来た理由
「さてと、船苦手なんだよな、っても飛んで行くわけにもいかねぇか」
銀髪で少し長い髪を下の方で束ねだらっとスーツを着た男は気が重そうにアタッシュケースを肩に引っ掛けるように持ち船に乗る。
「よし、我慢するのは一日だ。この世界にも飛行機があればこんな無茶しなくて済むのに」
「えー!? 美来ちゃんとゲレイン、カクラン先生に指導受けてたの!?」
食堂でバムが驚いて大きな声でそう言う。
「うるせぇな……ハム」
「バム声大きいよ」
美来とレゲインはバムの声の大きさに耳を塞ぐ。
「だって、私がスペルに構ってる間消えたんだもん」
レゲインは静かに本を読みながら食事をする。
「ごめんって、なんか居ずらかったんだから、それにレゲインがそうしたほうがいいって」
その美来の言葉を聞いてレゲインは顔を上げた。
「は!? まてよ美来、全部俺のせいにする気かよ!?」
レゲインは声は大きいが特に何とも思っていないようだった。
「だいたい美来も戦えないと俺とハムも困るだろ」
わざとハムを強調して言った。自分の名前を間違えている腹癒せなのだろう。
「ハムじゃない! バムだよ、てか食事中ぐらいフード外しなよ!」
レゲインは見事にその手のうちに入ったバムのことは無視してまた本に目を向ける。
「バムってば、自分も間違えてるんだから人の事言えないよ。それに顔見られたくないって言ってるんだから」
美来はフードを外しにかかろうとしているのか叩きにかかろうとしているのか分からないバムをおさえる。
「早く食わないと授業に遅れるぞ?」
何故かカクランが学食を持ってレゲインの横に座った。レゲインはカクランと反対側の足を椅子の上に上げ直した。
「お前も人の事言えねぇじゃん。今から食うくせに」
「レゲイン行儀悪いね足、椅子から下ろしなよ」
やっぱりカクランは朝から明るい。レゲインは少しイラっとしながら足を下ろす。
「もうすぐ美来ちゃんの武器届くからね」
「は、はぁ?」
カクランの方がやけにワクワクしている。
「恋人でも来るのかな?」
バムが唐突にそう聞いてきた。
「えっそうなの?」
美来は今までの記憶が曖昧なのでバムの話を本気にしてしまった。
「はい? 何言ってんだ? 彼女なんていないけど? 僕は今の今までフリーだよ」
自慢げにカクランはそう言った。特に自慢でもないと思う。寧ろ一般的に恥だと思われるはずだ。
「ンフフッだから、美来ちゃんいつでも僕のところに来てもいいんだよ?
ニコニコしながら机に両肘をつき美来に言った。
「いいよ遠慮します」
美来はキッパリとそう無表情で答えた。
「はぁ!? オレは、頼まれて、ここにいるんだよ! なんで入れねぇんだ!」
銀髪の男が監視員に文句を言っていた。
「で、ですが校長からは来訪者の連絡は一切ありません……」
授業中のカクランは時計を見てふと思い出す。
「あ、校長に言うの忘れた、まぁ大丈夫だろ」
「たく、通せ!」
するとそこへ校長が来た。
「どうしたんだい? あー、予期せぬ訪問者か、ん? 特に服装以外は怪しそうでもないし、通して良いぞ」
「分かりましたどうぞ」
融通のきく校長のおかげで男はなんとか校内に入ることができた。
「はぁ、はぁ、もう無理」
走り終わって座り込んだ美来をバムが見下ろす。
「ヘヘヘッ美来ちゃんお疲れだね、私も走った方がいいのかなぁ〜?」
「え? バムは体力レゲインよりあるんじゃないの?」
美来がそう言うと走っているレゲインをバムは見る。
「うん! そうだね私の方が強いよ」
「あんまり過信しない事だよ、バム」
カクランが水を差すようにそう言った。
レゲインが走り終わりまた倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……マジで、死ぬ、お前も走れよ」
「いいよ、明日から一緒に走ってあげても」
突然明るくそう答えたカクランを銀髪の誰かが走ってきてアタッシュケースで殴り飛ばした。
「!? うげっ……いっケホッケホッ」
「なんで連絡つけねぇんだよ!? おかげで、足止めくらっただろ! カク!」
その光景を見て三人は呆然としている。男はカクランの胸ぐらを掴み揺さぶりながら話をする。
「聞いてんのかよ?」
「ううっ……悪かったって、うっかり忘れちゃってさアハハッ」
カクランは開き直っていた。
「俺は、忙しいんだ知ってんだろ」
ずっとカクランは笑いながら怒鳴られている。
「誰あれ? 白髪だな」
レゲインはじっと白髪の男を見ていた。
