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ひったくり少女

「あった! これだ……ぼくの大切な」

骨董屋に並んでいた蓋の閉じたロケットを大切そうに手に持った。

「それって何?」

「別に」

ディネはロケットを持って会計をしにレジまで行った。美来はその聞きなれたフレーズに首をかしげる。

レゲインも何かあると“別に”っていうよ、二人して口癖なのかな?

「あっ!!」

そんな事を考えているとディネが叫んだ。美来が振り向くと何も持っていないディネが居て少女が美来にぶつかって走り去った。ディネはその少女を追って走っていく。美来も仕方なくついて行くしかなかった。

少女を捕まえかけたディネは回避されて頭を踏み台にされ逃げられた事がよほどショックだったのか座り込んでいた。

「何で、ぼくにこんな失態はあり得なかった、もうダメだ」

「ディネ? 取り返せなかったの? ここって空の上だし直ぐ見つかるよ、行こ」

美来がディネの腕を引いて立たせようとしたが、引いた腕は美来の手から離れ力なく体の横に戻る。

「今ので逃げられたんだ、無理に決まってる」

「何で無理なの?」

「そういう世界だから、一度ダメならもうダメなんだ、死んだら終わるのと同じで」

美来はいきなり哲学的な事を語りだしたディネを面倒くさそうに見る。

きっとディネにはそういう風に見えてるんだ、私には一度目でダメだったって記憶は残らないから分からないけど。

「じゃあ、私が取ってくるよ」

「えっ? 何で?」

「中身気になる、見せてくれるなら取ってくるよ」

ディネはしばらく黙っていたが立ち上がった。

「主人公は人助けするんじゃ無いのか?」

「知らないよ? 何で? 私、ディネの事助ける理由無いし、助けないよ?」

「そうか……この捻くれた世界に表向きに人助けをしようとする主人公なんていないよね」

美来は無理やりディネを引っ張って少女を追いかける。

何言ってるんだろ? 別にロケット無くたってディネは何にもならないんだし助けるも何も無いのに。それに今はこの人に何の思い入れも無いし。



バムとレゲインは町中を走り回って息切れをしていた。

「はぁ、はぁ、どこ行ったんだよ」

「け、結構走ったよね……この姿じゃ無理かなぁ?」

「じゃあパンダにでもなればいいじゃねぇか……!」

バムが一息つき歩こうとするとレゲインがついてこない。レゲインは周りを見渡して何かを発見したようで建物の影を見て固まっていた。

「ゲレイン? どうしたの?」

「! ……別に、行くぞ」

レゲインはすたすたと歩き出しバムの横を通り過ぎる。

「ちょっと、嘘つき! 別にって言う時は何かあったんでしょ?」

横に来たバムを横目で見る。

ーードンッ!

一瞬余所見をしたレゲインに少女がぶつかった。

「す、すみません」

レゲインと目が合い睨まれていたのか少女は目をそらして誤って走り去ろうとした。

そこをバムが腕を掴み止めた。

「そんな奴ほっとけよ」

「ゲレイン、この子から美来ちゃんの匂いするよ?」

お前、人の姿でもその距離なら匂い分かるんだな……。

「は、離してよ! あっ!」

握っていたロケットは腕を強く握られて力が入らなくなった手から落ちた。レゲインは少女が必死に拾おうとしているロケットを拾い上げる。

「何それ?」

「ただのロケットだろ」

蓋を開けて中身を見るが女性の写真が入っているだけで特に変わったところは無い。その女性も少女と一切似てないので他人なのかもしれないが一応聞く。

「お前の母親か?」

「知らない、離してよ! ……! あなた達どうやってここに来たの? ここは勝手に下の人が入っていいところじゃ無いんだから!」

「下から来た魔女と契約した奴がとやかく言えるか」

バムは何のことか分からずレゲインの目を見て首を傾げた。レゲインは首元を見てみろと自分の首元を指差して教える。

バムは少女の首元を確認する。そこには円に囲まれたU字型磁石の模様が付いていた。

「何これ?」

「知らねえのかよ、魔女の契約印。お前だって契約したことあるんだろ?」

「知らなかった」

「魔女によって模様が違うんだ、って魔女以外はこれを知らねえ奴が多いんだけどな」

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