美来が解放された理由
「れ、レゲイン……後ろ」
美来は抑えつけられながらもルウブとメランの方に気を取られているレゲインの後ろに魔女が立ったのを伝えようとした。
レゲインが後ろを向いた瞬間、バムはレゲインを蹴り飛ばし魔女との戦闘に入った。
カメラを取り出し魔女に照準を合わせてシャッターを切った。だが写真の中には魔女ではなく黒い立方体が入っていた。
「残念ね、そう、粉をそれぞれ離しておけばいいのね……」
「ーー!?」
突然バムの周りを砂鉄がドーム状に覆った。
いくらシャッターを切っても粉が取れるだけだ。
「そんな……!! ぐぅっ……」
足元が動いたのに気がついた途端現れた黒い刃に斬りつけられた。
「バム!」
砂鉄が消えた後の状態を見たレゲインは驚愕していた。バムは致命傷は避けたものの深い傷を負って倒れてしまっていた。
「そんな……っ」
魔女を見て身動きが取れない。やっとの事で震えた声が出た。
「母さん、やめて、お願いだよ」
「何をかしら? レゲイン……」
レゲインは近づいてくる母親から逃げ出すことすらできなかった。ただ恐怖に怯えた目で立ち尽くしていることしか。
腹部に鈍い痛みを感じた、意識が朦朧としているバムや美来が呼びかけているがガラスの向こう側で大声を出しているようにしか聞こえない。
「ゲホッ……か、母さんっ」
魔女はそのままレゲインから離れた場所に行く。
レゲインは膝をつき自分に刺さっているナイフを見て気がついた。そのナイフには術式と魔力が込められていることに。そのまま倒れこみ痛みをこらえながらも体を動かそうとしたが力が入らない。
意識が遠のき始めた頃レゲインを中心にして紫色の魔法陣が展開された。それは悪魔を憑依させるためのものだ。
レゲインは新たに襲ってきた圧力と痛みに意識が戻り呻き出した。
「ぐっ……や、めろ……ぅづ、入ってくるなあぁ! ぐはっ! あっ……」
口から血が吐き出される腹部からも血が流れ出ていた。脳内に異物が入り込む感覚に苦しむ。
「我に宿る霊力を持って悪しきモノ全ての目を逸らせ、霊防結界」
そう聞こえたと同時にレゲインを半透明の結界が覆った。その瞬間にレゲインは圧力や異物の感覚が無くなり力が抜け倒れこんだ。
美来達がレゲインの近くに目をやった。そこには赤い紐の付いた槍を片手に持ったカクランが立っていた。
「カクランっ!? なんで……確かあなたは」
「リガーティオに捕まってた、ね。おかげであの時のことを思い出せたよ。ヘルバ、確か君は五級魔女だったよな?」
カクランはスタスタとヘルバの方へ歩き出す。ヘルバはそばの木を動かし枝をカクランの方に突き刺そうとした。
カクランは走り出しその枝を槍で切り落とし防いでいる。あっという間にヘルバから五メートル内に入り込んだ。ヘルバは更にカクランの頭を狙い枝を伸ばした。
カクランは槍を両手で持ち替え柄を枝に沿って滑らせた。そのままヘルバを槍の柄で殴り飛ばす。
「きゃっ!?」
次にカクランの方を見たときには首筋に槍の穂を突きつけられていた。
「五級の魔女ぐらい僕でも殺れる、今すぐ美来を解放して逃げるか、僕に殺されるかどっちがいい?」
ヘルバは悔しそうにすると木を全て元に戻し姿を消した。
美来は木の枝から解放されるとバムに駆け寄る。
「くそっ……」
メランはルウブの方へと近づいていく。
ルウブに触れようとした瞬間メランは身を引いた。目の前をカクランの槍の穂が通ったからだ。
「カクラン!? なんで、リガーティオが抑えていたはずじゃねぇのかよ。お前……」
メランはそこから笑い出した。
「何だよ、馬鹿みてぇな奴、さっきまでずっと怖がってたくせによ」
カクランはそこまで聞いて今のメランの口調の人物が頭に浮かんで驚いた目でメランを見た。




