眠い理由
カクランは暗い顔をして店街を歩いていた。
僕はもう……こんな所に居られないはずだ。
美来とバム、レゲインは店の裏を話しながら歩いていた。いつもと違い美来は二人の後ろをトボトボと歩いていた。今朝から夢は見なかったものの眠たくて仕方ないのだ、寝ていないわけではなかった。
「えっじゃあ美来ちゃん、ゲレインの所に来たの?」
「あぁ、お前、昨日あんな調子だったろ? 俺には理解できねぇが、気でも使ったんだろ」
「調子悪いわけじゃ……」
ーードカッ……
すぐそばから殴る音と殴られて噎せ返る声が聞こえた。
美来は急いでバムとレゲインを置いてその方向へ向かった。
「あっ! 美来ちゃん待ってよ」
美来は路地を覗いて驚く、そこにはカクランが倒れて蹴り飛ばされていた。
抵抗のできるはずのカクランは一切手を出さずただ罵声を浴びせられながら全身を踏みつけられているだけだった。それも生徒に。
美来は慌ててカクランとその生徒数名の間に入った。
「や、やめてくださいっ!」
カクランは美来のほうを見上げた。
「人間……お前なんかに止められるわけないだろ」
相手は拳を振り上げる。美来は拳が振り下ろされる瞬間目を瞑った。
ーーパシッ!
だが、肩に手を置かれている感覚と殴られるような音ではない高い音が聞こえゆっくり目を開けた。
相手の拳は美来の後ろから伸びた手で止められていた。少し横を振り向くとカクランが起き上がって美来の肩に片手を置いている。
「カクラン……」
「お前ら、オレに手を出すのは分かるけど、美来まで殴るのはおかしいだろ?」
相手の生徒はカクランに睨まれ拳を下ろし悔しそうに逃げていった。
カクランも人を睨んだりするんだ、いつもニコニコしてるのに。
「美来……大丈夫かな?」
「う、うん。私はカクランが止めてくれたから殴られてないし大丈夫」
殴られて苦しいはずなのにさっきの事が嘘のように笑っていた。
「美来ちゃん!」
「美来……って、何でキツネそんなボロボロなんだよ?」
レゲインとバムが駆けつけた。
カクランはのんきに笑う。
「何か因縁つけられてね、手を出すわけにもいかないし……っ」
カクランは相当なダメージを受けていたのだろう、表は明るく振舞っていたが一歩踏み出した瞬間倒れてしまった。
「カクラン!」
レゲインはしゃがんでカクランの容体を軽く見る。
「こいつ、よく肋骨折られて平気な顔してたな」
「えっ、じゃあ先生、内蔵とかも……」
「そりゃあ肋骨折れてんだ」
美来は横で座り込んでいて心配そうにカクランを見ていた。
「あ、バム、お前のカメラ使えば簡単に連れてけるんじゃねぇか?」
「あーゲレインさえてる」
レゲインは呆れた目でバムを睨んだ。
レゲインとバムは二つの病室の前の椅子に座っていた。
「まさか美来ちゃんまで倒れちゃうなんて、何でだろ?」
バムはレゲインのほうを向くが、あと三、四人は座れるであろう間を空け椅子の端にレゲインは座っていた。
バムもその反対側の端に座っている。
「何でって精神的なものじゃねぇの?」
なんて、想像源の使い過ぎだよ、流石に想像源が残ってても一気に大量に吸われたら眠気に襲われるのか……。
「……ゲレイン、何か隠してる?」
「別に」
いつものようにしれっとした態度だったがバムは疑わしくて仕方がなかった。
ゲレイン、美来ちゃんに何したのかな? 絶対何かしたよね? 何で隠す必要があるんだろ。
バムがそんなことを考えていると目の前に人の顔が来て驚いて頭を壁にぶつけた。
「やぁ、七班のバム……だっけ?」
「な、何?」
赤いスカーフを巻いた赤髪の男がニコニコしながら顔を離す。
「んん? このぼくを見て君は何も感じないのかな?」
「いや、何を感じるのさ……気取った感じの人を見て」
男はバムの隣に密着するように座りレゲインのほうを見る。
「ほほう、あの皆んなに憧れられる金髪をして足を組んで腕を組んで秘密主義に見えて、それをかっこいいと勘違いしている男を見てもぼくを気取っていると?」
レゲインはその言葉に反応したのか一瞬殺気のようなピリッとした空気が広がった。
バムは密着してくる男をドン引きした目で見ていた。
この男、自分も足組んで変な言葉遣いして何言ってんのかな?
「君達の目は節穴かな? この主人公候補でもあるぼくを見てときめかないはずがないだろう?」
あ、あ……この男、飛んだ勘違い野郎なんだね。想像源が多い人に時々あることだよ、気取り出したりする人って。
「いいかな、主人公は周りのヒロインにチヤホヤされるのが当たり前なんだよ?」
「ひっ!」
男がバムの肩に手を回したところでレゲインとバムの怒りは抑えられなくなった。
バムは男の手首を強く握り床に投げ倒し、レゲインは魔法陣の描かれた紙を取り出しロープで床に縛り付けた。
「てめぇ、気取ってんのはどっちだよ」
「いい? チヤホヤされない主人公だっているんだよ、理不尽な怒りに触れて……」
男は流石に青ざめて命乞いのようにわめいていた。もちろんレゲインとバムに袋叩きにされ、2という数字が載ったピンが床に転がった。
「何かあいつ先生みたいに女好きか知らないけど馴染めない」
「同感、キツネよりタチ悪いよ、あのトサカ」
珍しく意見が合ったバムとレゲインはまだ癒えない怒りをおさつつ美来の病室に入った。
レゲインはバムがよそを見ている間に美来が持っている無石を取りポケットにしまった。
「ゲレイン? 何かしてた?」
「何がだ?」
「うんん、何でもない」