「仲よさそうだね、カクラン殴られてたけど大丈夫なのかな?」
美来がそう言うとレゲインが美来を呆れた目で見る。
「大丈夫だろ、見た感じから」
すると白髪の男はカクランを離し美来達を見た。
「で、誰のための武器なんだ? 軽量を頼まれたからコウモリ君は違うな」
カクランは起き上がり美来の横に立ち肩に手を置いた。美来はいきなりの事でビクッと小さく飛び跳ねた。
「この子だよ。あ、この白髪は、俺の友達のテンスラだガラ悪いけどな」
「白髪じゃねぇ、銀髪だ! ほら、頼まれたもの作ってきたぞ」
テンスラはそう言ってかがみケースを開けた。
「おー、流石、仕事が早いなぁ」
カクランは武器を見て感心している。
「頼まれた通り、チェンジとベニール機能をつけたけど大丈夫なのか?」
テンスラは心配そうに美来を見てカクランを見る。
「あはは、大丈夫大丈夫、これでも想像源は多いからね」
「えっと美来、このナイフを手に持つのをイメージしてみろ」
テンスラはナイフを持ち美来を見て言った。美来は首を傾げながらも手で持っているのをイメージした。するとケースの中のナイフが消え手元に現れた。
「わっ!? ワープした」
今度は手元から消えテンスラの手元に行く。
「疲れてねぇか?」
何故そんな事を聞くのかと思いつつ美来は答える。
「はい、大丈夫です」
「ふーん、じゃ、後はこの石に血をかけるだけなんだけど」
そう言って美来を見る。
「えっ? 血を? なんで?」
「何でってそりゃあ、このままじゃ誰の手にでも渡るから敵に渡ったら困るだろ?」
「手元に寄せる機能は、想像石があるからなんだよ。想像石は、石自体の想像源じゃなくて使ってる人の想像源を使うから疲れてないか聞いたんだ。それに、持ち主を主人の血を吸わせる事で判断するんだ」
カクランが疑問に思っていた事を説明してくれた。
レゲインは美来の横に出てきて美来に教えた。
「こないだ言ってたのそのまま言ってるだけだけどな、美来、授業中寝てねぇか?」
美来は実際寝ていることも時々あったが大半は忘れてしまっている。
テンスラは立ち上がり美来の前に立つ。
「ちょっとじっとしてろよ」
美来の髪をかき分け耳たぶに少し切れ目を入れそこから血をとる。そしてケースの方に戻り石に血を付けた。
美来は変な感覚のする耳を触る。
「指に切れ目なんて入れたくねぇだろ痛いし。よし、できたぜ」
そう言うと二丁の銃とナイフが収められたベルトを美来に渡した。
「このナイフは刃先を好きなように変形できるんだ。それと銃は弾丸を変える事ができる。例えば、相手に鎖を撃ちこだり、遠距離から電撃を浴びせられる、もちろん普通の銃弾も撃てるからな。ナイフは剣にしたり色々とな」
そうテンスラが武器の説明をする。美来は興味津々にナイフと銃を見る。
「んじゃ、またメンテナンスとか必要になったらこの番号に電話しろよ?」
テンスラは紙を渡しそう行こうとするとカクランが引き止めた。
「テンスラ、僕の槍のメンテナンスよろしく頼むよ」
カクランがテンスラに頼むとテンスラは面倒くさそうにカクランを見た。
「あ? なんだよ……お前、あれ以来使わねぇだろ? やるだけ無駄じゃねぇの?」
テンスラにそう言われカクランは一瞬表情が曇った。
「えっと、今回の武器代にメンテナンス代合わせて二百五十万だな」
そう言ってカクランから持ち手のようなものを受け取る
「二百五十万っ!? えっ、カクラン私の武器って」
美来はなんだか心配になりカクランに言うとテンスラが当たり前のように言った。
「ん? 武器はカクラン持ちだぞ? それに美来のメンテナンスは無料だから心配はしなくていいよ。俺が生きてる限り呼ばれたらすぐ行くよ」
テンスラはそう言ってその場から立ち去っ。た
「二百五万か。てか、あいつら俺をいじめてるよな」
カクランは消え入りそうな声でそう呟いていた。
「で、美来それってどう使うんだよ? とりあえず、あの木うってみろよ」
レゲインは興味ありげに聞く。美来は言われて銃を構えて恐る恐る撃ってみるが。
ーーカチッ
「あれ? なんで出ないの?」
「貸してみなよ」
するとカクランは美来から銃を受け取り構え
引き金を引いた。
ーードンッ
木に響く音がなり木に止まっていた鳥が飛び立った。
「あ、えっ? どうやって撃ったの!?」
カクランは銃を美来に返して言う。
「イメージだよ、撃った時の瞬間とかだけじゃなく弾丸の方もイメージするんだよ」
美来は言われた通りに撃ってみる。
ーーパンッ!
