と長谷
川と後藤と斎藤」
春美「青木、内田と中山でえっと、あと一
人・・」
徳治「中山翔平、同じ名前が二人いたよ!ナ
カショウとナカヤン!」
春美「そうそう!」
徳治「タイミングがあったら同じクラスだっ
たんだね・・」
春美「こんなことあるんだね。じゃ、もしか
して、外で探してたのはタイムカプセル?」
徳治「そうだよ!タイムカプセルだよ。引っ
越す前に中身だけ作ったんだけどいつ開け
るかは知らなくてね。まだあったらちょっ
とだけ見て、また戻そうと・・」
春美「すっかり忘れてた!タイムカプセル
ね!卒業式の時に埋めてた!」
徳治「いつ開けるか覚えているかい?」
春美「ちょっと待って卒業アルバムに書いて
あるはずだよ」
二人で卒業アルバムを見る。
徳治「これが卒業アルバムか・・。あ、俺、
写ってるよ!」
徳治は授業参観の遠足の写真を指差す。
春美「あ、西山くんってこんな小さかったん
だね。紙飛行機持ってる。やっぱり飛行機
が好きなんだね」
徳治「ハハ、この最後の集合写真のゴリポン
の隣にいるのが君かい?」
春美「そう、転校したばっかりで人見知りだ
ったから、いつもゴリポン先生が相手して
くれてね。ゴリポン先生のおかげで卒業ま
でにみんなと仲良くなれたんだ」
徳治「この持ってる飛行機は牛乳パックで出
来てるんだ。俺、運動とか勉強が苦手でさ、
得意なことがなくて、夏休みの自由研究も
困っててね。ゴリポンに相談したら、好き
なものはなんだ?って聞かれて、飛行機っ
て答えたんだ。そしたらこの飛行機の作り
方を教えてくれたんだ」
春美「へぇー、ちゃんと飛ぶの?」
徳治「ああ、この学校の敷地を一周できるく
らいよく飛ぶんだ。あ、タイムカプセルの
中に入ってると思うよ!」
春美「そうだった!タイムカプセル・・。あ、
去年になってるから、やっぱり忘れられて
る!」
徳治「すぐ掘りに行こう!場所は裏庭?」
春美「そう!さっきのところのどこかだった
はず」
◯小学校の裏庭
二人共、移植ゴテを使って草むらを闇雲
に掘る。
徳治「そういえば、小川さんって・・」
春美「私ね、ここの教員やってるの。来月か
ら合併する学校だけどね」
徳治「さっきは違うって言ってたけど」
春美「閉校で誰もいないって言ったけど、先
生じゃないとは言ってないよ。ゴリポン先
生、転校生の私に優しくてね。教師に憧れ
て今の仕事なの。西山くんは?」
徳治「ゴリポンは顔は怖かったけど優しかっ
たなぁ。ゴリポン元気かなぁ。俺はアメリ
カの航空機の部品メーカーで働いてるよ」
春美「ホントに飛行機が好きなんだね・・。
ゴリポン先生ね・・、私がここに赴任が決
まった矢先にね、病気で亡くなっの・・」
徳治「そっか・・、そうだったんだ・・」
春美「ゴリポン先生、元気だったらタイムカ
プセルを忘れるなんてなかっただろうね。
みんなショックだったよ」
二人ともそのまま掘り続ける。
徳治「何か硬い物に当たった!」
春美「どれどれ!?」
地中から泥まみれのブルボンのクッキー
缶が出てくる。
春美「あ!これだよ!」
徳治「やったー!!」
泥まみれの手を気にせず缶を開ける。
缶の中にはキーホルダーやカードゲーム
やボールペン、年度細工等、思い思いの品々が入っている。
その中から徳治はシワシワになった牛乳パックの飛行機を取り出す。
春美「これじゃ、飛べなさそうだね・・・」
徳治「ねぇ!工作道具とか画用紙とかない?」
春美「それならさっきの教室の教卓にあるけど・・・」
徳治「ありがとう!」
徳治は走って教室に向かう。
○教室
徳治は学習机の上で、画用紙とノリを使って飛行機を直す。
赤いマジックで翼に「ゴリポン号」と書く。
◯小学校の裏庭
春美は缶の中から使いかけの白いチョークを取り出し、しばらく見つめる。
ポケットからハンカチを出し、丁寧にチョークを包む。
他の缶の中身を一つ一つ確かめると、缶のそこに一枚の紙があることに気付く。
徳治が戻ってくる。
徳治「ごめん!おまたせ!飛行機直ったよ!」
春美「さすが!すごいじゃない!」
徳治「伊達に航空機メーカーで働いてないよ」
春美「ねぇ、タイムカプセルにこんなものがあったよ」
◯校庭
春美は徳治に向かって、紙に書かれていることを読み上げる。
春美「西山徳治くん、あなたはアメリカに転
校してしまいましたが、六年ゴリポン組の
お友達であること、卒業生であることを認
めます。西山くんが付けてくれた渾名はとても気に入っています。
私が教えた飛行機の作り方を一生懸命研究し、誰にも負けない飛行機を作ってくれてとてもうれしいです。」
春美、卒業証書を徳治に手渡す。
徳治はゴリポン号を飛ばす。
ゴリポン号はぐんぐん上昇し、夕日の中を旋回する。
春美はゴリポン号を眺めながらハンカチに包まれたチョークを握り締める。