教える理由
レゲイン、バム、美来は図書館へ来て二年前の事件を記したものを探し出していた。
あったのは校長の付けていた資料だった。
殺害と魔女との契約の罪を着せられたもののカクラン・アニールは表立って名前を伏せられ死刑を免れた。これもカトゥルス王国女王、ホワン・カニスとブリザードラゴンのリーダー、ルウブ・グラシエースが裏で手を打ったのだろう。人間の血を引いた者の裁判は純粋なティーアンの血を引いた者よりになりやすいため私はこれで良かったと思う。
きっとルウブ・グラシエースの身に何かがあればこの現状は崩れてしまうだろう、そうならない事を切に願う。
「ねぇ、名前伏せた意味無いよね? 私達見れちゃってるんだし」
「ゲレイン居なかったら見れなかったけどね、ゲレイン?」
座っているレゲインは資料を見ながら考え込んでいる。
レゲイン、意外とカクランの事心配してるのかな?
「これじゃあ、あいつが殺したのかは分からねぇな」
「何で? 殺害って書いてあるじゃん」
「でも、着せられたとしか書いてないし、それだとカクランが魔女と契約した事になるよ?」
美来が言い出しそうのない推理を出すのでバムはレゲインを見る。
「ゲレンデ、美来ちゃんに何か吹き込んだでしょ」
「別に、魔女の契約の話を毎日話しただけだよ。聞かれたから」
レゲインはバムを見上げた。
「それを吹き込むって言うの! 美来ちゃんは犬じゃないんだから」
レゲインが本の方を向き直ったのを見たバムは何かを察した。
「他にも吹き込んだでしょ?」
「さぁ? 色々と知識ついていいじゃねぇか。それに、少なくとも契約の線は濡れ衣だな」
「何で分かるの?」
バムは椅子についていた手を放す。
レゲインは椅子に座ったまま体ごと美来の方を向く。
「掟に忠実なドラゴンが魔女なんかと契約した人の味方なんてしないよ、それが家族でもね」
「そうなの?」
でも、ルウブってカクランなら契約してなくても味方しなさそうなんだけどなぁ。
図書館で他に本を探してもこれ以上の収穫は無く、魔女とは契約をしておらず殺害の罪を着せられたという事ぐらいしか分からなかった。
その日はカクランが普通に授業をしていた。
「他世界にはまぁ、見たことあるだろうから言うまでもない気がするけど、人間以外にエルフとか猫耳とか生えた萌え感を求めたような奴らもいるんだ」
美来はいつも通りに明るく話すカクランをじっと見ていた。
猫耳生えたって、カクランが言うかな……ティーアンだって変わらない気がするけど。それに、コスプレした人間みたいにケモミミつけた人達に萌えを追求したとか言われたくないと思う。
あれっ? カクランが他種族をディスった?
「あいつらは普通の耳がある所髪で隠してるけど一体どうなってんだか。脳内の構造もきっと違うんだろうな」
もう授業とは言えないだろう。カクランの自問自答の独り言って言っても過言じゃないよ。
「実は最近、新たにこの世界内の貿易の場を取り締まる仕事が増やされて、君達の選択も一つ増えたわけだ」
カクランは多分この進路の話を持ち出すための前振りのつもりであんな話をしていたのだろう。しかし、美来を含めたほとんどの人は無反応で聞いていた。
行きの詰まりそうなほど静かでつまらない授業が終わるとカクランが美来達三人を呼び止め、美来達とグループルームに入る。
当たり前のように余っている椅子の一つに座る。
バム、美来、レゲインは反対側の椅子に座る。
「んで、話ってなんだよ」
カクランは姿勢良く座り膝の上に手を置き三人を見る。
「昨日聞かれたことなんだけどね、僕は隠すつもりもないから答えるよ」
いつに無く真剣な目をして話を切り出すのでバムも美来も真剣になる。レゲインはいつもよりジトッとした目で頬杖をついて見ている。
「で、でも、先生昨日あんな事になったし、辛そうだったから。そんなに無理しなくても……」
「へぇ、殺人犯に優しいね」
バムはいつもと違う狂気と寂しさの混じったような笑顔をカクランに向けられ言葉に詰まる。
「僕はあの時、自分のクラスメイト全員を殺してしまったんだ、その事実は変わらない。自分でもあの時何が起きていたのかすらよく分からなかったんだから……ただ自分が殺ったことしか」
カクランはさっきの笑顔を消し真剣に話した。