「撃てた……」
「アハハッ練習すれば自然に撃てるようになるよ、訓練所に射撃場もあるしね」
カクランは笑ながら自然な流れで美来の頭を撫でた。
「わっ!?」
美来はいきなりの事に驚いて身を引く。
「あ、ごめんごめん、つい癖で」
カクランは女の子っぽい仕草で謝る。
人の頭撫でるのが癖ってどうなってるのこ? の人。
美来は心の中で引いていた。
その夜カクランが自分の部屋に帰宅し電気をつけた。
「はぁ、疲れた……」
「おかえり、カク」
「うおっ!?」
電気に照らされたテンスラがボソッとあいさつをした。
「おかえり、じゃねぇよ! なんで当たり前のようにオレのベット使ってんだ! その前になんでここにいるんだよ?」
「ん? 泊まる所なかったから」
「どうすればちゃんと的に当たるんだろ?」
美来が女子寮のロビーのソファのバムの隣でそう呟いていた。
「的には当たってるじゃん、数日間練習して的の中心近くに当たるようになったじゃんかぁ〜。だから、的にはあたってるよ?」
バムはカステラを食べながら独り言にも近い美来の相談にそう答えた。
「バム、私寝るね?」
「あ、うん、おやすみ美来ちゃん」
美来はバムに言って部屋に向かう。部屋の前に立つと、ガタッ!
「ひっ……きゃっ!?」
上から蛇のおもちゃが大量に落ちてきた。初めはザラザラとした肌触りと硬く少しずっしりとした感じから本物かと思い飛び跳ねてしまった。
「なんだおもちゃか、びっくりした……」
引っかかったおもちゃを払いのけ片付けること無く部屋に入っていった。美来がやったのではないのだから片付ける義務はない。
陰から見ていた女の子は膝をついた。
「な、なんで平気なの! 蛇のおもちゃ怖いじゃん……おかしいわよ! 普通なら泣き叫ぶはずじゃん」
すると取り巻きのように隣にいた子が疑問に答える。
「多分ソテだけだと思いますよ? 無駄になりましたし片付けましょう」
うさぎの耳のついた帽子を被ったソテと呼ばれた女の子は蛇のおもちゃを見て壁の角を握りしめる。
「うっ、あんな恐ろしいもの私が触れるはずないじゃないの。ほらクロ、片ずけなさい」
偉そうに取り巻きの子に指示をした。
「仕方ないですね、本名で呼ばない分覚悟はしてくださいね」
この後片付けたおもちゃの一つを持って追いかけられたのは言うまでもない。
美来はグループルームの机で頬杖をつきながら昨晩のいたずらの話をバムとレゲインにしていた。何かを書いたノートを見ながら。
「でね、放っておいたんだけど、朝見たら何も無かったんだよ」
「おもちゃ、なんでそんな物仕掛けたんだろうね? ゲレイン」
レゲインは依頼などの資料を見ながらペンをはしらせる。
「いじめたつもりだろ? はぁ、お前らな、手を動かせよ。この事務職を俺一人にやらせるなよな」
レゲインはそう言って机に伏せているバムにペンを投げつけた。
「ぎゃっ! 痛い、何すんのゲレイン!」
バムはそばに立ててあるペンをレゲインに投げつけ始めた。
「紙に書けよ……」
レゲインは本でペンを防いでいる。
「でも、なんで事務職までやるの?」
「もし、警備官の職につけなくても事務職できるなー他の場所で」
美来の素朴な疑問に棒読みでレゲインは答えた。それより何本ペンを持っているのかバムはまだ投げつけている。
「そのためなの!?」
「いや、俺知らねぇ何となくで答えただけ、美来、これ持ってって」
美来が納得するとレゲインは書き終えたものを美来にわたす。
「え、私が?」
そう聞くとただ頷いた。
「ううっ、何時間かかっても届けてきます」
美来はトボトボと出て行った。
「美来ちゃん犬じゃないんだからぁ〜」
バムはまだペンをレゲインに投げつけていた。
長くて分かれ道の多い廊下を美来はトボトボと歩いていたすると、
ーードンッ!
