実の父親と育ての父親
「何で魔女と契約したの?」
「だって、これを持って来たらお母さんに合わせてくれるって!」
ーーバシッ!
「馬鹿か、殺されるだけだよ」
バムはポカンとして少女を叩いたレゲインを見ていた。
ゲ、ゲレインが女の子を叩いた!? まず人を叩く事を滅多にしないのに、叱ってるのかな?
「えっでも優しそうな人だったし」
「そいつがそんな訳あるか」
「そんな……私、死にたくない、嫌だよ」
少女は力なく座り込み泣き出してしまった。
「ゲレイン、この子どうするの?」
「ほっとけ、こいつの側に居ない方がいい。行こう」
レゲインはロケットをポケットにしまい歩き出した。バムはその少女を可哀想に思い動かない。
「この子助けてあげようよ、契約物壊せばいいんでしょ?」
「簡単に言ってくれるな、無理に決まってるだろ三級魔女だぞ? 命知らずにもほどがある」
「何で? 可哀想じゃん!」
「んじゃあ勝手にしろ、俺は助けねぇよ。そいつに命かける意味ねぇし」
「最低! いいよ! 私一人で何とかするもん!」
レゲインは振り向く事なく先に歩いていく。
馬鹿かあいつ……理不尽な事してるって思わねぇのかよ?
主人公達は基本人を助ける事が多いけど、見捨ててる数の方が多いんだよ。見捨てられた側になってみろよ。初めから助けない方が妬まれない。それに……あの魔女は。
行儀よく座っているカクランとルウブの所に人が入ってきた。
少しカール掛かった銀髪で銀縁眼鏡を掛け頭に白い狐耳のカチューシャを付け、スーツを着た男性だ。二人のよく見知った男は向かいのソファーに座る。
「二人共、何ゾンビでも目の前に現れたみたいに俯いて怯えてるんだ?」
ルウブとカクランは声を合わせて答える。
「べ、別に……」
「……カクラン、ルウブ、父親を見て怯えるって私は二人に虐待でもしたか?」
カクランは父親と目を合わせる。
こ、この人は僕の父親でルウブの育ての父親、ラクカ・アニール。何だけど、ちょっと面倒な所があって五十年過ぎた所から僕とルウブの天敵……なんだよな?
「それで、父さん、何の用? また写真とか……?」
「それもあるが、実は最近魔女関係の失踪事件が多くてな」
ルウブは一瞬驚いた表情を見せた。多分国からも一切情報が遮断されていたのだろう。
「まぁ、ルウブは大丈夫だろうけど一応忠告をしに来たんだよ、被害者に共通していた事」
「被害者? オレらにも当てはまるって事か?」
ラクカは頷いて話を続ける。
「マールス鉄でできた物を持ってたんだ」
「それって、僕らが母さんから貰ったペンダントとピアスの鉄……」
「そうだな、まぁ重要な話はそれぐらいだよ」
話の終了を聞いてカクランとルウブは安堵のため息をついたが、終わってはいなかった。
「それで、もう一つなんだけどな。今回はちゃんと好みそうな人探してきたぞ」
ルウブとカクランはやっぱりかと呆れた目でラクカを見る。
恒例のお見合い写真だぞ……カクラン囮にして逃げるか?
ルウブの奴、絶対逃がさない。
ラクカが余所見をした時に立ち上がったルウブのマフラーをカクランが解けないよう後ろから掴んだ。
「うがっ」
首を締め付けられ声にならない声を出し逃れようとルウブはもがく。
「それで、ルウブはもし死んだら跡取りとかどうなるとか考えてないのか?」
「死んだらって、子に向かって言う言葉かよ……俺は絶対嫌だ」
「何で二人とも結婚を拒否するんだ?」
カクランとルウブはお互い目を合わせるとラクカの方を見る。
「僕は、結婚だけ目当ての人とはしたくない」
「俺は、そもそも女と関わりたくねぇんだよ」
その言葉が聞こえていたのかは分からないがラクカは話をしばらく続けて二人を説得しようと頑張った。