「きゃっ」
美来は人にぶつかってしまい紙をばらまいてしまった。
「あぁ、仕事が増えた」
「あっ、ごめんね、美来さん。ぶつかっちゃって」
美来が拾おうとかがんだ時ぶつかってきたうさ耳の帽子の女の子が謝りながら紙を拾う。
「はい、次からは気をつけるねおチビさん」
嫌味のようにそう言って渡してきた。
「え……?」
おチビさん? 私のこと? 確かにバムとかあなたより背低いけどそこまでじゃないよね?
「えっと、ありがとう、誰だっけ?」
「ソテだよ、ソテーじゃないからね。私はこれで、また明日ね」
ソテは答えて手を軽く振って去って行った。
美来は職員室になんとかたどり着き資料を渡しグループルームに向かった。
「遅えな、三時間かけて届けるって……まぁ、これでしばらく回ってこねぇしいいけど」
次の日の放課後、美来達三人はいつものようにグループルームでダラダラしていると扉が勢いよく開く。それと同時にレゲインは読んでいた本を落としフードを被った。
「これはどういうことかね!」
ーードンッ!
昨日持って行った紙を男が美来の前に突きつける。ついでに机に手をつく。
「な、何がですか?」
「まとめたのではないのかね! 二、三ページ抜けているのが完璧とでも?」
男は腕を組んでそう言った。ご立腹のようだ。レゲインは男から紙を取り確認する。
「あ、本当だ」
「全く、これだから人間は。はぁ……校長にやめたほうが良いと言っておいたのにこんな者をまた入学させて、二年前のようなことが起きたらどうしてくれるのかね!」
男は美来の全く知らないことを美来に怒鳴りつけていた。
「教頭、これ書いたの俺だよ」
レゲインが紙を置きそう言うと男はレゲインの前に行く。
「あ、この人教頭だったんだ」
バムはボソッと怒りを買いそうなことを言った。聞こえていたら目の敵にされていただろう。
「なに! じゃあ君が間違えたのかね? 目上の人の前でぐらいフードを取ったらどうだね?」
そう言ってレゲインのフードに手をつけるとレゲインに手を払われ顔をしかめる。
「俺は全部書いて美来に提出させたよ」
何食わぬ顔でレゲインは美来を指差す。
「はっ!?」
美来はレゲインが一瞬自分をかばってくれたと思ったのを後悔した。
「分かっているのかね? これがもし重要な資料だったら大問題だぞ! 付いて来い」
教頭は美来を連れてどこかへ行った。
レゲインは座ってフードをはずしゲームをやり始める。
「はぁ、あの校長若い感じだったのにあんな陰湿な感じだと残念」
バムがつまらなさそうにそう言うと方を落とす。レゲインがゲームをやりながら訂正する。
「校長じゃなくて教頭な、それに美来の方を心配しろよ」
「ゲレインに言われたくない、自分の点上げて、美来を落としたじゃん」
レゲインはゲーム機をしまい立ち上がりフードを被る。
「紙探せばいいんだろ? 行くぞ」
「えっ、ま、待ってよゲレイン」
バムとレゲインは足元を見ながら校舎内を歩き回る。
「ねぇ、どこ行くの?」
「紙探してんだよ、昨日美来が人とぶつかったっつってたろ?」
レゲインがそう言うとバムは考え込む。
「美来ちゃん、紙こぼしたって言ってたね」
「いや、違えよ!? 紙ばらまいたって言ってたんだよ、確か拾ってもらって言ってたな」
レゲインは、昨日聞いたことを話した
「はぁ、美来ちゃん大丈夫かな?」
バムが周りを気にしながらある事を思い出した。
「そう言えばさ、こないだ医療館に行ったんだけど、診察記録に美来ちゃんの名前あって肩と足の擦り傷ってあったけどなにがあったの?」
レゲインはため息をつき呆れたように答える。
「保健室だ医療館って言ったらあいつ怒るぞ。それと切り傷な。魔女に襲われたんだよ、お前がスペルとイチャついてるから」
「イチャついてないよ! からかわないでよね。って魔女にやられたの!?」
バムはようやく気がつき驚いていた。
「そうだよ、お前がついてねぇから面倒くさい事になるところだったよ」
レゲインは軽くバムを責めていた。
「ゲレインこそどっかに行っちゃったくせに!」
バムが言い返すとレゲインも言い返す。
「お前がイチャついてるから俺もいずらくなったんだよ!」
二人の口喧嘩が始まった。